第5話 猫好きな猫と実戦
冒険者ギルドへ入ると、受付をしていたレリアーナさんと視線が合った。
キリッとした美女が、
今日もディオさんの頭に乗っていた私は、レリアーナさんのいる受付に飛び降りた。そして前足をあげて挨拶。
「
「はい、こんにちは」
ニコニコと嬉しそうに笑みを浮かべて子猫を撫でる姿は、周囲にいる冒険者の男たちの視線を集めている。
デレッとした顔をする男たちの中、相変わらずの無表情のままお兄さんが一枚の紙をレリアーナさんに差し出した。
「この依頼を受けたい」
「あ、はい! 少々お待ちを!」
お兄さんの前だったことを忘れていたのか、少し頬を赤くして照れていた。
レリアーナさんは帝都でも有名な【風雪のディオ】のファンらしく、お兄さんのことを「オルディオ”様”」と呼んでいる。
まぁ、お兄さんの顔は私の知るアイドルやモデルよりも整ったものだ。人気なのも頷ける。不愛想というか無表情なのも、「クールで素敵!」になるんだろう。うんうん。
そんなクールビューティーなお兄さんが、最近は子猫(のような魔物)を連れていると話題になり、副次的に私もマスコット的に人気になった。
ギルドの端に固まっていた女性グループに手を振ると、キャアキャア喜ばれる。凄い、私。
そんなサービス精神なんて持っていないお兄さんは、ただ静かにレリアーナさんの仕事を待っている。
「えっと……本当にこの依頼を……?」
そう戸惑った顔で依頼書とお兄さんの顔を交互に見るレリアーナさんに、お兄さんが冷静に答えた。
「今日はルフスの訓練のついでだ」
「えっ⁉」
驚きに目を見開いて私を見る彼女に、えっへんと胸を張る。
そう。今日は私の、実戦経験の日なのだ。
心配そうなレリアーナさんに見送られ、私とお兄さんはミアの森に来た。
ここは私が子猫として目を覚まし、お兄さんと出逢った場所である。別名「迷いの森」。
特殊な魔力の流れがあり、森の中にいる生き物に影響を与える不思議な場所だ。
まぁ、私もここへ来たのは最初と、侵入した冒険者たちの救援依頼で入った時だけなので詳しくはない。
【
ちなみに女性冒険者とギルド受付嬢の間では圧倒的にお兄さんが人気だ。理由はもちろん、顔が良いから。これが女社会だ。
「今日の目標は、ウッドスライムが5体だ。ウッドスライムは樹に
「
「新人冒険者がこの依頼で最初に学ぶのが、隠れている魔物を探す観察力、森の中で動き回る体力、そして一番大事なのが、集中力だ」
「
「森の中、狙いのウッドスライムだけと
「
とっても良い返事をする私の視線は、すでに森へ釘付けだ。
ようやく、よぉぉやく! お兄さんの役に立つ為の第一歩を刻めるのだ! 今の私はスライムだろうがフレイムボアだろうが、バッチコーイである。
ふんふん鼻息荒い私に苦笑するも、お兄さんも特に止めなかった。
「じゃあ、始め」
「
ふぅ、と少し落ち着いて息をはく。そして目を閉じる。
まずは気配を感じて、近くに危険がないかチェックする。大丈夫。
次に魔力を持った生き物の気配を探っていく。意識を薄く外に伸ばすように、ただの魔力を放った。4つほどの気配を感じた。
「
一番近い気配のあった場所まで、私が先頭を歩き、お兄さんは何も言わずに着いて来る。
こういった基礎は、すでに宿での座学や平原での魔法練習で教わっていた。魔法という形にせず、ただ魔力を放ってレーダーのように探知する方法も、その時に教わった。
この探知方法は普通に魔法を使うより難しいとのことだったが、新たに生えた紫の尻尾のおかげで、その辺は問題なくクリアできた。
なんというか、自分で具体的にやり方を考えなくても、こういうことしたいなぁ、と思えば尻尾があとは操作してくれる。まるで尻尾に別の思考があるようだ。
そんな馬鹿な考えが浮かんだけど、深く考えると気持ち悪かったのでやめた。
「ふんふん」
気配を感じる樹の根本に立ち、鼻で匂いを嗅ぐ。魔力で強化された私の鼻は、樹以外の匂いを察知した。
ジーッと根本から上へ睨むように観察すると、わずかに
「
今回はクリスタルドラゴンの
最初は火の魔法を使うつもりだったのだが、平原での事前確認で駄目だしされた。
なんで駄目なんだろうと首を傾げる私に、お兄さんが真面目な顔で説明してくれた。
『今回の目的地は森だ。周囲は燃えやすい物だらけ。そんな場所で
その通りだったので私も真面目な顔で頷いた。山火事、ダメ。
フレイムボアもそういった意味では危険極まりないのだが、本来は樹を燃やせるほどの魔法は使えないとのこと。私が唯一見たことがあるフレイムボアは、このミアの森の影響で強化された個体なので、結構強い魔法を使うイメージがあった。
という予習を踏まえ、私はドラゴンがやっていたように先が
グシャッという音と共に、魔力の反応がなくなる。
お兄さんが穴に近寄り穴の中を確認すると、そこからくすんだ色をした割れた石のような物を取り出した。
「これがスライムの核だ。割れると力を失い、溶けて核だけ残す。これがギルドへの討伐証明になるんだ」
つまり?
「よくやった」
そう微笑んで頭を撫でられた。
初戦は見事、私の勝利である! えっへん!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます