第4話 猫好きな猫と教会

 内容を抜粋しながら話してくれたお兄さんは、ふぅ、と息をついた。

 それに私はなんとか理解しようとにゃんにゃんうんうんうなっている。

 ちょっと難しい言葉とかがあって完全に理解できたかは分からないけど、とりあえず、一通りの話を聞いて思ったこと。


 勇者とか聖女とか、ましてや魔王がいたのか、この世界。


 驚きである。魔法があるファンタジーな世界だとは分かってたけど、まさかそんな要素まで。いや、フィクションじゃないんだから、要素とか言っちゃダメか。

 ふぅむ。


「この創世の女神と呼ばれているアラナティアは、他の神話では希望の女神だの愛の女神だの、別の神として登場することもあるんだが……まぁ、帝国では創世の女神としてまつられている。

 そして、この神話をもとに創られたのがアラナティア教だ。基本教義は、創世の女神が創りし世界を、邪神の眷属から守ること」


 そういって取り出したのは、教会関連の本だという1冊。

 いや、本というより……冊子? さっきは気付かなかったけど、本というには薄い内容量だ。

 その表紙には綺麗な女性の絵が描かれている。


「これはそのアラナティア教が出している本だ。神話について触れながら、教義について詳しく書かれている」


 開かれた冊子の中身は、まるで絵本のように絵が中心として構成されていた。

 パラパラと軽くページがめくられる。女神らしき女性と、その前にひざまずいた男女。


「例えば……この場面は、女神が勇者と聖女を選定したところか。ここには何故、勇者と聖女が選ばれたのか、何故彼らだったのか、そして彼らのように女神に選ばれるにはどのように生きればいいのかが書かれているな」

にゃむにゃむふむふむ

「これは魔王が誕生した場面。邪神の説明と一緒に、魔王や魔族、魔物が人間の敵だという風に書かれている」

にゃむにゃむふむふむ

「そして、問題がここだ」

にゅ?」


 そうお兄さんが開いたのは、見開きに女神と邪神が対立するように描かれているページだ。


「神話の中に、女神が奇跡を、邪神が混沌こんとんを、それぞれ眷属に与えたとあっただろう。その場面だ。教会はこの部分を指して、神を信じる者が使う力は聖なる神の『奇跡』であり、それ以外一切を邪神のもたらした魔力からなる『魔法』だと言っているんだ」

にゃーへぇ

「アラナティア教に属している聖職者は、自分の力を『奇跡』と表現する。同じく魔法を使える者ならともかく、魔法を使えない者からすると、本当に神の力だと思うやつも少なからずいるんだ。

 正直、それは構わないんだが……魔法を使うと、邪神の眷属だと疑われる風潮がある。それどころか信者か聖職者以外は、全て邪神の眷属だなんて言う過激派もいる」


 えぇ? そんな極端な。

 お兄さんも困ったように眉間に皺を寄せて、冊子に視線を落としている。


「だが魔法は魔法だ。よく見れば聖職者の言う『奇跡』も魔法だと分かる。それに教会関係者よりも、それ以外の方が圧倒的に多い。だから教会が表立ってそれを主張することはないが、否定することもしていない。

 そして何より問題なのが、今のアラナティア教の上層部にこの過激派がいることだ。そのせいで地域によっては、魔法が使える者の迫害がまかり通っている」

みゃぁおそんな……」


 お兄さんは迷うように一度言葉を止めると、小さな声で続けた。


「レヴァの両親は、その迫害にあったんだ」

にゃ?」

「レヴァには魔法が使えるほどの魔力はなかったんだが、親の方には十分な魔力があった。そのせいで、住んでいた村で迫害にい、その時に負った傷のせいで亡くなってしまった。

 村人も、殺すつもりはなかったんだろう。焦った村人は教会に泣きついた。教会はその事件を隠蔽いんぺいし、レヴァは教会に預けられた。3歳くらいの頃だったと聞いている」


 3歳。そんな幼い頃に、両親を亡くして、しかも事実を隠されたなんて。それが本当に神を信じる教会のすること?

 お兄さんは、カルパタの街を眺める。その視線は、たぶん冒険者ギルドのある方角を見ていた。


「教会は幼い子供の記憶など、すぐにかすんで忘れると思っていたんだろう。だがアイツは昔から頭が良くて、当時すでに両親が死んだ理由も、それが隠蔽されたことも理解できていた。

 レヴァが今、魔物研究者になっているのも、教会への当てつけも少なからずあるんだろう。魔物を研究すれば、自然と魔力や魔法についても触れることになる。魔物が使う魔法と、聖職者のいう『奇跡』。これが同じものだと証明してやるのが、アイツの復讐なんだ」

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