第3話 猫好きな猫と神話
夜になりギルドのレヴァさんの研究室から宿へと戻って来た。
日課になっている魔法書の音読をお兄さんにしてもらいながら、私は昼間にレヴァさんに聞いた話を思い出していた。
研究者として、宗教なんて
宗教や神というより、教会そのものを嫌っているようだった。
それと同時に、お兄さんが前に魔法の素質について教えてくれた時に、【光】【時】【空間】といった珍しい属性の素質が見つかると教会で保護されると苦々しく話していたのも思い出した。
この世界での教会がどういう存在なのか分からない。私が持つ教会のイメージは、神様がいかに凄いだとか、良いことをすれば天国に行けるだとか、そういう話をしたり、お祈りをしたりする場所。あと、結婚式。
多神教で無神論民といえる日本人の私には、宗教というものがイマイチ理解できないでいる。
「
「ルフス?」
こういう時に言葉が通じないというのは困る。質問したくても、私が伝えられるのは身振り手振りが限界。
あれは何か、これは何か、くらいの簡単なものならともかく、この世界の教会についてなんて難しい質問はどう聞けばいいのやら。
「さすがに飽きてきたか? そうだな、明日は本屋にでも行こうか」
「
そこで宗教関係の本をチョイスすれば、私がそれを知りたがっているのを分かってもらえるかもしれない!
機嫌良く鳴いた私に、お兄さんも微かに笑って首裏あたりを撫でた。
翌日、お兄さんに連れられカルパタの本屋に来ていた。
そして、ただいま第一関門にぶち当たっている。
「
そう、この世界の文字が読めない問題。並んでいる本が何の事柄について書かれているのか、サッパリである。
仕方ないので、棚ごとにお兄さんに確認する。文句も言わず付き合ってくれるお兄さんは本当に良い人だ。
「にゃ」
「ここは歴史関係だな」
「にゃ」
「料理や文化……あと裁縫、か?」
「にゃ」
「海洋に関するものだな。ルフス、魔法関連ならアッチだぞ?」
「にゃう」
確かにそれも大変興味あるのだが、私が今知りたいのはそっちじゃない。
プルプルと首を横に振る私に、お兄さんが考え込むように顎に手を添える。子猫と会話している成人男性は、周囲から大変微笑ましく見られているが、最近のお兄さんは気にしなくなってしまった。
もともとイケメンで視線を集めていたお兄さんだが、それでいいのだろうかと思ってしまう。
「魔法以外か……? 冒険に関わること、ではないのか。武器、は使えないから興味ないだろうし。物語でもないのか?」
「にゃう」
またプルプルと首を振る。
「そうなるとあとは……伝承・神話と、宗教か」
「
宗教という言葉に、ブンブン首を縦に振った。
それにお兄さんは訝し気にしながらも、私を抱え上げて1つの棚の前まで移動してくれた。
「宗教に興味があるのか? もしかして、昨日のレヴァの話が原因か」
「み」
こくりと頷くと、少し黙ったお兄さんは3冊の本を棚から取り出した。
「これとこれが教会に関するもの、これは代表的な神話だ。これで良いか?」
「
満足気にふんふん鼻を鳴らすと、お兄さんも視線を和らげて頭を撫でた。
それから魔法関連の本も2冊ほど買ってもらって、本屋を後にする。
「今日は天気が良いから、また草原に行くか」
空を見上げたお兄さんがそう呟いた。青い空に白い雲がプカプカと泳ぐ、気持ちのいい天気だ。
屋台でお昼ご飯も買って、以前、魔法の練習の為に訪れた草原へとやって来た。
本とご飯で両腕が埋まっているお兄さんの頭から飛び降りた私は、うーんと身体を伸ばす。
そう日は経っていないのに、あのドラゴン退治の時間が濃密過ぎて、随分と久し振りに来たように感じるよ。
しかし今日の用事は魔法ではないのだ。
地面に座ったディオさんの膝に乗ると、目の前で1冊の本を開く。神話の本だと言っていた物だ。
「まずは、大前提の神話からにしよう」
「にゃ!」
「これはカルパタを含む帝国が認めている神話だ。あー、人間には複数の神話があるんだ。これはその中の1つとして聞いてくれ」
私が頷くと、苦笑して頭をポンポンする。
「お前は本当に賢いな」
それからお兄さんは、この国の神話を読み上げてくれた。
*****
女神に愛され、精霊の助けを受けて、人間にとっての楽園がそこにはあった。
しかし、そこに邪神ガレーシアが現れる。
邪神は女神の世界に
女神の聖なる力で
狂暴な邪神の眷属に対し、平和を
己の眷属が次々に邪神の手にかかっていくのを見て、心優しき女神は悲しんだ。どうすれば人間や精霊を助けられるかと考えた。
そんな女神へ、声を届けた人間の男女がいた。人間の中でも飛びぬけて信心深く、
彼らは女神に対し、自分たちが世界を救ってみせると答えた。その聖なる心の在り方に、女神も応えた。
そして生まれたのが、勇者と聖女である。
勇者と聖女は力を合わせ、邪神の眷属と戦った。そんな彼らの姿を受け、優しき人間や精霊も戦う覚悟を決める。
女神は己の眷属に、奇跡を起こす力を与えた。
邪神もそれに対抗するべく、混沌を
こうして女神と邪神の眷属たちは戦いを続け、
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