第38話 猫好きな猫と依頼達成
クリスタルドラゴンが完全に動かなくなったのを確認して、騎士団と冒険者の一団は大きな歓声を上げた。
ドラゴン討伐は聞くところによると随分と凄いことらしいし、目立った死傷者もなく
騎士団は
ちなみに私も称号よりもお金のほうが嬉しい。ご飯がいっぱい食べられるからね!
クリスタルドラゴンやリザードの身体は素材として売れるので、皆で山分けする。
なんと、私にも個人(?)で山分けされました!
「チビ助がドラゴンを引き付けたり、怒らせて無駄に体力を減らしてくれたおかげでもあるからな! 遠慮すんなよ!」
「
そうメイダルダンさんに言われ、皆から代わる代わる頭を撫でられた。
ま、まぁ、そのせいで私の
最後の1人が頭を撫で終わり、お兄さんに
怒られるかと思ったが、軽く溜め息をつかれただけで、最後にはお兄さんも苦笑しつつも褒めてくれたのだった。
見事リザード、ドラゴンが討伐されたことを、後方部隊に戻った皆から報告された待機組の歓声が聞こえる。
長いこと脅威に
そんな声を遠くに聞きながら、私はアレナちゃんの家の前にいた。
「にゃーん」
ドアの前で大人しくお座りして、ただ声をかける。
家の中から気配は動いていないので、まだアレナちゃんはいると思う。
「にゃーん」
中まで声は届いていると思うのだが、うんともすんとも反応がない。
おかしいな、と私が首を傾げていると、それを後ろから見守っていてくれたお兄さんが、代わりにソッとドアを開けて中を覗いた。
そして私を手招きするので従って肩に飛び乗ると、そこには床に転がったまま丸まって眠っているアレナちゃんがいた。
何かを抱き締めているらしく腕を胸の前で交差させ、その顔には涙の跡と目じりの赤みが残っている。
泣き疲れて眠ってしまったようだ。
「
「とりあえず、母親のところまで連れて行こう」
お兄さんは眠るアレナちゃんを起こさないように、丁寧に抱き上げる。その時、アレナちゃんが抱き締めていた物が床に転がった。
シンプルなデザインのブレスレットだった。サイズからして、男性用のようだ。
おそらく、アレナちゃんのお父さんの物だと思う。
私はそれを、ソッと口に
「アレナっ!」
テントから駆け寄ってきたアレナちゃんのお母さんは、涙を瞳にいっぱい溜めながらも、お兄さんの腕で寝息を立てている娘に
お兄さんからアレナちゃんを受け取ると、少しだけギュッと抱き締めると、頭を下げた。
「ありがとうございます、オルディオさん」
「いや。俺はここまで連れてきただけだ。見守っていたのは、コイツだからな」
そういうと、お兄さんは私を抱き上げた。
目の前に掲げられた私の口に咥えられているブレスレットを見て、お母さんが驚きの声をあげる。
「それは……あの人の……」
「その子が持っていた」
「そう…………ありがとう、持ってきてくれて。貴女には重かったでしょう」
優しい笑みを浮かべたお母さんに頭を撫でられ、その手にブレスレットを渡した。
アレナちゃんはまだ起きる気配はない。ぐっすり眠っている。小さな寝息を立てていた口から、微かに聞こえた。
「お……とう、さ……」
そう零すと、近くにあったお母さんの服を、ギュッと握り締めた。
「……夫は、半年ほど前にリザードに殺されてしまって。それからずっと
「……そうか。最初にただの猫ではないと説明しなかった、こちらの落ち度だ。すまない」
「いえ! 私も気付いても、嬉しそうな娘の顔を見ていたら、言いそびれてしまっていましたから。猫ちゃんには、悲しい思いをさせてしまったわ。あんなに構ってくれていたのに、ごめんなさいね」
「にゃーう」
ブンブンと首を横に振る私に、アレナちゃんのお母さんはまた優しい笑顔を浮かべ、それから私達に再度頭を下げた。
*****
素材として売れる部位を回収したり、壊れた家屋や柵の修繕。坑道内の魔物調査を終えて、ついにオンラルク鉱山での依頼は完了した。
ドラゴン討伐から3日が経っている。
その間、ルフスは遠目にあの子供の様子を眺めるだけで、自分から近寄ることはなかった。
「いいのか?」
すでに帰り支度は終わり、村長と騎士団のミネルバが最後の挨拶を交わしている。騎士団は馬に乗って先行して街へと戻り、俺たち冒険者は後からゆっくり進むことになっていた。
肩に乗ったまま子供を見つめていたルフスは、小さく鳴くと俺の頬に擦り寄った。その頭を軽く撫でてやる。
賢いコイツは、何故いきなり怯えられ、距離を置かれたのか理解しているだろう。
それでも、短期間でも仲良くしていた相手に避けられるのは、とても寂しそうだった。
ルフスをよく構っている冒険者たちやミネルバも、元気のない様子を心配そうに見ていた。
いつもは機嫌よく揺れている尻尾も、今はただ垂れ下がっている。
「――では、私たちはこれにて」
「はい! ありがとうございました!」
ミネルバたちの挨拶も終わったようで、騎士たちが馬へ跨っていく。
最後にミネルバが先頭にて馬に乗ると、力強く号令をかけた。
「出発!」
騎士団が徐々にスピードを上げながら、村から離れていく。それを村人が感謝の声で送り出した。
「さぁて、俺らも帰るか!」
メイダルダンの掛け声で、冒険者勢も歩き出す。
ここへ向かった時は急ぎ駆けてきた俺も、今度は他の冒険者と共にゆっくり帰ることにする。
報告は騎士団が先にしてくれる為、別段急ぐ必要もない。
ルフスは、最後にチラリと村を振り返った。その視線の先には、母親の後ろに隠れるようにして立つ子供の姿がある。
その視線がルフスに向いた気がした時、ルフスが肩から飛び降りた。
「ルフス?」
1匹だけ戻って来た子猫の姿に、他の村人は不思議そうにしている。
そして未だに
ジッと子供の目を見つめていたルフスは、いつものように片足を上げる。
「なーう」
そう優しい声音で鳴くと、最後に母親へペコリと頭を下げ、こちらへ駆け戻って来た。
勢いよく跳び付いたルフスを、しっかりと抱き止める。
「……帰るか」
「……にゃう」
ソッと耳の後ろを撫でて、俺も一団の後を追う。
「――ねこちゃん!!」
その時、村の方からあの子供の声が聞こえた。
ピンと立った耳と尻尾に苦笑しつつ、身体ごと振り返る。
「バイバイ!」
母親の後ろからではなく、誰よりも前へ出ながら手を振る子供。
その姿に、腕の中のルフスも、嬉しそうに尻尾を揺らした。
「にゃーう!!」
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