第11話 猫好きな猫と冒険者③

 お兄さんが渡した治癒のポーションを使ったのか、エレキガルさんも他5人も目立った怪我はなくなっていた。

 意識はないが呼吸が安定している2人と、怪我はなくなっても疲労困憊の様子の4人。

 その中でも、お兄さんが近付けばエレキガルさんは強く立ち上がった。


「……なんで、お前がここに」

「ギルドから要請があったからだ。ミアの森に入った馬鹿がいるから連れ戻せと」

「……」


 お、お兄さん! 言い方、言い方!

 確かにエレキガルさんも未だにお兄さんを睨みつけたりと態度はどうかと思うけど、もっと優しめに言おう⁉︎

 ディオさんの言葉に微妙に顔を赤くしたのを見て、怒っちゃうかと私がハラハラする。

 しかし、一度お兄さんから視線を逸らしたエレキガルさんは、深呼吸を1つすると、先程よりも真面目な顔で小さく頭を下げた。


「すまん、助かった」

「……そのポーションはギルドからの貸しだ。恩を感じるならそっちに」

「いや、お前が来なかったら……少なくとも、エンヤとガンは間に合わなかっただろう。俺の判断ミスで、仲間を死なせちまうところだった」


 そしてもう一度、深く頭を下げる。

 仲間を庇って1人でも戦っていたし、根は優しい人、なのかな?

 お兄さんもそれ以上は何も言わなかった。

 とにかく、全員無事なようで何よりですね!


にゃんにゃん良かった良かった

「ん?」


 その時、猫の鳴き声でようやく気付いたのか、エレキガルさんの視線が私に向いた。

 お兄さんの頭に飛び乗り、お座りの態勢で前足をあげて挨拶。


にゃんにゃこんにちは

「……」


 すると、ポカンとした表情で固まってしまった。

 かと思えば、お腹を抱えて爆笑し出しました。


「あっはっはっは! 何だそれは! お前、いつからペットを連れ歩くようになったんだ⁉︎」

「ペットじゃない。ルフスだ」

にゃんどうも!」

「はっはっは! その仏頂面で! 似合わねぇなぁ、おい! あっはっはっは!」




 その後も暫く笑い転げていたエレキガルさん。どうやら彼なりのツボに入ってしまったらしい。

 大きな笑い声に気絶していた2人も目を覚まし、笑い続けるエレキガルさんと、それを微妙な顔で眺めるディオさんに困惑していた。


「おい、いつまで笑っている」

「くっくっく……待て、い、今話しかけ……ブフッ」


 実は2人は仲良しなのではないのか?

 私はというと、お兄さんのように笑い上戸に付き合う気もなく、フレイムボアの死体を観察している。

 切断面を見ると、うわぁ、と思うのと同時にやっぱり、美味しそう、と思った。これってヤバイ?

 クンクンと匂いを嗅いだり、足で突いてみたり、相手が死体だからこそ色々できる。

 それにしても、本当におっきいなぁ。小柄な子猫の身体が更に小さく感じる。

 尻尾の方に回り込んでみると、さすがにもう燃えてはいなかった。何で尻尾燃えてたんだろ。

 燃えていない尻尾は普通の尻尾にしか見えず、火が出そうな感じはしない。

 そういえば尻尾から火弾とか飛ばしてたし、魔法的な……体質? 魔物って難しい。

 私も魔物の一種らしいけど、それらしい感じはないしなぁ。


「はぁ……そういやあのちっこいの、何か【魔女の使者】っぽいんだが?」

「レヴァに聞いたが、それに似た新種の可能性が高いらしい」

「新種⁉︎ おいおい、また大層なもん連れてんな」

「といってもただの猫と変わらん……ルフス?」


 私も魔法って使えるのかなぁ。魔法の魔が入ってるくらいだし、魔力だってあるんだし、気合で何か出ないか?


「ルフス。どうした」

「なんか熱心にフレイムボア見てんな」


 名前からして、この魔物は火の魔法しか使えなさそう……体質って考えれば、そういう身体――肉をしているってことだよね。


「初めて近くで見たんだろうな」

「ははーん。しっかし、あんなに近付いて、今にも食っちまいそうだな!」

「何を馬鹿な」


 パクッ


「……」

「……なぁ、今」


 モグモグ


「……」

「おい、やっぱり食ってねぇか⁉︎」


 ゴックン


ふみゃうわっ⁉︎」

「もう飲み込んだのか⁉︎」


 いきなり抱き抱えられたと思ったら、指で思いっきり口を開かされました。

 飲み込んだのを確認すると、今度は背中をパシパシ叩かれる。


「馬鹿! 吐き出せ!」

にゃふなんで!?」

「魔物といえど子供の身体で食っていい代物じゃないだろう!?」


 そ、そうなの?

 正直、食べた感想……味は美味しかったです。魔物だからなのか、やはり猫は肉食だからなのか。

 でも、確かに子供の身体じゃちゃんと消化できるか不安ではある。

 お腹壊す程度ならともかく、し、死んだりとかは嫌だよ!?


みゅぅうぅ……」


 お兄さんが背中を叩いているからか、喉奥から何か出そうな感覚が。

 うぅ、さすがに子猫の姿とはいえ人前で吐くのはっ。

 だが、私の躊躇いに関わらず、せり上がってくるのは止まることなく――そのまま吐き出した。


 ボワッ


ふにゃぁぁあうわぁぁあ!?」


 一瞬、目の前が赤くなり、鼻先に熱を感じた。

 突然のことに、お兄さんに抱えられたままバタバタと暴れてしまう。毛もブワッてなったよ!


にゃ、うあ、れ……?」


 特に何かを吐いた形跡はないが、気だるさと不快感を感じる。

 段々とその感覚は強くなり、耐えきれず私は気を失った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る