第4話 猫好きな猫とフードの人②

 いや、まぁ、確かにハルくんを眺めながら「私も猫になれたらなぁ」とか、思ったこともありますよ?

 自由気ままに生きてる猫ちゃん達を、羨ましいなぁと思ってこともありますけど。

 でも、本当に猫になるとは思わないじゃないか!

 何⁉︎ 猫好きは一周回ると猫になっちゃうのか⁉︎


「おい」

「にゃ?」


 ウンウンというかニャンニャン唸っていると、フードの人に改めて話しかけられた。

 私の目の前に胡座あぐらをかいて座ると、しっかりとこちらに視線を合わせてくる。


「お前は魔物か?」

にゅまもの? ……にゃ、にゃあって、魔物⁉︎」

「……にゃあにゃあ言われても俺には分からん。首を振るとかにしてくれ」


 首を横にプルプル振る。どう見ても、私はいたいけな子猫でしょう! というか、魔物ってどういうこと⁉︎

 しかし、フードの人は変わらずこちらを訝しげに見てくる。


「しかし、お前のその見た目……黒い毛に紅い眼は、【魔女の使者】と同じだ。いや、お前ほど小さい個体はいないはずだが」


 魔女の使者って、不吉な黒猫の話ですか? あと今の私の眼って紅なのか。


「……その身体なら、まだ子供だろう。親は近くにいるのか」

にゃんいないです


 それどころか、ここがどこかもわからないっす。

 また首を横に振ると、難しい顔で黙ってしまった。

 美形さんはどんな顔してても美形だなぁ。本当、同じ世界に生きてる? っていうくらいの顔だよ。

 それに、さっきの猪みないなヤツ。アイツも同じ世界の生き物かよって、見た目だったなぁ。

 ……普通いないよね、少なくとも尻尾が燃えてるヤツ。


 目が覚めたら猫になっている私。


 リアルとは思えない美形なお兄さん。


 猪の似たよく分からない生き物。


 これを総合すると…………夢か? 私の名前は夢だけど、そういう意味でつけられたわけじゃないぞ。

 とりあえず、肉球で地面をテシテシする。うん、ちゃんと感触がある。

 つまり、夢じゃない。

 ということは……?


「仕方ない」

「ふにゃ⁉︎」


 受け止めきれない現実に思わず遠い目をしていると、またもや身体を持ち上げられ。

 そして、割と雑に肩から下がっていた鞄の中へ押し込められた。ふぎゅ。


にゃあにゃあ何するんですか⁉︎」

「文句を言っているのだろうな、というのはわかるな。ここは危険だから、近くの街まで連れて行くぞ。いいな?」

に、にゃんえ、はい






 気軽に、はい、何て言ったのが間違いだった。


「にゅぅぅー……」

「大丈夫か?」


 目を回している私を心配そうにしているお兄さん。

 いやね、さっきの気配の動きからしてお兄さんが馬鹿すごいスピードで移動するのはわかってたよ。

 でも、実際に自分がそのスピードで、しかも鞄の中に入ったまま体感するとヤバかった。

 内臓が置き去りにされたような感覚に、鞄の振動がプラスされて、かなりグロッキーです。

 吐かなかっただけ良かった。

 お兄さんの言った通り、今はどこかの街に入り宿らしい一室にいる。着いた時はそんな場合じゃなくて、周りは見れなかったけど。

 宿のベッドの上に置かれて、気分が回復するのを待った。


「ほら、飲めるか」

にゅ……?」


 目の前に差し出されたのは、白い液体……匂いからして、ミルクかな?

 飲みやすいようにか、小さなスプーンにすくって口元までわざわざ持ってきてくれる。

 酔っていて忘れていたけど、そういえば空腹でもあったんだった。それも相まって酔いやすかったのかな。

 匂いに食欲を刺激され、チロ、とひと舐め。


「みゅ⁉︎」


 え! 何これ、うまっ!

 酔いも吹き飛ぶほど、ミルクの味に感動した。

 何のミルクか知らないけど、こんな美味しいミルクって存在するんだ。

 一気に元気になってペロペロと飲み始めた私の様子に、お兄さんは安心したように息をついた。


「その様子だと、もう大丈夫なようだな」

「ペロペロ……にゃあにゃお騒がせしました


 ペコリと頭を下げると、雑だけど優しめに頭を撫でられた。

 その暖かいてのひらの温度に、今度は睡魔が襲ってくる。

 子猫の弱い身体、そしてここまでの現実とは思えない事件の数々に、思っていたよりつかれていたようだ。

 そんな私に気付いたのか、お兄さんはソッとタオルをかけてくれた。

 お世話をおかけして申し訳ないな、とは思うものの落ちたまぶたはなかなか重くて、そのまま私は眠ってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る