第2話 猫好きな〇〇

 帰り道、部活も引退し3人揃って歩く。

 会話の中身は、最近はもっぱら私のハルくん談議。

 たまに野良猫ちゃんにも構っちゃうのは、許してほしい。


「あぁぁ可愛いねぇぇ」

「浮気だ」

「ハルくんは別腹だから」

「デザート感覚だね〜」


 道路脇に伏せていた猫ちゃんの頭を撫でさせてもらう。

 人馴れしているのか、どこかに飼われているのか、近付いても触っても逃げない。

 ハルくんに比べると少し毛が硬いけど、これはこれで最高。

 喉元を撫でると気持ち良さそうに耳がピコピコするのが可愛い。


「ほら、そろそろ行くよ」

「あぅ、バイバイ猫ちゃん」

「バイバイ〜」


 晶に引きられるようにして猫ちゃんから離れた。


「夢って本当に昔は犬派だったの?」

「そうだよー。しかし、ハルくんに私の心は撃ち抜かれたのさ」

「ハルくん可愛いもんね〜」

「そうなんだよぉぉ、ツンなところもデレなところも大好きです!」

「ちょっと、声大きいっ」


 バシッと口を押さえられ、ちょっと鼻にも当たった。いてて。

 それで少し落ち着くと、視界の端に猫ちゃんの尻尾が見えた。あれは、さっき構ってくれた猫ちゃん?

 晶と紗季はおしゃべりしてて気付いていないようで、私はそっと猫ちゃんを眺めてなごんでいた。

 そして――。


「えっ、ちょっと夢⁉︎」

「夢ちゃん⁉︎」


 驚く晶と紗季の声が後ろから聞こえる。

 でも必死に足を動かし、手を伸ばした私は止まれなかった。

 歩道横の草むらから飛び出した猫ちゃんは、赤信号の道路へ。

 運悪く、車が迫り。

 私の身体も、道路へおどり出た。



 両腕で猫ちゃんを抱き抱えられたと思った瞬間、身体の右半身に強い衝撃を感じた。

 痛いとか、苦しいとか、そういった感覚はなかったと思う。

 ただ、最後まで両腕の中で庇った温もりに安堵した途端、私の意識は薄れていった。






 何かが鼻先に触れる感覚で、急速に意識が浮上した。


「っくしゅ」


 あれ私ってこんな可愛いくしゃみ出来たんだ、とかいつも通りくだらないことが思い浮かんだ。

 目を開くと、目の前は緑色。これは、草かな。地面は土だ。

 軽く辺りを見渡すと、周囲は木に囲まれている。

 私、いつの間に登山に来たんだっけ? 首を傾げつつ、身体を起こした。

 が。


「……」


 ひ、低い! いや、周りがデカいのか⁉︎

 目の前の草も、周囲の木も、普段の私からは考えられない程の高さがある。

 それに、起き上がる時、なんか身体がおかしいような気もした。

 とりあえず、両手を目の前に持ってくる。

 はわぁ! こ、これは猫ちゃんのお手手じゃないですか! どこにいるんですか猫ちゃん!

 って、そうじゃない。今、私は自分の手を持ってきたはずなんだけど……?

 両手に力を入れてみる。目の前のお手手がニギニギした。可愛いいぃぃ!

 

にゃんにゃにゃいや落ち着け……にゃ?」


 ……。


にゃーあー


 ……。

 顔を触る。肉球の感触と共に、フワフワした毛の感触。

 頭を触る。ピコン、と揺れる耳の感触。

 恐る恐る後ろを見る。さっきから何かあるな、とは思っていたが……私の意思で動く、細長い尻尾。


にゃ、にゃにゃにゃーにゃ、にゃんですとー⁉︎」

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