猫又(わたし)は新種モンスター

猫又 ロイ

第1章 私は猫好きな猫

第1話 猫好きな私

 フニフニの肉球。柔らかな毛で覆われた体。仕舞われたままの爪。ゆらりと揺れるしなやかな尻尾。ピコピコと反応する耳。

 気分屋で擦り寄ってきたかと思えば、こちらからの手はツンと無視。

 しかし、その甘い鳴き声に抗うことなどできないっ。


「あぁぁ可愛いよぉぉぉ」

「お姉ちゃん、うるさい」


 ゴロゴロと床を転がり悶えていると、通りかかった妹からの辛辣な一言。


「ハルくんが可愛すぎるのがいけない」


 キリッと真面目な顔で返せば、これ以上ないってくらい馬鹿を見る目をされた。

 酷い! 私はそんな子に育てた覚えはありません!


「おかあさーん、お姉ちゃんがまた変なこと言ってるー」

「変じゃないよ! ハルくんの可愛さは変じゃない!」

「ちょっと夢、アンタそこで転がると服がハルくんので毛塗れになるんだから、やめてよ」

「そこが良いんじゃないのさ!」


 奥から出てきたお母さんから呆れた視線を向けられようと、私はやめない。むしろ毛塗れ最高。


「ねぇ、ハルくん!」

「にー」

「あぁぁぁぁ」

『うるさい』


 母妹からしばかれようと、私は幸せいっぱいである。



 2年前に拾った子猫のハルくん。まだ夜は肌寒い春先に、玄関近くに倒れていたのを私が見つけた。

 それまで、どちらかと言えば犬派だった私。

 しかし、ハルくんの誘惑には勝てなかった。

 ツンデレな猫、可愛すぎる。


「えへへ〜」


 教室にて、お弁当を突きつつスマホでハルくんの写真を眺める至福の時間。

 私のスマホのアルバムは、すっかりハルくん(偶に野良)写真集と化している。


「夢、ご飯食べるかハルくん愛でるかどっちかにしなよ」

「お口から零れちゃうよ〜」


 呆れた顔の晶と、アワアワと私の世話を焼いてくれる紗季。

 いつもの顔ぶれで、昼食タイム。

 姉御肌の晶と母性の紗季のおかげで、私はすっかり甘やかされております。

 本当に長女? と疑われるくらいしっかりしていない自信がある、今日この頃。


「見て見て、このハルくん可愛すぎない? 天使だよね? ね?」

「はいはい、可愛い可愛い」

「うん、とっても可愛いね〜」


 晶は面倒くさそうにしつつもちゃんと返事してくれるし、紗季は優しい笑顔で頷いてくれる。

 あぁぁ、幸せだなぁ。


「卒業したくないなぁ」


 私達はもう高校3年生。季節は12月。卒業まで、あと3ヶ月程。

 頭の良い晶は、東京にある有名大学。しかも留学する予定。

 子供好きな紗季は、保育士になる為に専門学校へ。

 私は、晶ほどの頭もないし、紗季のようになりたい職業もない。とりあえず、4年生大学には行く。


「……」

「夢ちゃん、ちゃんとご飯は食べないと駄目だよ〜?」

「あぁぁ、紗季は私の第2の母だよぉ」

「え〜? ふふ、私も夢ちゃんみたいな娘だったら欲しいな〜」

「ありがとー! それで、晶はお姉ちゃん。はいもう幸せ」

「はいはい」


 紗季に抱きつくとニコニコと抱き返してくれて、晶には軽く頭を撫でられた。

 1年で同じクラスになり仲良くなった2人。

 卒業しても、仲良くありたいな。

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