第9話 君の言いたかったこと
そう言えば、河本美鈴さんが言いかけてたことってなんだろう。
今日聞いてみるか。
「あのさ」
「ん?」
「この前言いかけてたことって…」
担任の体育の先生が大声で何か言っている。
「河本美鈴!プリントはまだか!」
なるほど。
「まだ出してなかったの?」
「だって、あんなに文章書けないわよ。私は。」
「まぁ、早く行かないとあの体育教師が怒ることは間違いないだろうね。」
「あっ!ほんとだ!あ、えっと、さっきの話は昼休みでもいい?」
一応してくれるのか。
「うん。いいよ。早く行っておいで。」
「うん!ありがとう!」
何を言われるのか。そんなことを考えながら僕はひたすら待った。河本美鈴という人間を。
そして昼休み。
約束してた場所はここなんだけど…。
あ、いた。
「河本美す…」
え。
「あ、来てくれたんだ。こっち来てよ。」
気のせいか…。
今一瞬…。
母さんと重なって見えた。
「あ…うん。」
きっと…いや。気のせいだ。
「それで話って…」
「あ、その事なんだけど…」
きた。
「私のお母さんね。実はいないの。」
え?
「私のお母さんは不倫して、私を産んだの。」
「そのお母さんがよく聞いてた曲が「Rain」だったの。」
「私は産まれた時から、ずっと母親に似てるって言われ続けたの。淫らな女の娘って呼ばれたの。」
「それでもやっぱりお母さんと「Rain」だけは嫌いになれなかった。」
「お母さんは数年前に亡くなったんだけど。私と同じ年頃の男の子の子供がいたらしいの。」
なんでこんな話するんだろう…。
「この前、君の家の写真あったよね。その家、私のお母さんがいた家なの。」
まさか。
「私と君は」
やめて。
「家族だったんだよ。」
どのくらい時間がたったのだろうか。
きっと、何時間はたっている。
僕は、見つけてしまったんだ。
隠さずにはいられないんだ。
「母さん。今日はもう1人の家族とあったんだ。なんで言ってくれなかったんだ。言ってくれたらこんなに胸が苦しくなることもなかったのに。母さん…。」
そう。
僕の母さんは数年前に亡くなっている。
けど、僕は未だに「母さん」を忘れられなくて、自分の中の「母さん」と話していたりした。
あんな「母さん」でも、やっぱり愛情を注いでくれた人だ。そう簡単には忘れられない。
「母さん」が亡くなっていることを認めたくなかったからなのもあるかもしれない。
けど、
なんで君が母さんの子供なんだ。
今気づいた。
僕は河本美鈴という人に恋をしていたんだ。
けど…もうやめよう。
彼女にとってもこの気持ちは迷惑でしかないだろう。
もし願えるのであれば、君とは別の形で出会いたかったよ。
さよなら。河本美鈴。
よろしく。新しい家族。
日記を書いた。
たった一言。
「母さん。新しい家族ができました。」
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