第4話 体育祭の知らせ
入学式も終わり、高校生活二日目。
この日は授業というよりは担当の先生との顔合わせと、授業ガイダンスで終わった。
終礼時になり、例のポヤポヤした雰囲気を出しながら
「昨日入学式が終わったばかりですが、親睦の意味も込めて二週間後に体育祭があります。種目と必要人数はこの紙に印刷しておいたので役割は各自で決めて下さいね~。」
と小宮先生が言いながら用紙を黒板に貼り付ける。
「先生、体育祭実行委員は誰がやれば良いでしょうか。」
それを見た委員長となった佐倉が先生に聞く。
そんなキチッとした雰囲気とは反対にポヤポヤと返す先生。
「そうですね。そういえば、委員会と係も決めてませんでしたね~。それらも一年二組のホームページにアップしておくので、全部纏めて決まったら委員長さんは私に報告しに来て下さい。」
なんて言ったときには、クラス全体が「この教師で大丈夫なんだろうか」と不安な空気に包まれたのは気のせいではないと思う。
しかしそこは高校生。なんやかんやで委員会、係決めはすぐに終わる。
僕は美術係のみ、委員会はフリーとなった。
そして体育祭に関連する話となる。
体育祭実行委員は西川といういかにも熱血の男子生徒に決まった。
西川はそこまで話す訳では無いが、仲は悪くない。知り合い程度だろう。
西川は早速教卓の前に仁王立ちし、熱い声を発する。
「よし、じゃあまずはそれぞれの適性を見るためにも体力測定をしようか!」
「体力測定?」
と西川に佐倉が返す
「うむ、簡単に握力、上体起こし、長座体前屈、反復横とび、50m走でいいのではないだろうか。」
「その前に、種目は何があるのかしら?」
ここでもまた委員長な佐倉。
「うむ、先生の作ったサイトにもアップされてあるが、もう一度確認しておこうか。
種目としては、綱引き、玉入れ、騎馬戦、徒競走、二人三脚、借り物競争、リレー(学年別、色別)
。の計8つという訳だ。」
困惑気味に
「あまり体力測定しても仕方が無いと思うのだけれど……」
と言った佐倉に対し熱く返す西川。
「何を言うか! 握力が強いなら綱引きに向いているだろうし、長座が出来るなら体が柔らかい証拠、騎馬戦で有利だろう。50m走は言わずもがな、リレー系に回せばそれだけ勝率が上がる!」
「なるほど、貴方なりに考えているのね。」
「うむ、こういった行事は楽しんだ者勝ちと思っているが、楽しみに敗北は無用! 勝者のみが美酒を飲めるのだ!」
西川の雰囲気がなんとなく伝わったのかはさておきクラスの雰囲気としては割とやる気のようだ。
その後、西川が小宮先生へと許可を取りに行き、体育館と校庭の使用許可が下りたため体育館の更衣室で着替えたら。
喜田と二人で諸々測っていく。
「なぁ喜田、男子の握力平均ってどれぐらいだ?」
「さぁ、40ぐらいじゃねぇか?」
「そうか……」
握力計に表示された数値は28。その数字は30すら超えておらず、何とも言えない悲しみが込み上げたのは僕だけの秘密である。
ちなみに喜田は43。
僕の数値を見て、一瞬顔をしかめてからサムズアップしてきた馬鹿には蹴りを入れた。
代わりといっては何だが長座は余裕だった。昔に体操をやっていたこともあり、今でも体はそれなりに柔らかい。
「おぉ、九条いつも通り柔らかいな」
「だろ?」
とやや自慢げに返したそばからケラケラ笑いながら
「おう、気持ち悪いくらいに。海老だな海老。」
笑顔で声を掛けてくるのに思わず拳が出た僕を誰が咎めようか。
神様は言っている。右を殴られたら左も殴られろと。
その後は喜田が西川に呼ばれて、僕一人になったところで、今度は水原がやってきた。
「こんにちは、九条くん。」
「水原さん。」
「どうだった? 測定結果。」
「……長座はよく出来たよ。」
「……それ以外はダメだったような言い方だね。」
長座以外は平均値を超えていないということは言えない。
気まずい雰囲気になったところで気を遣ったのか、水原は慰めるように話しかけてくる
「あー、まぁ皆運動出来るにこした事は無くても、運動出来なくても大丈夫だから、ね?」
「それ逆効果だから。普通に僕の心えぐってるから。」
そこで、また会話が詰まり、水原が再び僕の精神を破壊しにくる。
「え、えーと、その。言って良いことなのか分からないけど」
「うん?」
「九条くんって、その、あんまり友達いないんだね。
喜田くん以外と話してるの見ないし……。」
「……」
なんだこの女は。僕のメンタルをいじめに来たのか?
そうなのか? そうなんだな?
やや負のオーラが出てきたような気がする。
今なら悪事でも平気で出来そうだ。
そう……水道のひねる部分を若干緩めておくとかな!
あれ、たいしたことない気がする。
「あっ、いや、変な意味じゃなくて、そのー…。
わ、私は友達だからねっ!うん!」
若干ダークサイドが出かけた所で、ふとその言葉で心が洗われる。
「ごめん。もう一回、言って貰ってもいい?」
気がつけばそう呟いていた僕に
「え? わ、私は友達だからねって?」
言葉に焦りを含ませつつも、返してくれる彼女。
懐かしさを帯びたその言葉に目を細める。
この瞬間だけはいつもみたいに内心でふざけるような気分でも無かった。
それを見た水原の若干引いたような姿勢で
「そ、そんなに感動するほど友達が……」
なんて呟きが耳に入り
温かさは一気に吹き飛ばされた。
しかも、そこに喜田が帰ってきたために余計に場は混沌と化した。
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