第3話 入学式・後編
まさか同じクラスだったとは。
そんなことを思いながら彼女を見ていると目が合ったためなんとなく恥ずかしく目をそらす。
これが年齢イコール彼女いない歴の人間の模範的行動である。
あ、結構な数を敵に回した気がする。
自己紹介の後は、クラス内で学級委員長と副委員長を決める流れになる。
家の格が上の者に配慮する必要があるため、学内カースト上位者ではないと挙げない雰囲気が毎年の恒例である。
しかし、それは間違っているとは言えない。いくら学園内では平等なんて校則に表記されていようと、それはあくまでも学園内だけの話である。
学園外、つまり社交や経済界においてはなんの効力ももたらさない。こういった所で上位の者達に目をつけられれば最悪家が潰される事だってあり得るのだ。
出る杭は打たれる、というのは言葉通りのため釘は出さないようにするのが良いのである。
それに、カースト上位者が委員長の役職に就くのは悪いことではない。他のクラスとの話しあいになった場合、一方的に言われた事を飲まなければいけない状況になる可能性は激減するのだから。
他のクラスとやり合う際に委員長の家柄うんぬんで簡単に潰されたら元も子も無い。
と、まぁそんな事を考えている内に委員長、副委員長ともに決まる。
委員長は結局、佐倉。予想通りというか、まぁそうだろうなとは思っていた。
「さ、委員長副委員長も決まったので、今日は解散です~。
明日からは通常授業ですが、時間割は学校のホームページ上に作った一年二組のサイトに載せておくので各自で確認してください。それでは、一年間よろしくお願いしますね~」
先生がそんな言葉で締めくくり教室を出たら、生徒達は好きなように集まって帰り支度をする。
といっても、この学校は全寮制のため性別ごとに向かう場所は同じなのだが。
僕も喜田と帰ろうと思い声を掛けようとしたところで。
「同じ教室なんて奇遇ですねっ!」
と、朝のあの声が後ろからかかってきた。
振り向けば艶やかな長い黒髪が目に入る。
「そうですね、てっきり先輩なのかと思っていました」
「あ、同い年なんだからタメ口でいいですよ」
「それもそうだ、君もタメ口でいいよ」
「うん、そうさせて貰うね」
そこで会話が終わる。
これぞ年齢イコール彼女いない歴の模範(ry
と、そこで喜田が乱入してくる。
ナイス喜田。僕は君と友達で嬉しいよ。
「おんやぁ?九条くーん、いつの間にこんな可愛い子を引っかけたので?」
「失礼な。朝色々とあって手伝って貰ったんだよ。」
「ほぉー、さいですか。俺は親友にもようやく春が来たのかと思いましたよ。」
そういって嘘泣きの仕草をする喜田に遠慮がちに話しかける水原。
「えっと、貴方は?」
「俺は喜田、ここにいる九条とは腐れ縁でね。
よろしく。水原さん、でいいのかな?」
「はい、
「あー俺もタメでいいから。ところで、この後お茶しない?」
「え?えーっと、あはは…。」
片膝をついて少女漫画の騎士のような格好をする喜田に水原は困ったような笑みを浮かべる。
いいね、行きた…げふんげふん。
「何を馬鹿なことを言ってるんだお前は。」
「いてっ。」
早速ナンパし始める親友の頭に学生鞄を落としても。
すぐにこちらを向いて
「もぉ、やいちゃったのかな、九条きゅーん、うりうりー。」
なんて全く懲りないコイツにため息をつく感じを出しておく。
くそう、本音では行きたいが僕はそういうキャラじゃない。
こういう時喜田みたいにさらけだせたらどんなに楽か。
喜田はスルーしておく事にして。
「水原さん、朝はありがとね。」
「いいのいいの。朝も言ったけど一日一善が私のモットーだから。」
「それと、これから一年よろしく。」
「うん。こちらこそよろしくね。」
そういって水原は人の良い笑顔を向けてくる。
喜田の言っていた「おとなしい」とは真逆で、かなり快活な性格のようだ。
「あのー、九条さん。気まずいんだが、俺は先に帰った方がいいか?」
「いらない気を回すな。帰るぞ馬鹿。
それじゃ、また明日ね。水原さん。」
「うん、また明日。九条くん、喜田くん。」
水原さんに軽く手を振り喜田と二人で寮へと向かう。
階段を降りて、正面玄関から出る
「しっかしまぁ、入学式でも会話に挙げた編入生とお前が知り合いとは。ほんと意外だねぇ。」
「知り合いというほどでも無いさ。」
「その割にはあの子、ずいぶんとお前に熱心に見えたが?」
ジト目を向けてくる喜田。
ふへへ、うらやましいだろ。
「いくら朝にちょっと話したからといって、真っ先にお前に話しにいくなんておかしいと思うのが普通だろ?」
と妙に様になったアメリカンに肩をすくめて起用に口角を片側だけ上げてみせる仕草をする馬鹿に冷ややかな目を返して
「知るか。」
と答えつつ、若干冷静に答えを探していくがやはり見つからない。心当たりが無いのである。
喜田の言う通り、真っ先に僕に話をしに来るなんていうのはおかしい。
恋愛小説でもあるまいし。
まぁ?僕の魅力に気づいちゃったとか?
……自分で言っといてダメージが。
心に刺さった。思いっきり刺さった。
さて…
「うん、さっぱりだ。思い当たる節が一つも無い。」
「ま、お前の家柄目当てかもしれないし、そう気にすんなよ。」
「またその手合いか。だとしたら懲り懲りだ。」
僕は九条家本家の次男であり、喜田もこう見えて大手玩具メーカー社長の息子のため、そういった輩の話は結構ある。ハニートラップなんていうにはお粗末なそれらの相手をするのは面倒きわまりない。
確かに僕は美少女が好きだ。女好きだ。
でも、あからさまにそういった事をしてくるのは嫌いだ。
自分でも面倒くさい性格だとは思っているが、割り切れないのだからしょうがない。
「しかしまぁ、そういった奴らでも彼女にするお前の精神はよく分からないな。」
「いいじゃないか、家だろうが何目当てだろうが尽くしてくれるんだから。」
「そうは言いながら何人も振ってるだろうに。」
「そりゃぁな。家柄目当ては悪いことじゃないが、家に寄っかかる奴はダメだ。家を広げてくれるような女じゃなきゃ。」
そういって目を細める喜田からは言わずと社長の風格がにじみ出ていた。
人は雰囲気を誰しも持つが、喜田の醸し出すそれは明らかに上に立つ者のオーラである。
さすが喜田。僕と違って根っからの上級だ。
あれ、僕も九条家という血が流れてるはずなのに。おっかしいなぁ…。
「喜田社長、怖いって。」
「おっとすまん。頼むから喜田社長なんて呼ばんでくれ。お前に言われると寒気がする。」
寮に着いた為、喜田とは途中で別れて一人で進む。
寮はちょっとしたホテルが何軒も連なる洋風と、1階建てのみの和風の屋敷が密集したようになっており、一人一部屋となる。和風に至っては一人一軒でも珍しくないが…。
なお、それらの区域を総称しての寮である。
ちなみに僕は和風だ。
玄関で革靴を脱ぎ、ブレザーなどを脱いで、藍色の袴に着替える。
学園での授業時以外は基本的にどの格好でも許可されているので、生徒はそれぞれ思い思いの格好をしている。
昔から着ているせいか、家の中ではこちらの方が落ち着く感じがする。
やや伸びをしてから、部屋の片隅にある漆塗りの箪笥から古びた透明色のビーズで作られたネックレスを手に取った。
既に首に通らなくなってしまったそれを見て、手に掴んだまま、目を閉じ思いをはせ。
そのまま縁側の椅子に座り込んで、春の陽気にまどろむ。
胸の上に置かれたビーズがキラリと光ったような気がした。
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