第2話 入学式・前編
職員室で書類を渡せば朝の仕事はあと一息。
体育館に戻って会長に報告してあとはフリー。
自由って素晴らしい。
学校内はちょっとした公園のような場所もあるので、池などを見てぼんやり時間を潰し、入学式の30分前になったところで体育館へと向かう。
自分のクラスと出席番号を確認し、自分の席へと座る。
一貫校のため、周りは殆どが知っている顔。話したことがある人の方が多い。
「よぉ九条、今年も同じ教室だな。」
「喜田、またお前と一緒か。」
席に着けば先に隣に座っていた喜田が話しかけてきた。
こいつは僕が小学校で編入してからずっと同じクラスであり、もう8年目だ。
そして名前的にも出席番号が近いため、毎年隣の席である。
「相変わらず俺に対してはずいぶんな口調で。」
「それだけ気心しれているんだよ。」
「そいつはありがてぇ。」
へへっと笑う喜田は相変わらずのツーブロックにピアス。
一見不真面目そうなやつだが意外なことに結構真面目である。
「しかし、まさかお前が入ってからもう何年目だ?こんなに長い付き合いになるとは思って無かったぜ。」
「それはこっちのセリフだ。」
「にしても、だ。」
そういって言葉を止める喜田。
こいつがこんな言い方をする時は大抵碌でもない事だ。
声のトーンを若干落として、顔を近づけ微妙に警戒しつつ聞き返す。
「どうした?」
「喜べよ九条、今年は大当たりだ。」
「…まさか女子が、なんて言うんじゃないだろうな。」
「むしろ女子以外に何があるよ。」
まじで?やったぜ
清々しい笑顔に何も返せない。感を出しておく。
そう、根は真面目でもチャラそうな雰囲気通りの女子好き。
喜田は止まらずさらに加速させていく。
「あの大橋に佐倉の学年ツートップの片割れである佐倉がいるんだぜ?しかも高校から編入予定の、おとなしい系黒髪ロング美人まで。」
ポニーテールに纏めるゴムが言わずと知れた彼女のトレードマークだ。
にしても
「佐倉は知っているが、編入生については初めて聞いたな。」
「俺も今朝仕入れたばかりの情報だ。」
「よくもそんな情報を仕入れてくるよな。」
呆れてため息をつく僕に
「女子は大事だぞ、俺たちの人生の中で今が一番輝く青春なんだ。」
と真顔で言ってくるコイツは彼女に先月振られたばかりである。
「そんな事を言っているから彼女に振られるんじゃ無いのか?」
「彼女がいたら何故他の女子とは会話をしてはいけないのか俺には一考に理解出来んよ。」
喜田の言葉を言い終わるのと同時に、号令がかかる。
『ただいまより、第146回成秀院学園入学式を始めます。
では、校長先生よりお話を頂きます。起立、礼。』
200人ほどの人数が一斉に礼をするのを見ながら、白髪の校長先生が舞台の中央に立つ。
『春の風が学園に花の匂いや鳥のさえずりを運んでくれる……』
と始まり、かなり長く校長先生の言葉は続く
その後は校歌を歌ったり、先生達の言葉を聞いて入学式は一通り終わる。
入学式が終われば、クラスごとに先生が先導して教室に入り、次の登校日からの説明をして終わりのはずだ。
部活勧誘が行われる教室までの道を見ながら、前の生徒に続いて教室へと向かっていく。
暖かな風が心地よい。
「そういえば九条は部活とかは?」
「入らないと思う。喜田は?」
「俺は卓球部よ。先輩にも誘われてるし。」
「あーお前卓球できるもんな。」
なんとこいつ卓球はめちゃくちゃ上手い。といってもあくまで僕個人としてなので具体的にどれぐらい上手なのかは分からないが。
「九条が卓球ヘタすぎなんだよ。球が曲がる方法教えて、まっすぐ飛ばした時には唖然としたな、あれは。」
「…人間卓球が無くても生きていけるさ。」
僕は壊滅的に球技がダメである。何故か分からないが、おそらく壊滅的にセンスが無いのだろう。
昔バスケを習おうとしたときに、教師から親の方へ「私には教えられる気がしません。」と伝えられたときには愕然としたのも今では良い思い出。
あれ、良い思い出なんだろうか。
さて、そんなこんなで教室が見えてきた。
一年二組の標識がついた教室へと入り、生徒は出席番号順に座っていく。
「さて、初めましての方も多いと思うので、自己紹介させてもらいます。
今年一年間あなた達の担当になった小宮です。授業は世界史を担当します。
趣味は御朱印帳集めです。よろしくお願いしますね~。」
全員が座ったところで担任である小宮先生が自己紹介を始めた。
一貫校ということも有り、先生達は概ね変わらないが、小宮先生がこうやってウチの学年の担任を持つのは初である。にしても、なんともポヤポヤした先生だ。
「では一人一人自己紹介をお願いします。
あ、順番は出席番号順にしましょう~。」
そういわれて、自己紹介が始まる。大体の生徒は知っている為、ほぼ聞き流しては拍手を繰り返す。
学生における恒例行事だ。
しかし、その当たり前の中で彼女が立った瞬間、僕は思わず目を開いた。
「
えっと、ピアノとハープが趣味です。
高校からこの学校に入らせていただく事になりました、よろしくお願いします。」
朝の彼女が、そこにいた。
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