第2話 詐欺

どうやら、私は騙されてしまったらしい。

SNSで知り合った人と今から会うのだが、約束を1時間も過ぎているというのに一向に来る気配がない。

さらに、そのSNSはずっと未読。

間違いない。私は騙されたのだ。

『貴方は特別な人です!!』

なんて言われたからつい調子に乗って『年収が倍になる黄金鶴の像』を100万円で取引しようとしたが前金の50万円を払ってから音信不通である。

くそう。今月で騙されたのは3度目だ。

世の中にはウソツキが沢山いる。

正直者ばかりだったら楽なのになあ。

世の不条理を嘆きつつ私が帰ろうとした、正にその時。

「遅れてごめんなさい!!マイさんですか!?」

息を切らしながら一人の男性が私のアカウント名を叫んでいた。

「…はい!!!マイです!ツルさんですよね!」

その時の私は、喜びが強く顔に出ていたことだろう。

「そうです!いやあ申し訳ない。スマートフォンが壊れてしまって返事が出来ませんでした!」

ああ、なんでいい人なんだろう。

こんな良い人をウソツキと呼んだ私を殴ってやりたい。

「それであのう…。例のものなんですけど…」

どこか申し訳なさそう且つ少し不気味に笑いながら彼は言う。

「わかってます!!少しお待ちを…」

そう言って私はスーツケースの中身からずっしりと重いブツを取り出し、





「どうぞ!!『年収が倍になる黄金鶴の像』です!!!」


「…おお…これが…なんと神々しい…」

ツルさん、あまりの素晴らしさに涙を流しながら震えてる。

「あ、これ別に折り紙で作ったとかそういうんじゃありませんからね?柔らかいしペラッペラですけどそういう材質なだけですからね?」

「…もちろんです!!貴方程の方が適当な仕事をするなんて思ってはいません!!

あ、こちら残りの50万円です。

いやあ、100万円払うだけで年収500万が倍になるなんて!!来年からはお金持ちです!」

ああ、ほんと。人が良さそうな人だ。

今月になってから3人に勧めたのに、内2人は直前になって『こんなモノ買えるか」とドタキャン。

もう1人には警察まで呼ばれていた。

そんな裏切られの連続だったのに。

私は幸運だ。

ツルさんはまだ震えている。そんなに嬉しいのだろうか。まぁ残念だったな。ヌカ喜びってやつだ。

うんうん。これで後3ヶ月は生きていける。

さて、バレないうちに退散しますか。

「ツルさん、ごめんなさい。私用事があって帰らさせていただきますね?」

少し可愛らしく振る舞ってみたり。

「そんな!!まだお話ししたいことが沢山あるのに!!」

「ごめんなさい。どうしても急がなきゃいけなくて…」

ここまで熱中する人は初めて見たぞ…。

「お願いです!!少しだけでい良いんです!!少しだけ…」

「えぇー?でも______」


「署でお話を伺いたいんです」


気付いたら私の右手には輪っかがかけられており、彼の右手に身分証明書のようなものが握られていた。



「騙したなぁあああアァァア!!!!」

「こっちのセリフだああああああ!!!」

大声と共に、勢いよく左手に手錠をかける音がその場に響き渡ったとさ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る