だし巻き卵

@sijyouinnkurea

第1話

〜*だし巻き卵*〜


@だし巻き卵

お家に帰りたいと、大学生の娘が言う。

ホームシック?と私がからかい半分で聞く。

ううん、大丈夫。

何か送ろうか。

うーん、ママの手料理が食べたい。

そう、私は嬉しくなって「じゃあ、卵焼き作ってあげようか」と、遠く離れているのを承知で言ってみる。

甘えた声で調子を合わせていつものように「うん」と、言ってくれると思っていた。

そうしたら…以外な返答。

今ね、だし巻き卵にはまっているの。お友達がお泊りに来て、その子がね、朝ごはんにだし巻き卵を作ってくれたの。それがね美味しくて…、言いながらちょっと遠慮気味の声。

そう…

でもね、ママの卵焼きはそれはそれで好きよ。

それはそれで……、ありがとう。ママに気を使ってくれて。

親に気を使えるようになったのね。

ママはなんだか寂しい。

でも、ちょっと嬉しい。

広い世界に出た証拠だもの。

今度帰ってきたら、ママにだし巻き卵の作り方教えてね。

電話を切って、一息つくと頬杖をする。

………嬉しい…何だか胸の中がスッーとしている。何だろう?この気持ち…寂しいの?嬉しいの?無理してない?混ぜこぜになっていて複雑……そう複雑な気持ち。

これから、こんな気持ちが増えていくのね。


@成人しても寝顔はかわいい。

朝起きた時の顔はゴブリンひなちゃん。

まだ、お腹の中にいた時のエコー写真のそのまま…

ゴブリンそっくりで、生まれて来てもゴブリンで…未だに寝顔はゴブリンで、だけど周りは美人さんだと言ってくれる。これが進化というものでしょうか。



@ 女の子

ヤンチャッポいミルクティー色の髪、何かに挑もうとする無理無理感が好きだった。

ミルクティー色の髪はジタバタしてた。

黒髪には意思が戻った。

どちらも愛しい。

どちらも好き。

ぎゅっと抱きしめてあげたい。



@ライン


もう三日、既読のみ。

そう言う気分なのね。

よしよし、そう呟いて私はラインに手を当てて娘の写真の頭を撫でる。




@満月の晩


満月の晩には、かわいい狼さんが増える。

月に向かって、ワオーン。

公園の階段の上から遠吠えがひびく。

ワオーン…ワオーン…

心が自由になれる。

でも、それをパパは首を傾げる。

エンジニアのパパにはワオーンの意味が分からないと言う。

私たちの娘は芸術系なの、ワオーンは大事なのよ。

そうなの?

そうなの。

そのくらい好きにさせてあげなきゃ、ラインが既読のみになるわよ。



@ママのママ

ママにだったら何をしてもいいと思っているあなた。いつも不機嫌で当たり散らして憂さを晴らすのよね。まったくもう、しようがないんだからと喧嘩する。だけど、ママもお母さんにそうだった。愛しているわ。だから、全部許せるの。だって、あなたはママを愛してくれているもの。ママなら絶対悪意なんか持たないって信じている。ママになら何をしても愛情がなくならないと分かっているから。だから、不貞腐れて不機嫌をぶつけるの。ママもそうだったように。あなたが生まれてきてくれて良かった。ありがとうお母さん。



@お魚の味

あなたがお腹の中にいた時、不思議なことが起こった。魚嫌いだったママが魚好きになった。ブリにハマチにカンパチにサバ。生まれて初めて口に入れて美味しいと味わって食べることが出来た。こんなに美味しいものだったんだって、感激してた。

それなのにあなたがお腹の中から出た途端、ママは魚が食べられない。美味しいとじっくり味わうことが出来たのはなんだったのだろう?不思議ね。今ではあなたは大の魚好き。神秘の世界を垣間見たわ。

青魚を美味しいと味わった記憶は残っている。時々それを思い出して食べてみるのだけど、やっぱり食べれない。不思議な記憶。


@ねえ、ママ。あの子は何をやってるの?

心の表出よ。

へえそうなの。

そうなの。


@甘々のつけ

昔から甘々だったパパは娘に頭が上がらない。娘の僕と化している。

だから言ったでしょう、大きくなってから困るのはパパなのよって、あんなに言ったのに。

娘に頭が上がらないパパなんて有り得ないから。

たまにはビシッと言ってやれば、そう言ったら一歩後ろに下がるパパ。

よしよし、そのままお爺ちゃんになろう。もういいよ。あの子は良い子に育ってくれたから。



@四月のあなたへ


@おかえり。


そう言える幸せ。

だって、その言葉を言えるのは、目の前に大事な人がいるから。

だから、一番幸せな響きがする。いつまでも待っていられるママの宝物。

大人になって一人で暮らせるようになっても、幸せな気持ちで待っていられる。だって、帰って来ないのは頑張っているから。帰ってきたときは親孝行。だから、いつでも待っていられる。ママの宝物。おかえり。大好きよ。


@抱きしめてあげられる


ママになら何をしてもいいと思っている。

ママは困った顔をするけど、本当は嬉しい。

だって、この子はそれだけ心を許しているのだから。

駄々を捏ねるのも、怒ってツンととんがるのもママ。

ママは黙って胸に抱きしめてあげればいい。

すると、お拗ねちゃんは元に戻る。

だから、ママには何をしてもいいと思ってる。

ちょっと困るけど、いいわいいわ。

いつでも抱きしめてあげる。

ママの特権よ。



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