第14話 カオナシ
何かを殴った感覚があった。これはなんだろう。ふわふわと浮かんでいるような、それでいて四肢の感覚は独立していて——?
まるで、ゲームの中の中級ボス、例えて言うならば姫を捕らえたドラゴンを倒すときのような。これは——この悪夢は、なにかに似ている。なんだろうか?
ゲームの中の登場人物になって、シナリオを進める、それだけならただのロールプレイング・ゲームだ。
ゲームの中の自分はドット絵でもアニメ絵でもCGでもなくて、どんなに精緻な絵でも肉体が動く感覚まで共有できない。だから、俺が思い出したい何かは、たぶんバーチャルリアリティのことだ。
そう、バーチャルリアリティとこの「悪夢」は似ている。カメラを顔に装着し、腕と足に装具をつける。動きは連動して、架空の空間のなかで走ったり飛び跳ねたりできる。頭と四肢しかモニタリングされていないから、上半身と下半身や胴体と首が分離しがちなのも理解はできる。これがゲームとして、開発した人間の感性を疑うけれど。
なるほど、これはバーチャルリアリティなのか。納得しかけると、また唐突に体がズレた。お腹が——お腹が、う……う”ぅ”、痛い。酷い腹痛だ。
でも、体はズレるだけで
今度は、やたら広いリビングの背景か。また「彼」が現れて、意味深な言葉を残したりするのだろうか。
ぇ
血
目が覚めるような、刺々しい赤
これは——女の人が倒れている
どうして? どうしテ……
「イぁ”らぁ、こ”んなラって”」
こんなのって。これに限って、本当の世界だなんて。
血塗れで床に転がって、ソファの上に力なく右手の甲を乗せている。まるで、倒れゆく肉体を支えるのに間に合わなかったかのような、まるで、一瞬で
カアさん
カアさん、どこを見ているの? 俺の顔を忘れたの? 俺はここだよ、俺は
どうして目を合わせてくれないの? どうしてそんな——醜いものを見るような目で、俺を、まるで父さんのように、ぁ
殺された——誰に? この部屋には、犯人がまだいるのか? いない、のか……?
足を動かしたときに見えてしまった。いや、見えるべきものがなかったというべきか。
床に止めどなく流れる血が、ちょうど俺の足の分だけ、島のように残している。それもすぐにじわじわと侵食されていくけれど——俺自身の自我もまた、そのように
ぁ? ここはどこだろう。
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