第一章 揺蕩う
第1話 悪夢
「首から下」が痛めつけられているのを見つめていると、ふと画面が切り替わった。かすかな期待すら抱かせないばかりか、映像は俺がヤられるのよりずっと陰惨で、ずっと苦しい。
俺は何度も夢に見たあの場面を、地面に乱雑に転がされた髑髏の視点から見つめる。
『なぁ、
「やめろぉお」
自分の声と、自分の声がぶつかって、状況は更に悪化した。声と声は増幅された波紋のように、俺と「彼」しか見えなかった視界を広げていく。
「ァア」
俺を取り巻くのは、シャツを入れずネクタイを緩めて肩に掛けてるような不良たち。それも、その儀式が終わればたちまち優等生に戻るタイプの陰湿ないじめっ子だ。
日頃の
『アイツを虐めないと、次のターゲットはお前だから』
ヒエラルキーの頂点に立つ「委員長」は、気分によってターゲットを変える。自分に靡いたいじめっ子軍団のなかからも、それはもう容赦なく。
何をすれば地獄から逃れられるのかわからなかった。先生も保護者も味方につけた「委員長」には逆らえない。——でも
今のターゲットは、俺の親友。虐められるわけなんて、ない——
——そう思っていたのに。
彼の目は、俺の裏切りを視認するや色を失った。トイレで汚い水をかけられ、ズボンを下ろされてその風貌を揶揄されていた。
『さぁ、お前は精神攻撃の得意な呪術者だ。魔王の手先のゴブリンに絶望を与えてあげないとねぇ?』
『精神、攻撃だと』
殴る蹴るを命じられるならばまだマシだった。俺は、彼が一番死に近づくワードを知っている。
『…………どこから』
『ふふふ、お前らが幼稚園一緒だったことくらいパパに言えばすぐ調べてもらえる』
幼稚園のころから、彼はませていた。将来の夢は作家で、ファンタジーをよく好んでいた。
異世界で勇者になる。ネットで大ブームを迎えていたその文脈は、一般人には理解されにくく、幼稚園でも彼はイジメに遭った。
ワナビとは、夢を持つだけでそれに近づけていない「万年アマチュア」を揶揄する言葉だった。
『なあ、断る権利はお前にはねぇから。お前の父親がパパの部下だって知ってるよね?』
身体に電撃が走る。父は、大きなプロジェクトを任されたと嬉しそうな顔で語ってくれた。
『………………!!』
俺は親の成功と引き換えに親友を悪魔に売り渡す契約をした。
「やめろ! そいつは約束を守らないぞ」
親友を犠牲にすることで父を守った気になっていたのは俺だけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます