腐った果実
春瀬由衣
プロローグ
「誰が赦したって?」
宇宙を思わせる色彩に乏しい空間で、顔のない人間に問いを叩きつけられた。
「なぁ? 誰が貴様を赦したんだよ?」
声にだけは見覚えがある。というか、ここでは声以外のものは
俺は理解した。ここは俺の処刑台だと——。
うぐっ
言葉の端々が突如空間のなかに出現し、コンクリ柱のような形状で生えてきては、俺の腹を抉っていく。巨大な針が出てきては脳を貫いたこともあった。
口の周りには、水分を失ってこびりついた血がザラザラと付いている。胃の内容物は鉤爪に掻き出され、無重力の空間にプカプカ浮いている。もうここに何日囚われているのかも忘れてしまった。
言葉が、文字通り暴力になる空間。俺の体は生きてるのか死んでるのかさえわからない。わかる暇もない。
申し開きもできないまま、俺は小学校のころトイレで自殺した少年の声に、永遠に苛まれ続けるのだろうか。
そんなことを思っていると、唐突に首が落ちた。
胴体の感覚が失われないままに、視界だけが放物線を描いた球の視点のように落ちていく。意味がわからないままに、転んだときに手をつく動作をすれば、視界が緩やかに左に回り、首のない体が何処かに手を伸ばそうとしているのが見えた。
どういう——ことだ?
「赦さない! 赦さない! ゆるさないゆるさないユルサナイ!」
上空に巨大な裁縫針が出現し、火を纏いながら俺の体に突き刺さった。俺は体に激痛が走るのを、肉体と切り離された脳みそで感じていた。
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