episode1

1-1

学校からしばらく歩くと、ある場所にたどり着く。


アキュライトで塗装された赤土色の温かい足元に、遥か先まで立ち並ぶ桜の幹が目印の美しい遊歩道である。


そしてそんな道の途中、まず顔を覗かせるのがこの大正ロマン溢れる小さなビルだ。

辺りの緑も相まってレトロなその建物の一階には、小洒落たカフェとケーキ屋さんが店を構え、横目に流し見る店内はいつも人で賑わっている。


そこからまた少し進むと、木造チックなパン屋さん、真新しいスポーツジムと続き、遊歩道が終わに差し掛かる辺りでちらほら民家が姿を現し出す。


「へぇ~。あんなお店があったんだねー、全然知らなかったな――って、みてみて、あそこのお家。なんかお城みたいじゃない? いや~、たかそーだねぇ……」


その言葉通り、ここら一帯はいわゆる高級住宅街というやつにあたる。当然聳え立つ家々も、一軒一軒が広告のメインを飾れるような豪邸ばかりで、周辺に満ちた上品な雰囲気は、一種のプラシーボ効果みたいなものだろう。


ここを歩いている時は俺も心なしかリッチな気分になるし、もしかしらハイソな空気は人をハイソに変えるのにかもしれない。


だが、そんな空気を生み出す完成された景観にも例外はある。


「ん? えっと――美容室の看板……かな? なんでこんなところに?」


そう。それがこのドでかい看板だ。


大きなイーゼルに乗った大きな黒板には、未就学児が描いたようなハサミや櫛の抽象的なイラストがこれまた大きく描かれている。


「どこかのお家が、お店、なのかな?」


本来看板は人を導くものであって、惑わすものではない。わざわざこんな大きいものを出すならもっとわかりやすさを意識した方がいいのではなかろうか。文字を書くとか地図を描くとか、方法など色々あるだろうに。これでは隠れ家的な美容室ならぬ、隠れた美容室だ。


と、まぁなにはともあれ。若干のイレギュラーは存在するものの、我が家と学校とを結ぶ道のりに存在するこの区画は、勉学や人間関係で蓄積した疲労を癒してくれる、俺お気に入りのヒーリングスポットなのであった。


……夏休み明けで来るのは久々だったが、やっぱりこのルートはいいな。最高の散歩コースと呼んでも過言じゃあない。


「おーーい、まってよー」


――一人であれば。


沈み始めた太陽の悪あがきを意にも介さぬ夏川なつかわは、こちらの少し後ろを歩きつつ、未開の地を探検する子供のように、無邪気な反応を繰り返す。


「お前……いつまで付いてくるんだよ?」


「ん~、いいって言うまでーー」


またどこかの景色に目移りしているのだろう。空返事が明後日の方へ飛んでいく。


「ね。いつも一人で帰ってるの? 友達は?」


タタッと軽快な足取りで開きかけた距離を詰めながら、彼女は俺の急所を抉る。


――……友達、か。


「中学までは――」


自然に返事が引き出されていることに気づき、慌ててそれを呑み込んで空を睨む。


……なに素直に答えようしてるんだ俺は。無視だ無視。また面倒臭いことになるのがオチだ。


大きく深呼吸を挟み、早めの歩調を維持したまま己の過去を俯瞰する。


――町内にいくつかある小学校の卒業者が統合される、田舎の小さな中学校。そこでの関係性は小学校の延長線上にあり、小学校の人気者はそのまま中学校の人気者となる。そして、そんな人気者と幼馴染という関係にあった俺は、半ばそれに持ち上げられる形で平穏な生活を享受していた。


過度な妬みや嫉みもなく、友達ともそれなりに仲良くやれていた、はず。


だが、転機が訪れた。


高校進学を機に、実家を離れ一人暮らしをすることになったのだ。理由はシンプル。進学先が県境の微妙な位置にあり、家から遠いから。地元の友達と会いづらくなることに多少の抵抗はあったが、田舎から二時間かけて電車通学するなんて、流石に馬鹿げている。そして、そうと決まればやることは山積みだ。


住まい探しや私物の整理はもちろん、必需品のリストアップとその購入タイミングの思案。あれやこれやに振り回される間に月日は進み、気づけば中学生活も最後の日を迎えていた。


「たまにはかえって来るんだぞ」


「ちゃんと友達つくるんだよ」


県を跨ぐ進学をするのが自分だけだったせいか、身の丈に合わぬ激励に見舞われる。更に、サプライズでこっ恥ずかしい寄せ書きまで用意されていて、あまりの暖かさに若干引いた。が、不思議と悪い気はしなかった。


荷造りを終え、物が減った自室で過ごす最後の夜。感慨深さ抱きながら瞼を閉じる。


新生活に膨らむ期待と不安。


引っ越し作業に周囲の散策。


流れるように時間は過ぎていき、数週間後。


旧友の助勢は望めない。そんなビハインドを背負いつつの高校入学初日。


式が終わり、HRが終わり、くたびれた担任が教室から姿を消すと、入れ替わりでやってきたのは、長い長い静寂だった。


さて、どうしたものか。


俺――いや俺達が声を失った理由は至極簡単で、先ほどものすごい勢いでここを出て行った、大柄初老の眼鏡男に原因がある。


「あー、まず初めに言っておくと、先生は今すこぶるお腹が痛い。それも、入学初日で右も左も分からないお前らに、恥を忍んでそれを打ち明けなくちゃいけない程に、だ。だから……少し駆け足になるが、プリント類の必須事項を先に済ませる。悪いとは思っているがこっちも必死なんだ。わかってくれ」


そう前傾姿勢のまま猛スピードでまくし立てた彼は、数分後、一同とその監督責任を全てまとめて置き去りにしたのだ。


一体誰がこんな状況を想像できただろう。皆、口が開きっぱなしである。だがそれも致し方ない。なぜなら、まだ俺たちはお約束の自己紹介すら熟していないのだから。


「どう……しよっか?」


「え、帰れってことじゃない? また明日って言ってたし」


「でも……ねぇ?」


「隣のクラスに聞いてみる?」


既に顔見知りなのか、前の席に並んで座る少女達がコソコソ話し合っている。


つまり、今は誰かが先陣を切らなければいけない状況なのだ。


しかし、ここで名乗り上げるのは早計だろう。一か八かが過ぎる。もし下手を打てば待っているのはお調子者か弄られ役の称号であって、俺の求めているものとは違う。そう。俺の求めているものとは「何言ってんだお前」とか、「おい、次移動だぞ?」とか、やれやれと相槌をつくのが仕事の、落ち着いたお兄さんポジション。


ではその席を獲得する為に俺がとるべき行動とは何か。それはおそらく、落ち着くこと。お兄さんポジは騒がないのだ。


焦るな。焦るな俺。


けれどもその意気込みは空振りに終わる。欠席者がいたせいで自己紹介自体が翌日に流れたのだ。一応教室をでるギリギリまで誰かに話しかけられるかもしれないと構えていたが、その収穫も言わずもがな。特段イケてるわけでもないのだから当たり前といえば当たり前である。


ま、初めはこんなもんだろう。そう呑気に帰宅した、その晩。


俺は、おたふく風邪にかかった。


完治には1週間強を要し、恐る恐る登校した教室は、残念ながら細かな格付けが終了した後。自分の机も便利な物置と化していて、休んでいた時間の重さを痛感した。


しかしそんな中でも声を掛けてくる者はいる。雑務の押し付けを企むならず者達だ。


彼、あるいは彼女は、俺が一人なのをいい事に、やれ荷物を運べだの、やれ掃除当番を変わって欲しいだのと、隙あらばすり寄ってくる。始めはただ純粋に困っているのだと思いこちらも手を貸していたが、直ぐにカモにされているのだと気づいた。こんな自分の事しか考えていない奴らとまともに関わり合うなんて、バカらしいにもほどがある。


それから先はとんとん拍子。


無駄に意地っ張りな性格も相まって、人付き合いを避けるように口数は減り、たまの会話も少々棘があったと思う。けれども、その方が互いに傷が浅くて済むのだから、

むしろ悪役を受け持ったこちらに感謝して欲しいくらいだ。


そんな生活を続けるうち、いつの間にか俺に喋りかけてくる者はいなくなっていた。


「中学まではって、友達となにかあったの?」


だがそのおかげでいろいろなことができた。バイトに勉強、ゲームや遠出。夏休みもそれなりに充実していたはず。日帰りだが帰省もできたし、貯金もずいぶん増えた。


突然誰かが家に押しかけてきたり、強引にどこかへ連れ出されたり、頻繁に連絡を取り合うような相手がいないだけ。


「ねぇねぇ、なにがあったの?」


思うところがないわけじゃないが、せっかくそれに慣れたのだ。


今更それを崩すだなんて――


「ねえってば」


「……なんにもねえよ」


教室にいた時とは別人のように落ち着いた夏川の声が、物思いにふけっていた俺の意識を現実へ連れ戻した。


「あ、わかったかも。事件は青春の王道、夏祭り! 薄暗い境内を照らす提灯の下、一人の女の子を巡って、君はクラスの恋敵と拳を交えるも、無念の敗北! 敗者に居場所は用意されておらず、休みが明けたらひとりぼっちになっていた、とか?」


どこか品を感じさせる雰囲気は保ったまま、彼女は謎の小芝居を披露すると、自信あり気にこちらを見やる。提示された過程は大外れだったが、ぼっちという結果だけは大当たりだ。


「あのな、うちは一応進学校なんだぞ? 手を上げて来そうな奴がいるか? うちのクラスに。それに、殴りあうような青春なんてイマドキあるわけねえだろーが。ま、仮にあったとしても俺は絶対にお断りだがな」


つらつらと言い終えるなり、歩く速度を早めて彼女の姿を視界の外へ追い出す。が、向こうにそんな速度の変化など些細な問題なのだろう、むむむむっと唸りながら少し後ろを付いてくる。学校を出てから、いや、教室を出てからずっとこの調子なのだ。コイツは。


「んー。じゃあ二股がバレたとか? それで友達がいなくなった」


「なるほど。お前には俺が二股できるほどモテるように見えるわけだ」


「んー……」


「だったらなんで言ったんだ」


その後も何度冷たくあしらおうと、彼女は微塵も堪える素振りを見せず、定期的に話を振ってくる。それこそ、こちらがそこはかとない罪悪感を覚えてしまうくらいに。


「あ」


すると、今度は何かを察したような声と共に、突然背後が静かになった。


その不穏な気配に中てられた俺が思わず踵を返すと、人通りのない道路端にはバツが悪そうに俯いた彼女が佇んでいる。そしてこちらに気づくなり、まだ幼さの残る表情がぎゅっと引き締まるのを感じた、直後。


「も、もしかして、事故……とか?」


「は?」


「一生のうちに人が事故に遭う確率は35%もあるっていうし、数少ない友達が……っていうのもありえない話じゃない、よね」


そうブツブツと口に出して確認した夏川は、ぺこっとこちらへ頭を下げ、告げる。


「ごめんなさい。悪気は……なかったの」


どうやら俺の友達は事故死したらしい。


いや、そんなわけあるか! 


否定しようとした刹那。自分におたふく風邪を宣告した医者の顔が脳裏を過った。


待て。あれは一応――事故か? 厳密にいえば死んだのは友達じゃなくて友達を作るタイミングだが――うん、まぁ死んだことには変わりないか。


「事故だな」


自分を納得させるために呟く。


「え――えぇ!? 本当に事故なの!? ご、ごごご、ごめんなさい!」


もとを正せば確かに事故だろう。ただ、誰から感染したかもわからないし、調べる術も既にない。起こってしまったことは今更どうしようもないのだ。というか、どうして俺はこんなヤツに構っているのだろう、行きつけのコンビニに入るのまで忘れて。


「そんなことより」


「そんなこと!? 事故なのにっ!?」


ここまでまとわり付いてくるわりには、随分まともな倫理観を持っているようだ。


「……なんで俺なんだよ」


「え?」


――あ。何言ってんだ俺は。


ここまであえて触れていなかったの話題を掘り返してしまった。


しかし、ずっと疑問ではあったのだ。友達作りとやらに俺を選ぶ理由も、彼女がこんなに食い下がる意味も。けれど結局断るのであればわざわざ聞く必要もない。そう思って適当に相手をしていた。はずなのに、不覚にもそれは言葉となり、彼女の元へと届いてしまったのだ。


……くそ。なんでこんなことに……。


撤回の利かない失敗をどうにか誤魔化そうと、俺は再び踵を返し歩き出した。が、


「ええっとね――どのグループにも入ってなさそう、だったからかな」


とことこ駆け寄ってきた夏川にまた痛い所を突かれ、なんとも居たたまれない気分になった。分かってはいても、いざ人に言われるとなれば来るものが違う。


「別に一人のやつなんて他にもいるだろ。それに学校には勉強をしに行ってるんだ。友達を作りに行ってる訳じゃない」


つい俺が尖った持論で切り返すと、彼女は少し間を置き、ゆっくりと口を開く。


「確かに勉強は大事だと思う。けど、それだけじゃないでしょ? 学力だけじゃなくて、人との付き合い方、上下関係とか友好関係、社会に出てから必要な能力を培う場所でもあるんじゃないかな?」


畳かけてられているわけでもないのに、その言葉には不思議と付け入る隙がない。


更に、諭す様な口調でぼっちのテンプレ回答を往なしきった夏川は、それにね、と、若干表情を暗くして続ける。


「本当に一人でできる仕事は限られてるし、生きてく上では苦手な人と話さなきゃいけない状況なんてきっとたくさんあるよ?」


「……わかってる」


わかっているんだ。だからとりあえず勉強して、なるべくいい大学に行って、アホ共と関わらずにできる仕事に就く。今はそのための修行期間なのだ。それにお前の言葉を借りるなら、今がその苦手な人とはなさなきゃいけない状況なんだから、そろそろ諦めてどこかへ帰れ。


抑えきれない感情に比例し、歩幅が広がる。


「そーゆー時くらい上手いことやるさ」


ムキになって言い返したい気持ちを飲み込み、なんとか平静をつくろう。すると、視界の隅で見え隠れしていた夏川は、大きく数歩踏み出し、こちらの顔を覗き込んだ。


「な、なんだよ……」


ちょうど良くすかれた前髪から覗く、ぱっちりとした大きな瞳。その自然且つ効果的な上目遣いに、俺の脚は止まり、声も派手にどもってしまう。


「今、すごく顔に出てるよ?」


「――は?」


眉をひそめた彼女が、やや申し訳なさそうに笑う。


「そーゆー時ってこーゆー時じゃない?」


……あ。


繕えていなかった。


「いや、これは――」


自分の表情を意識した途端、顔が熱くなるの感じ、体は自然と一歩後ずさる。そして今度は、打って変わったように明るく微笑む夏川と視線がかち合った。


「要練習だね」


春を思わせる柔らかい笑顔。ふわっと鼻先を掠めた甘い香りは、シャンプーや柔軟剤のものだろうか。途端。表情を指摘されたものとは違う得も言われぬ羞恥心が、一気に顔面へ込み上げてきた。


「へへ、さっき騙したお返し」


まずい。まずいまずい。何がまずいのもかわからないがとにかくまずい。


思考もままなまらず、俺は慌てて微笑む夏川から視線を切り、強引に歩き出す。


「あ――ごめん! 怒らせちゃった?」


慌てた声を飛ばして彼女が付いてこようとするも、そんなことはこちらが許さない。


「で、別に怒ってる訳じゃ――えーっと、そう、疲れたんだ。喋りすぎて。ついでに喉も乾いた。自販機はどこだ自販機は」


しかし焦って無理くり誤魔化したせいか、あちらから返ってきているものが沈黙だと気づいたのは少し歩いてから。そしてその不気味な沈黙は、俺をいとも簡単に後ろへ振り向かせる。


「なんで急に黙る」


視線の先で、どうかした? と言わんばかりに小首を傾げる夏川に問いかける。も、


「疲れたって言ってたから……その、休ませてあげようと思って」


悪い方に噛み合ってしまう。


「あ、私も自販機は気にかけとくね」


「……勝手にしろ」


この状態では何を言っても裏目に出てしまう気がして、仕方がなく再び踵を返す。


けれど歩くたび、先程の笑顔が脳裏で蘇る。


なんなだコイツ。調子が狂う。まさか、本当にいいって言うまでついてくる気か? 冷静になれ、冷静に。と、とりあえず素数を数えてコイツを追っ払う方法を――


「変われる気がしたんだ」


背後で響いた思いがけない言葉に、一瞬時間が止まった気がした。


「私みたいなのが……とも思ったんだけど、あの時はとりあえず話かけなきゃどっかいっちゃいそうだったし――」


近づいてくる彼女の気配に、俺は知らぬ間に止まっていた足を強引に動かしながら、ため息交じりに割り込む。


「誘い方、なんとかなんなかったのかよ」


「それは……その、私も気が動転してて……」


どこかぎこちない笑いでお茶を濁した彼女は、静かに俺の隣まで追い付く。そして、


「それに、やっぱり放っておけなくて」


と、訳の分からぬことを呟き、跳ねるように駆け出しだかと思えば、少し先でこちらへ振り向いた。


西日と逆光が重なり、彼女の表情はよく見えない。が、漏れ出る緊張は伝播でんぱする。


「改めまして、協力して下さい」


教室で聞いたような真摯な声が俺の胸を打つ。叫んでいる訳でもないのに、その言葉は異常に耳に残り、自分の唾液の下る音があたりに響いた気がした。


「いや――俺は……」


気が付けば俺の足は自然と止まっていて、普段なら気にも留めない蝉の鳴き声や街の喧騒が無性に気になりだし、暑さと緊張に思考が急停止した、その時。



偶然聞いたばかりのフレーズに、懐かしいこと思い出した。


「……わかった」


大きく深呼吸し、歩み寄る。


「その――なんだ。友達作り……だっけ?」


一歩、また一歩。踏み出すたびに夏川の表情が鮮明になっていく。


「ほんと……ほんとに本当?」


そんな恐る恐るの質問に俺が静かに頷くと、彼女はなにを思ったのかいきなりこちらへ飛び込んできた。


焦って肩を受け止めると夏川は、先ほどまでの緊張が嘘のように瞳を輝かせたままひょいと俺から離れ、つらつら喋り出す。


「よかったぁ~! これで断られたら流石に諦めて帰ろうと思っててね――」


ん?


「私いつも電車通学だから、この辺の道、途中まで全然わからなかったんだ。それで引き返すのと最寄り駅調べるの、どっちがいいんだろう? って思ってたら、やっと見覚えのある道になってきてね」


は?


「ここら辺からなら歩いて帰れそうだなあーって、そのまま付いてきてたんだけど、最後のダメもとがうまくいっちゃうなんて、まるたんの占いも馬鹿にできないなぁ」


え? まるたん? 占い?


「もう取り消せないからね? わかった? よし、そうと決まれば明日から作戦開始だよ! じゃ、またね! たきくん」


俺が押し寄せた突然の情報過多に呑まれ呆けている間に、意気揚々と夏川は走り去り小さくなっていく。その後姿を放心状態で見送った翌日。


彼女は学校を休んだ。

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