吉屋信子の戦前長編小説について(8)昭和5年から支那事変までの作品(6)~三聯花
この作品はちょっと印象薄かったんで、経緯見るまで内容忘れてたざんすw
ただこれだけはしっかり覚えていたのは、「タイプの違う/姉妹ではない三人娘の話」だったからなんだよな。
性格の違う三人娘、というのは姉妹という括りなら「空の彼方へ」でもあったんだけど、全く違う境遇と性格の三人が~というのはこれが初めてだったな。
ある意味「キャラもの」ができつつあったというか。
この形の戦前の完成形が後に出てきて、「婦人倶楽部」で大人気になった、その一方で小林秀雄にけちょんけちょんになじられた「女の友情」なんだけどさ。その前哨戦という感じかな。
掲載は前回に引き続き「婦女界」。やっぱり今一つ掲載期間がはっきりしないんだけど、近代文学資料館で閲覧して書き写しまくった「見せてくれる範囲の日記」によると、初回原稿を届けたのが2/13となっているから、掲載は4月かな? となった次第。
……吉屋信子は膨大な日記書いてるんだけど、閲覧可なのは昭和10年前後の少しの部分しかねえんだわな。実際に目にして部分的に出しているのが吉武輝子氏の「女人吉屋信子」と田辺聖子の「ゆめはるか吉屋信子」なんだけど、……まあそれはそれでぎりぎり「出していい部分」だったんだろうな、と思う。
ということで人間関係。
https://plaza.rakuten.co.jp/edogawab/diary/201806070006/
で、ここで関係図がちょっとおかしいけど、一郎くんが駆け落ちしてるのはみどりさんだな。
冒頭は偶然。電話の次待ちと、通りすがりという、あくまで純粋な親切で友達になった境遇の違う三人、という。だから普通だったら関係することないダンサーのみどりとお嬢さんな千賀子たちが出会うわけだ。
だけど実は裏で関係があった人々だったという。
美代さんの兄貴、私立大学生の一郎くんはダンサーであるみどりさんが好きになっているし、みどりの兄の誠一は将来を嘱望されて千賀子さんちの婿に~と望まれるわけで。
まあ「女の友情」ほど露骨ではないけど、女同士の友情と連携プレイで話を良い方向に持っていこうとする形かなあ。
当時を現してるのは「ダンサー」なみどりさんと、「私立大学生」な一郎くんが「三原山に飛び込もうとする」ということかなあ。
まあこれも「こ、殺しちゃった……」って勘違いで行くとこがこの二人なんだけど。そういう役は絶対千賀子さんあたりには吉屋信子はさせないと思う。
三原山は当時、駆け落ちや、女学生が一緒に……とか、自殺の名所になってた場所なんでな。
で、事件とか人が死ぬとかあっても、この話は全体的には明るい終わり方をしてる。
この話では「母が再婚したのが許せない兄」がまあ、吉屋信子的には非難したい男の対象だったと思う。
同じ「兄」でも、情けない男の様に描かれてる一郎くんのほうが好意的なんだよな。
結局「自分の学費のために」ということで改心、ということなんだけど。ただそこに情がわいたかどうかは不明なんで、もしそのあたりがはっきりしていたならば、この兄ちゃんの急な改心は無いと思う。
まあ、やや短い話でもあるし、全体的にあっさりした印象でした。
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