吉屋信子の戦前長編小説について(9)昭和5年から支那事変までの作品(7)~女の友情・続女の友情

 今回は「婦人倶楽部」で大!好評だった「女の友情」。

 と、好評だったので書かれたその続編です。続編のほうが正編より相当短い。


 んでもって、小林秀雄が「途中まで読んでやめた」と「むかっぱらが立った」作品。

 まあ今となっては何となくわかる。小林が何故ムカついたか。

 彼は言葉でごたごた言ってるんだけど、まー「生理的にあかん」が実は放り出した正体じゃないか、とワタシは思う。

 夏目漱石の「三四郎」がワタシにはそうだったんだけど、文章の端々にちらつく「何か」が、どーにも人をムカつかせるってことがあるじゃーないですか。これがなかなか言葉にし得ないものでして。

 この件については黒川亜里子氏の論文があるんでpdfリンクはっとく。


大正期少女小説から通俗小説への一系譜 : 吉屋信子「女の友情」をめぐって

https://ci.nii.ac.jp/els/contents110001041852.pdf?id=ART0001205899


 あ、ちなみに近代文学の論文ってのはだいたいこういう感じです。これは読みやすいほう。

 面倒くさい感想文か読み物と思うとすっきりします。(自分も書いてたわけだけど/だからこそそう思う)


 んでもって、ちょっとでかい人間関係。

 そもそも正編が2年、続編が1年の3年越しの話ですから!


https://plaza.rakuten.co.jp/edogawab/diary/201806080007/


 この話は「三聯花」以上に「三人の性格が違う女性達の友情」を描いておりまして。

 結婚相手より強い絆、というものでしょうか。高等女学校を出たところから始まるわけですが。


由紀子→潔癖な何でもできちゃう優等生で社長のお嬢さん

綾乃→普通の、もしくはやや慎ましやかすぎる「女らしい」本屋の跡取り娘

初枝→思ったことをずばずば言い、現代的に割り切った結婚をする割とでかい八百屋の娘


 この三人の結婚とか恋愛とか妊娠とか出産とか、相手の人がどうとか、社会的立場はとか、すれ違いとかで話が回り、悲劇で終わるのが正編。


 由紀子さんは「結婚拒否」。

 綾乃さんは「親任せで失敗」。

 初枝さんは「割り切って成功」。


 ただ綾乃さんは最初の結婚のとき、「実はろくな生活じゃない」といってもシンブルな初枝さんには「またーそんなこと言っちゃってーっ」的にのろけにしか受け取られないという不幸があったんだよな……

 しかし綾乃さんの不幸は全てにおいて受身でしかありえなかったことなんだよな……

 この中で一番動いたのは初枝さん。ただしだからこそ嵐も起こったけど、彼女が動くことで周囲も動いた。

 由紀子さんは母親の「呪い」で結婚というものに希望を見出せずにいて、最終的には「そういうこと」から脱出、もしくは逃亡してしまうんだよな…… それができる境遇だった、ということだけど。


 しかしこの慎之介の手紙とのすれ違いはドラマ特有の運命ですな。

 このせいで綾乃さんは最期の時にしか会えないという。


 で、残された二人のうち、それこそ「現世」に留まった初枝さんを中心に、正編で取りこぼされた人、退場してた人が生きてくために、子供が死産だったり、騙されたりしつつも、前向きにやってくのが続編。で、これは外の世界と縁を切ったはずの由紀子さんという救いの手でハッピーエンド。


 続編では前作で悲しい目にあった柳三郎が最終的には一番包容力があるいい男という位置に行ったのではないか、と思うんだな。

 こちらの話はどちらかというと女よりは男が動いていて、満州に行った慎之介の弟や、正編では影が薄かった初枝の夫、それに柳三郎の姿が印象的。まあ正編の中心の女性が二人退場してしまったのだから仕方ないのだけど。


 ……しかし風呂場で倒れて亡くなる綾乃さんの親父さんは悲しいなあ…… 

 一人娘の遺した孫をまた一人おいて、だもの。それをまた慎之介の実家で引き取るんだけど、祖母にあたる人も身体を壊してるし、そこに手伝いに来てる初枝も少し前に子供が流れてしまってるという。


 つまり正編が「幸せ→不幸」なら、続編はそこからの脱出という感じかな。


 上手く作ってある話だとは思いますよ~

 まあ男の目から見たら、特に正編は「うわあ」となるかもしれないけどね。

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