私の考えと兄の考え

 入社半年でやってしまった……。


 敬語って難しいもので、私は会社で電話の応対の際に、相手側の会社に対して大変失礼な対応をしてしまった。


 始めての、電話の応対で話してるあいだ緊張しっぱなしで、終始しどろもどろ発言を私はしてしまった。


 しかも、失礼します。って言わずに電話をガシャリと……。

 その後、相手側の会社から電話があって私のことを指摘してようで……。


 私がいる会社の人は、いいよいいよって最初だからね、次に気をつければいいよって言ってくれたけど。


 ……そんな簡単に気持ち切り替えられないよなぁ。はぁ……。


「どうした?ため息なんてついて、何かあるならお兄ちゃんに相談しろよ?」


 相談したからってどうしてくれるというんだ。考えなしで、そんなこと言わないでもらいたい。


 失敗してしまった週の休みの日。私は憂鬱な気持ちを抱えたまま、休日を兄がいるリビングで過ごしてた。

 とても、出かける気にもならない。


「はぁ……」


 ため息が止まらない。


「なぁどうしたんだよ?」


 兄がしていたゲームを一旦中断した。そして兄は、後ろにあるソファーに座っている私に向かって話しかけてきた。

 別に、聞いてもらいたくてここにいるわけじゃない。ただ狭い自分の部屋にいることが窮屈になっただけ。兄には、そんなことわからないと思うけど。


「……なんでもない」

「そ、そうか?」


 ほらね、兄はわからない。


「あ、あのさ!お前さ、今ひま?」


 兄が、いつもと違う挙動不審だ。何がいつもと違うのかと、聞かれたら詳しく説明できないが今のとても変な感じだ。


「暇だったら、何? 何か用?」


 どっちにしろ、今の私は機嫌悪かったのでトゲのある言い方をした。どうせ、この兄のことだ。ろくでもないことに決まってる。


「あ、あの……」


もじもじ、もじもじ。


「何?……ウザイだけど」


 私がこうして悩んでいても、きっと兄はに悩みなんてない。悩みなんて、ゲームばかりしている兄には全く関係ない。

 それを思うと、私は無性に腹が立つ。いつも以上に冷たい言い方をしているのに、気づかないとこにも腹が立つが。


「実はお兄ちゃん……妹に、見てほしいものがあるんだ。よかったら、見てくれないか?」

「……いいけど、何?」

「いいのか……ちょ、ちょっと待っててくれ!」


 兄は慌てた様子で、自分部屋に戻って持ち手のついた紙袋を持ってきた。中に何が入っているのか、外からみるだけでも紙袋は大きく膨らんでいた。


 変なものだったらどうしよう。そんな考えが思い浮かぶ。私は嫌な気持ちになるが、兄はどこか嬉しそうに紙袋から見せたいものを取り出した。


「なにこれ」


 ドサッ……と、私の前にあるテーブルに落とされた大量紙の束。学生が感想文とか書く原稿用紙のようだけど、これが何を意味するのか私にはわからない。


「これは俺が書いた、小説だ!」

「……はぁ?」


 意気揚々と兄は、この紙束を小説だと言いはなった。私は、兄の小説なるものを持ち上げた。


 原稿用紙に、ぎっしりと書かれた文字。その文字は、たしかに兄の字だ。独特な書き順の違う字で明らかにわかる。

 こんな原稿用紙が何百枚あるのだろうか、持ってるだけで億劫になる。こんなものを、私に渡して何をしてほしいだろうか。


「これをどうしてほしいわけ?燃やせばいいの?」

「も、燃やさないでくれ!……そ、その小説をよかったら読んでくれないか?」


 兄はいつもと違う様子で、私に頼み込んできた。

 私は、持ち上げた小説なるものに目を移す。兄はそんな私の姿を静かに見ていた。


 だが私は、二、三枚読んだぐらいで読むのが面倒になった。そもそも、あまりちゃんと目を通してない。目を通す気が起きない。


「……面白くない」

「え?」


 私は、手に持っていた紙の束を床へ落とした。床に落とした原稿用紙は、はらりと落ちていき床に落ちた頃には無数にバラけてしまった。


「駄作」


私は、そう言い放つとソファーに寝そべりスマホをいじり始めた。










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