第13話 メイド最強説……
過程はともあれ、東堂と協力することとなり、新しい住居と研究施設を手に入れた。
東京ドーム2つ分あるという東堂邸の敷地にある離れが俺たちの居住スペースで、その地下が研究施設だ。
離れといっても、そこいの一軒家とは格が違うのは一目瞭然だった。
まず、でかい。小学校の校舎ひとつ分くらいある。
正直こんなに広いと掃除に困ると、丁重に断ろうとしたのだが、それを東堂が先回りして、「メイドをつけよう。もちろん入られたくない部屋はあらかじめ言ってくれればいい」と言われた。
東堂は、さっきのやりとりに対して罪の意識があるのかもしれない。
今思えば、東堂は父さんの意見通り全研究施設を停止させてくれたわけで、俺が恨んでいい理由は無い。
俺たちは結局、離れの一室と大浴場をメインで使わせてもらうことにした。
残りの部屋はまた機会があれば。
「広ーい!それに豪華!」
凛が変なポーズをしてはしゃぐ。
だが、同感だ。
広いのはありがたいが、シャンデリアはいらんだろ。
チカチカして疲れるだろ。
「ちょっと派手すぎない?」
春乃はどうやら俺と同意見らしい。
「そんなことないでしょ。春乃ねぇは貧乏性なの?」
「ちがうわよ。ただちょっと落ち着かないというか」
「それってやっぱ貧乏性じゃないの?」
「あまり調子に乗っていると、ひどい目にあっても文句言えないよ?」
怖えぇぇ。
さすがの凛もしゅんとしていた。
「おいおい。仲良くしような」
どうどうと
「はい。今開けます」
ドアを開けてビックリ。
そこには黒いフリルのメイド服を着た美少女がいた。
「メイドの
ご主人様来たーー!!!!
千織はぺこりとお辞儀をする。
細い白銀の髪が渓流のように流れる。
「や、やめろよ。ご主人様は」
俺は、興奮する己の本能を押さえ込んで言った。
「それではなんとお呼びいたしましょう?」
千織は首を傾げてキョトンとした。
ダメ!反則!
いやぁ。そもそもメイドという存在自体一般過程育ちの俺からしてみれば、幻想というか、もはや伝説上の概念であって、つまりメイドはドラゴンとかペガサスとかユニコーンとか河童と同じ位置付けで、だれでもドア開けたら河童がいたなんてシチュエーションに遭遇すれば興奮するだろう。だから、きっと俺が今興奮してるのも、『目の前に河童現象』であって、断じて美少女とメイド服の相乗効果に悶え死にそうになっているのではない!
結論、メイドは河童!
どうだ、これが研究者の完全な理論武装だ!
あれ、理論ってなんだ?
俺はごほんと咳払いをする。
「やはりご主人様と呼んでもらおうか」
言った瞬間、俺の後頭部を衝撃が襲った。
「痛ってー!」
春乃がテレビのリモコンをフルスイングして俺の頭を叩いたらしい。
睨み付けると、振り抜いた格好のままの春乃が言った。
「死ねよ」
「後頭部叩くなよ!記憶飛んだらどうすんだよ」
「豚は喋るなよ」
「……」
自覚症状があるだけに言い返せない。
くそ!理論武装したのに……
「あなた、さっき廉のことご主人様って言った?」
「はい」
「あなたの主人はそもそも東堂でしょう?」
「いいえ。私のご主人様は廉様、春乃様、凛様でございます」
メイドをつけるってそういうことかよ。
「……ご、ごごご主人様って言ったって何も出ないわよ?」
春乃にも効果抜群、急所に当たったようだ。
「ご主人様にねだろうなんて滅相もございません」
「そ、そう」
春乃は挙動不審にキョロキョロする。
「私が春乃様にご奉仕させていただきます」
「…………ごほうし」
春乃はぽぉーっと突っ立ったまま動かなくなった。
そして、そのまま床に倒れた。
「メイドってお掃除してくれる人?」
唯一正気を保っている凛が言った。
「いえ。もちろん家事全般は私が引き受けさせていただきますが、ご命令とあらば、あんなことやこんなこともさせていただきます」
めまいを感じて俺は床にへたり込む。
冷たい床で沸騰しそうな頭を冷やしながら横を向くと、春乃も焦点の合わない瞳でこちらを見ていた。
最近こいつが実はポンコツではないかと思うのだが……
もう残りは凛しかいない。あとは頼む。
凛も頬を赤らめながら言った。
「あ、あんなことこんなことって……」
やめろ!そこは掘り下げてはいけない!
「ご安心を。私は同性もそういう対象でございます。お求めとあらば凛様もご命令ください」
凛も全てを聞き終える前に突っ伏した。
メイド最強じゃね……?
世界から魔法が消えた日のこと〜世界が理不尽で残酷で救いようがないとしても俺たちは抗い続ける〜 ぽっぽ @tasokare-0119
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