第11話 救星主を求めて……

 マイホームを失った俺たちはひとまず、新たな拠点を探すために街へと降りた。

 街にはいくつもの爆発痕があり、全壊した建物もちらほら見えた。

 一歩踏み入れた時に感じた、何かが混ざり合ったような匂いの正体が次々に分かっていく。

 今も燃え続ける家屋、死体、飛び散った肉片……

 俺たちは、さながら地獄絵図の中に迷い込んだような気分で歩いた。

 黙々と歩いてゆく。

 流れる景色を全身で感じつつも、どこか現実逃避しながら。

 

 爆発に巻き込まれなかった人々は食料と水を求めて歩いていた。

 俺たちもその人の流れに乗った。


 その流れは体育館らしき建物まで続いていた。

 どうやらここが緊急避難所のようだ。

 食料と水を配布する長蛇の列を横目に俺たちは体育館の中に入った。

 と、そこで見知った顔を見つけた。


「おーい、俊!」


「廉か!無事だったんだな!本当に良かった!研究所の方で一際でかい爆発が起こってたから心配してたんだ」


 人懐っこい俊の顔を見ると、緊張が緩んでいくのを感じた。


「お前も無事だったんだな」


「ああ」


「あのさ、これからどうすんの?ここにいるってことは……」


「うちはもう人が住める状態じゃないよ。俺は母さんと父さんと一緒にここ泊まるよ。しばらくすれば、親戚が迎えにきてくれると思うし」


「そっか。良かったなみんな無事で」


「お前もな」


 俺たちと俊はともに軽く20分はかかりそうな食料配布の列に並んだ。

 誰も口にしないが、俺たちの中で焦燥感が膨らみ始めたのは言うまでもない。

 

 世界は確実に滅びへと近づいている。

 誰もがそのことを知らずに、昨夜の悲劇を単なる悲劇としか捉えていない。

 この悲劇が終末まで続く導火線の火種だと知っているのは俺と春乃と凛だけだ。

 だが本当に俺たち3人だけで抱え込んでいい問題だろうか?

 仮に政府が世界の破滅を目論んでいるのだとすれば、誰と共有すればいい?

 東堂理事長?俊?

 俺はふと隣に立つ俊に目を向ける。

 俊に全てを話すか否か、躊躇っていると、


「やあ!若宮くん!」


 背後から力強い骨のある声が聞こえてきた。


「東堂理事長!ご無事でしたか」


 東堂修二郎。魔法大学理事長が4人のボディガードと思われる黒服を連れて立っていた。


「君たちが無事で良かったよ!実は探していたんだ!」


「俺たちをですか?」


「ああ。少し話ができないか?」


「もちろんです」


 ここで東堂理事長と会えるのは心強い。

 彼から援助を受けられたなら研究を続けられるかもしれない。

 それにあわよくば、全てを打ち明けてともに戦えるかもしれない。



 俺たちは俊と別れて東堂のリムジン型の魔動車で話し合うことになった。


「そうか。君たちも大変だったんだな」


 研究所が爆発で崩壊したこと、そして現状行くあてがないことを話した。

 

「ええ。命が助かっただけでも幸せですがね」


「それは違いないな。ハハハッ」


 俺は東堂にせめて研究所だけでも貸してもらおうと口を開いた。


「あの理事長、」


「私と協力関係にならないか?」


 東堂は俺の声にかぶせて言った。

 

「協力関係とは?」


「私は君たちに研究所と住む場所を提供しよう。必要なものがあればなんでも迅速に調達しよう」


 これでもかというほど美味しい話だ。

 だが……


「こちらは何を出せばいいですか?」


 東堂がふっと笑ったような気がした。


「すべての実験成果の報告。そして、一連の魔力爆発について持っている全ての情報の提示。以上だ」


 やられた……

 もしも仮にこの話を受けなければ、研究ができずこの世界が滅ぶのをただじっと見つめることになる。

 だが、もしも受ければ……

 東堂は本当に信用に足るか……


「わかりました。協力しましょう」


 俺たちに選択肢は無い。


「そう言うと思ったよ。よろしく」


 東堂が差し伸べた手を俺は握った。




 俺たちは、そのまま東堂邸へと案内された。

 なんでも俺たちが以前訪れた建物は爆発に巻き込まれてしまったそうだ。


「すげぇ……」


 凛が目を輝かせながら言った。

 東堂邸は煉瓦造りで豪勢なシャンデリアや噂に聞くレッドカーペットやらがこれでもかという程に目に飛び込んでくる。


「おかえりなさいませ。修二郎様。そちらは?」


 執事と思われる男性まで現れた。

 恭しく礼をしたその男はことのほか若く、おそらくは20代前半といったところだろうか。

 ボディガードの着ているものよりもやや派手な黒服を着ていた。

 

「こちらは以前皆に話した救世主達だよ。これからは我々の仲間だ」


 ん?救世主?


「ついに始まるのですね」


「そうさ。終末が終わり始めるのだよ」


 終末?

 一体何のことだ?

 

「理事長。あなたは一体何をどこまで知っているのですか!」


 春乃が慌てたように言った。

 東堂は笑みをたたえながら、片手をすっとあげた。

 すると、広大な屋敷のエントランスの四方のドアから黒服の男達が現れた。

 その数、ざっと80人ほどだ。

 俺は凛と春乃とともに東堂から距離をとった。

 俺は春乃と凛だけに聞こえるように言った。


「魔法壁を展開できるか?できるだけ強固なほうがいい」


 春乃と凛は昨夜の魔法爆発をしのいでいる魔力の枯渇が予想できた。

 2人はだが、ゆっくりと頷いた。


「俺が人差し指を立てたらすぐに展開しろ。今から擬似魔法爆発を発動する」


 春乃と凛は畏怖をたたえた瞳でじっと俺を見た。


「本当にそんなことできるの?あれを再現なんて……」


「半々だな。俺を信じろ」


 我ながら訳の分からないことを言っている。

 思いつきの理論で超自然現象を再現するとか、半々なのに信じろだとか……


 俺は神経を研ぎ澄まして、周囲を取り囲む黒服の一挙手一投足に注意した。

 

「そう警戒しないでもらいたい」


 東堂はそういうとあげた手を振り下ろした。

 すると、黒服達は一斉に黒服を脱ぎ捨てた。


「「「へ?」」」


 俺たちは同時に声をあげた。

 張り詰めた糸がぷつんと切れるような間抜けな声を。

 黒服の下にはエメラルドグリーの魔法耐性を持つ服を着ていた。

 そして何より驚いたことに彼らは銘々に友好的な笑みを浮かべてこちらを見ていた。

 俺たちは修二郎に目を向ける。

 修二郎はしてやったりといった笑みを浮かべて両手を広げた。


「ようこそ!救星団へ!」

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