第8話 RENブラックアウト……

 東堂理事長との面会から、ひと月が経った。

 魔法災害や寄生型魔法生物そして、星核エネルギーについて研究を進めようとしたが、これと言った成果は得られなかった。


 星が滅ぶまでに残された猶予は、あと2ヶ月。

 その間に、俺たちは、星を救うすべを編み出さなくてはいけない。

 およそ1万3000年前の間、この星に蓄積し続けている魔法が星のエネルギーを喰らっている。

 だから、俺たちは、この星から魔法という概念を消滅させ、星核エネルギーを復活させなければならない。

 

 だが、タイムリミットが迫ってくるにつれて、俺たちの中に生まれるのは、不安と恐怖ばかりだった。



「くそ!! ほんとに何か法則があるのかよ!!」


 俺は、資料を広げた机を両腕で叩いた。

 俺は、魔法災害の発生箇所の法則を調べていた。

 魔法災害は、星核エネルギーを喰らった魔法が、星にそのエネルギーを返還する可能性を秘めている。

 それゆえ、俺たちは魔法災害を研究していたのだが、過去400年以上のデータを分析しても、いっこうに発生場所の規則性が見つからない。

 それどころか、魔法大学で起こった魔法爆発が起こって以降、魔法災害自体が完全に鳴りを潜めていた。


 と春乃が俺の様子を見て言った。


「廉、そろそろ眠りなさい。もう何日も寝てないでしょ」


 凛も言った。


「そうだよ。一度眠ってから集中したほうがいいよ」


「こんな状況じゃ眠りたくても眠れねぇよ。大体人のこと言ってるけど、お前らだって昨日は寝てないだろ。お前らが寝ろよ」


 春乃が言った。


「じゃあ、廉が眠ったら私も眠るわ」


 俺は口ごもった。

 俺は、春乃にも凛にも無理をさせたくはない。

 だが、俺は今ここで眠れば、世界が滅ぶような気がしていた。

 焦りが俺にそう感じさせていた。

 眠ることが怖い。


「いいから2人は眠れ。5時間経ったら起こしてやるから」


 2人は何も言わずに俺の机に、ボトルに入ったお茶を置いて、研究室から出ていった。


 刻々と迫る破滅の日。

 だが、世界は破滅の前触れすら見せず、平和そのものだった。

 もしかすると、『俺たちの星核エネルギーが枯渇すれば世界が破滅する』という考えが正しくないのではと思いもしたが、そんなことは言ってられない。

 悠長に構えていて、滅んでしまうには、この星はもったいない。

 大切な者がいるから。

 失う恐怖が俺を支配する。

 眠ろうとしても体がすくむ。

 星を救うと豪語したが、このザマだ。


 苦しい。


 俺は、ボトルのお茶を飲み干して、トイレへ行こうと立ち上がった。

 トイレへ続く廊下は、寝室と隣接している。

 俺は眠っているであろう2人を起こさないよう、明かりをつけずに、廊下を歩いていく。

 とその時、腹部に激痛が走った。


 

 俺の意識はそのまま闇へと引きずり込まれた。

 目を覚ました時、世界の形がこうも劇的に変化しているとは、予想だにしなかった。



 

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