第6話 死という事実……
魔法大学・研究棟で爆発が起こった翌日。
俺たちは山をひとつ越えて、魔法大学の校門をくぐった。
そこには、通学路の途中から徐々に数を増やした記者たちが蟻のようにたむろしていた。
爆発から難を逃れた体育館や食堂、講義棟に、報道陣が拠点を置いていた。
俺たちが爆心付近までたどり着くとそこには、複数人の警官が立ち入りを禁止していた。
「やっぱ、そう簡単に入れないよな」
「ま、ここからじっくり見物しましょう」
俺たちはできる限り近づいて、爆発の痕跡を脳に焼き付けんばかりに観察した。
凛がふと言った。
「廉にぃ。もしも魔力爆発が起こったならここには、大量の魔力が滞留してると考えるのが妥当だよね?」
「ああ、俺もそう思う」
「じゃあその魔力を『絶対解析』できないかな?」
「無理だよ、凛。『絶対解析』は絶対なんてついてるくせに使い勝手はあまり良くないんだよ。解析結果の精密さは魔力保有量で限界が決められているし、何より認識外のものを解析対象にはできないんだ」
「そう上手くは行かないよね」
「すまないな」
「そ、そんな謝らないでよ。そもそも星核エネルギーの解析なんて廉にぃ以外の誰にもできないことなのに」
気を遣わせてしまったみたいだ。
俺は、そっと凛の頭に手を置いた。
俺たちはその後、数枚写真を撮って、帰宅した。
リビングの丸テーブルを囲んで俺たちは、再び会議を始めることにした。
「これより、第2回『星を救おう』会議を始める! 議題は大学で起こった魔法爆発だ」
俺がそう言って、会議は始まった。
「せんせー。本当に魔法爆発なんですか?」
凛はやけに乗り気に言った。
せんせー……悪くない。
「まずはそこからだな。凛氏はどう思う?」
「わたしは、魔法爆発で間違い無いと思います。まず、瓦礫の断面ですが滑らかな曲面でした。もしも仮に、物理的な力による爆発であった場合、断面は割れて、もっと角ばったものになると思います」
「つまり、あの滑らかな断面は、高エネルギーを放出する魔法爆発によって、部分的に消し飛ばされた痕跡だと?」
「はい。それにかつて魔力爆発があった南の街の爆発跡とも類似しています」
「ありがとう。次に春乃はどう思う?」
「あれ? 私には、せんせーや凛氏みたいに呼んでくれないの? なんだか仲間はずれにされてるようで気に入らないんだけど」
「分かった。じゃあ……」
俺が考えていると、凛が耳打ちしてきた。
(お前、正気か?)
(そんなにまずいかな?)
(いや、バレたら世界が滅ぶ云々の前に俺たち殺されるよ?)
「2人で何の話してるの?」
「いや……なんでもないよ。な?」
「うん。なんにもないよ?」
春乃は俺と凛に訝しげな目を向けて言った。
「あやしい。廉も凛もはっきり言いなさいよ」
「あ、腹痛って……俺、トイレ行ってくるわ」
そう言って立ち上がった俺の腕を凛が掴んだ。
(おい!放せ!春乃はお前には甘いからお前が謝れば半殺しで済むんだよ!)
(1人で逃げるのは許さないよ。ていうか半殺しってシャレになってないよ!?)
(言ったのお前だろ?罪はお前1人でかぶれよ)
(運命共同体でしょ?)
「凛。正直に言えば許してあげる。私、凛には優しいから」
凛は、俺の腕を震えながら掴んだまま、言った。
「春乃閻魔大王……」
「「…………」」
沈黙が時を止めた。
「ぶっっふぁぁ」
あ、死んだ。
春乃の指が俺の額へと伸びた。
指先に高密度の魔力を蓄えた春乃は、それを俺の額へと打ち付けた。
閃光が俺の額で弾けた。
デコピンだ。
目が醒めると、2人の姿が目に入った。
「俺、どれくらい眠ってた?」
「まる2日よ」
春乃は言った。
「そっか……生きててよかった」
無限に近い魔力を持つ春乃のデコピンは、割とマジで人が死ぬ……
そう言って俺は命のありがたみを実感していると。凛は言った。
「15分ほどだよ、廉にぃ」
「おい!感動を返せよ」
春乃は俺を無視して続けた。
「それで私の意見だけれど、私も魔力爆発だとは思うけれど少し引っかかるの。爆心地が体育館でも講義棟でも運動場でもなくピンポイントで研究棟だったわ。もちろん偶然という可能性もあるけれど、魔法大学の心臓部分である研究棟が意図的に破壊された可能性も捨てきれないと思うの」
「そうだな。これは何者かが人為的に引き起こした魔法爆発の可能性が高い」
「もしそうなら、もはや災害じゃなくて事件だね」
「ああ」
魔法爆発を意図的に引き起こせるのなら、もしかすると、星核エネルギーも意図的に補充できるかもしれない。
だが、そのためには、魔法爆発のメカニズムを徹底的に調べなくてはならないな。
「春乃、凛、この事件は俺たちが思っていたよりも複雑に入り組んでいるみたいだ。もっと調査する必要がある。明日に朝、出かけるぞ」
翌朝、俺たちは、魔法道具店『itEms』へと向かった。
例の魔法爆発の唯一の生存者を訪ねてやってきたんだが、
まさかアイツだったとはな……
俺は押し慣れたインターホンを鳴らした。
「こんにちは。若宮廉です」
『あら、廉君。久しぶりね。廉君来てるよー』
しばらく待つとそいつは姿を現した。
「よお、廉。今日はどうしたんだ? って春乃もいるじゃねぇか。もう1人は……」
「こっちは俺と春乃の高校時代の後輩の
「俺の名前は
俊は、両腕に包帯を巻いていたが、爆発に巻き込まれたとは思えないほど、ピンピンしていた。
さすが、魔法大随一の魔法武闘家。その魔法壁の強度も並大抵ではないらしい。
俊は、俺と春乃とは中学の頃からの仲で、特に俺にとっては数少ない友人の1人だ。
「よろしくお願いします」
「で、今日は朝っぱらからお揃いでどうしたんだ?」
「とぼけるなよ。分かってんだろ?」
「ふふっ。まあな。廉。黙ってて悪かったな」
「話してくれるんだよな?」
「ああ。まあ、ここじゃあなんだ。中に入ってくれ」
俺たちは、2階の俊の部屋に上がった。
「何もないけどくつろいでくれ」
俊はベッドに、俺たちはカーペットの上に腰を下ろした。
「俊が研究棟に出入りしていたとは初耳だな」
通常、一回生で研究員として研究棟を出入りすることはありえない。
「口止めされてたんだよ」
「誰に?」
「
俺によくわからない液体を注射した魔法生物学界の重鎮だ。
何かがあるとは思っていたが、まさかこう言う風にで絡んでくるとは……
「あいつが……」
春乃もよく知る人物の名に驚いていた。
「爆発の1週間ほど前に俺は白樺に呼び出されて、研究棟に誘われたんだ」
「そして、口止めされたと?」
「ああ」
「お前、怪しいとは思わなかったのかよ?」
「思ったよ。でも、覗くだけでも構わないっていうから見に行ったんだ。研究室では寄生型魔法生物の研究がされていて、面白そうだったから参加することにした」
「胡散臭さしかないわね」
「全くだよ。白樺とやら、怪しさの塊じゃん」
春乃が言ったことに凛も同調した。
無論、俺も同意見だ。
「俊、研究のことどれくらい知ってるんだ?」
「俺が参加した時には、もうほとんど仕上げ段階に入っていたから細かい過程はよくわからん。だが、魔法に何らかの条件下で実体を与えてやると、知性のようなものが見られるそうだ。そして、魔法に人の体を与えようという研究が俺たちの行なっていた『プロジェクトinfection』だ」
魔法に知性が宿るか……
気味が悪い話だな……
俺は春乃と凛の様子を見た。
2人ともどこか納得したような、信じられないような表情をしていた。
だが、これで新たな仮説が生まれた。
魔法が食事をし、さらに知性もあるというのなら……
それはもう生きていると言えるのではないか。
「俺たちはその寄生型魔法生物の培養法を編み出した」
「なあ、俊、お前何か白樺に恨み持たれてないか?」
「そんな覚えはないな。どうしてそんなことを聞くんだ?」
「白樺が不自然にもお前を誘って、その1週間後に爆発事件が起こったなら、白樺がお前を殺そうとしたと考えるのが筋じゃないか?」
「それは絶対にありえない」
「どうしてそんなことが言える?」
「白樺も死んだんだよ」
おかしい。
じゃあなぜわざわざ俊を研究所に誘ったんだ?
何もかもがわからない。
知ろうとすれば知ろうとするほど、闇が深くなって全貌が霞んでゆく。
白樺は本当に死んだのか?
「白樺は本当に死んだのか? 昨日、本当に研究所に来ていたのか?」
俺はそう言って俊に詰め寄った。
俺が掴んだ包帯のまかれた俊の腕にうっすらと血が滲んだ。
と、その時。
ピッシャン。
俺の頬を誰かがはたいた。
俺がそちらを向くと、春乃がそっと俺の手を握って言った。
「落ち着きなさいよ。大丈夫よ。大丈夫だから」
また、俺は取り乱してしまった……
「すまない俊」
「いいよ。気にすんなって。それから、白樺は俺の目の前で光に焼かれて死んだよ。原型をとどめた遺体はないが、俺ははっきり見た」
「そうか。思い出させて悪いな」
「いいってことよ。それじゃ、今度は廉たちの話をしてもらおうか。どうしてこの事件を勘ぐってるんだ? お前達の研究に何か関係があるのか?」
俺達は俊に、研究成果の一部を話した。
無論、世界の滅亡については伏せたのだが……
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