質問攻めは一種の拷問

『ありがとうございました』


 終わった……今日の授業全部。

授業自体はそんなに大変じゃなかったが、休み時間ごとに質問攻めにされるのはきつかった――


「八六九さんって感染者なのよね!」

「そうですね」

「その耳とかって本物なんだよな?

「本物だよ、動かせるし」

「触ってもいい?」

「触るのはちょっと。すぐったいから」

「彼氏とかいるの?」

「いないよ」


 ――大変だった。彼氏なんているわけないだろ男なんだし。

まあ彼女もいないんだけどな。やっぱり女の子のふりをするのは疲れるな。

何回か危なかったが、気づかれてないだろうし。


「八六九ちゃんちょっといい?」

「なに上月こうずきさん」


 この子は上月こうずき柚奈ゆうな

一通りの質問攻めが終わった後に話しかけてきた子だ。

それも質問じゃなくて、心配の声をかけてくれたいい子なんだ! 

すごく癒されたし甘いものもくれたんだ。

安全圏じゃ甘いものとか嗜好品関係は高いし数も少ないんだ。

単純に腹にたまらないからなんだけどな。

ちなみにもらったのはフルーツの飴だった。



「放課後少し時間あるかなって。八六九ちゃんこの町のこと知らないと思って案内しようかなって思ったんだけど」


 案内か。確かに街のこと知ってる人に案内してもらうのはいいよな。

でも玖羽達のこともあるしな、須摩さんに聞かないとだめだな。


「少し待ってもらってもいい?」

「うん」


 さて電話しないとな。


「どうしたんだい燈火ちゃん」

「学校でできた友達に町を案内してもらうことになったので、双子のことお願いしたいんですけどいいですか?」

「友達ができたんだね~。それは大いに結構なことだ。わかったよあまり遅くはならないようにね」

「ありがとうございます」

「気にしないでくれたまえ、交流を深めることは大事な任務だからね。それから、やればできるじゃないか。女の子になりきっているようで何よりだよ」

「からかわないでくださいよ!もう切りますからね」

「楽しんでくるんだよ~」


 帰ったら絶対からかわれる!


「どうだった八六九ちゃん」

「あんまり遅くならないなら大丈夫だよ」

「よかった。えっと友達も一緒でもいいかな」

「うん、いいよ」


 しかし上月さんの友達か。

どんな子だろうな。優しい子なんだろうか、おっとりした子かもしれないな。

 俺の予想は何一つあっていなかった。上月さんの友達は――


「あなたが噂の転校生で感染者のケモ耳娘なのね!」


 ――大変元気のよい子だった。


「私獅子神ししがみ穂火ほのか新聞部よ! この街のことなら何でも聞いて頂戴!」

「よ、よろしく」

「今日はショッピングモールに案内しようかなって思ってるの。買いたいものはあそこで大体そろうの」

「衣食住のすべてがそろうわ。名前はセイン、どんな街にだって必ずあるのよ。あとは歩きながら話すわ」


 三人で街の中心に行くバスに乗った。

一番後ろの席で、窓際から上月さん、俺、獅子神さんの順番で座ってる。

ちなみに耳と尻尾は隠してる。変に騒がれるとまずいからな。


「まずはこの街のことね。この街玲蒼は楔の日以降に作られた町で、主に安全圏から運ばれるウィシュリー鉱石の加工する目的で作られた街なの。だから街の東側は大きな工場地帯になってるわ」


 この街で俺たちの手に入れた鉱石が加工されてるのか。どんな感じに加工してんだろうな。


「後はこれといって見どころはないわ!工場地帯の周りに街があるだけだもの」

「娯楽とかないの?」


 そう聞いた俺の問いに対する答えは意外なものだった。


「映画館とか美味しいものが食べられる場所はセインにあるの。だから皆休みの日はセインに行ってるんだよ」

「上月ちゃんの説明に捕捉すると、電車を使って他の街に行けば水族館とか動物園があるわね。でもこの街の中だとセインしかないわ。セインで遊ぶなら私のお勧めはゲームセンターね。あとは、体動かしたいなら公園に行くか運動場に行くしかないわね」


 俺の思っていた街と違うんだな、発展してないというか。それにしてもゲームセンターか。


「私ゲームってしたことないんだよね。映画もみたことないし。どんな感じなの?」


 あれ?両脇にいる上月さんと獅子神さんが驚いた顔してる。


「八六九ちゃん映画、見たことないの?」

 上月さんに聞かれ、

「ないよ。安全圏に映画館とかないから」

 と答えた。安全圏には娯楽施設なんてないからな。

「ゲームもしたことがないわけ?」

 獅子神さんからの質問に、

「ない。ゲームセンターなんてないし、ゲーム機ってのもない。テレビで見たことがあるくらいだよ」

「「じゃあ暇なとき何してるの?」」


 二人とも言ってることがそろったな。


「テレビを見るか、本を読むかな?あとはボードゲームはあるけどする相手いないからやったことないし」

「八六九ちゃん、私たちが習った安全圏はねちゃんとした街に感染者が住んでるって聞いたの」

「でも、その話だと街というより家が集まってるだけに聞こえるんだけど、どうなの!」


 獅子神さんなんかすごい食いつきだな。それにしてもちゃんとした街か。ちゃんとした街、ね……


「安全圏は壁に囲まれてる。中に住んでるのは感染者だけ。壁の中にあるのは家とちょっとしたお店。お店も飲食店とか食材を売ってるお店しかないよ」

「おっきな建物とかないの?」

「大きい建物は、警察署か交換所くらいじゃない?」

「警察署はわかるけど、交換所ってなに?」


 交換所って何って言われると、困るな。交換所は交換所だし。

獅子神さんになんて説明するか。


「交換所って言いうのは、ウィシュリー鉱石をお金に変えてくれるところかな。あとは武器なんかもうってる」


 あ、二人ともだまちゃった。この話はまずかったか?


「八六九さん!」

「は、はい」


 獅子神さんがばっ! とこっちを向いて俺の肩を握ってきた。


「今日は私がゲームセンターの楽しさを教えてあげるわ!上月ちゃんもそれでいいよね」

「うん。今日は八六九ちゃんに楽しんでもらお」

「えっとお手柔らかにお願いします」


 二人の何かに火をつけちまったみたいだな俺。

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