過去の出来事・二
この日も反政府組織に関する情報はなかったが、報告書は書かないといけないので聞いたことをそのまま書いて提出した。
調査区域の調査が終わり、暇をしているころにまた調査の命令が下された。
「あそこ調査終わったんじゃないですか?」
「そのはずだったんだけどね、クワットロくんの報告書にあった孤児院を調査しろってさ」
須磨さんは手に持った命令書を俺達に向けてヒラヒラさせながら言った。命令書そんな粗末に扱ったらダメじゃ……
「報告を見る限り不振な点は見たらなかったと記憶しているが」
「政府のお偉いさんがね、反政府教育してる可能性があるから詳しく調べるようにってね。しかも政府の役人に確認させるって言うんだから面倒で仕方ない」
「役人来るんですか? 面倒だ護衛とか」
「仕方ないだろう、怪我でもさせたら感染者の立場が悪くなる」
賀塔さんは俺を宥めるように言い聞かせてきた。確かに役人を怪我させたら、守れなかった俺たちにも罰が下るが。感染者は危険だとさらに迫害が酷くなる可能性もある。だから嫌でもなんでも守らないといけない。
「そういう事だから明日はおねがいねー」
次の日、安全圏出口まで車で役人を迎えに行く。別に歩いで行ける距離だが政府の役人 だ。何が飛んできてもおかしくないので、車で行かなきゃならない。
「ここが例の孤児院か、なんとも汚らしい。さっさと終わらせて帰りたいものだ」
政府のお役人はそれはそれは嫌そうに言葉を吐き捨てた。そんなに嫌なら来なきゃ良いのによ。
「現場では我々の指示に従っていただきます、よろしいですね?」
「わかったからさっさとしろ」
須摩さんの言葉に明らかに見下した態度で答える役人。こんな風に政府の役人というものはだいたい見下した態度でいることが多い。
感染者がウィシュリー鉱石を手に入れてるから生活できてるってのに、なんだってこんな態度でいれるんだか。
孤児院を訪ねると、あの時対応してくれた園長が出てきた。
「今日はどう言ったご要件でしょうか?」
「こちらで行ってる教育のことを聞きに来ました」
「あなたはこの前の、あの時はありがとうございます。それで教育のことですね。国語算数あとは道徳を教えています」
「道徳だと? 貴様ら感染者に人権などありはしない。人でないものが道徳を学んでどうなるというのだ。やはりここは反政府教育をしているようだ。道徳をとうして反政府思想を植え付ける魂胆だな」
どうやらこの役人は感染者差別が酷いみたいだな。感染者に人権がないなんて、そんな法律はない。
政府の役人はポケットからスマホを取り出しどこかへ連絡をし始めた。
「お役人様、現場では我々の指示に従っていたく約束です。調査の邪魔をしないで頂きたい。この件は我々の仕事です」
「ちっ、さっさと俺を出口まで送れ」
須磨さんは役人の前に立って、威圧しながら役人を下がらせた。顔には出てないが、固く握られた拳が内に秘める怒りの程を表していた。須摩さんは感染者が差別されることを嫌う。
賀塔さんだって役人を見つめるめに力が入って怖い。
役人を出口まで送り、署まで戻ると直ぐに須磨さんの携帯に連絡が来た。
「直ぐに孤児院に向かうよ!」
「何があったんですか、さっき行ったばかりですよ!」
そう叫びながら焦った様子で扉を蹴破って須磨さんは走っていった。扉壊すほどって何があったんだ!
警察署を飛び出て裏路地を通り近道をしながら向かう中に理由を聞いた。
「政府派が動いたと情報があったの!多分孤児院を襲撃するつもりよ」
「あの役人が連絡していた先は、政府派だったか」
とりあえず
須磨さんは冷静にでも焦りを隠せない様子だった。賀塔さんは淡々とでも言葉には怒りの感情が見て取れた。
政府派のことを話すには警察の内部のことに触れないといけない。警察内部は二つの派閥に別れている。政府の威光に従わないものを粛清する政府の犬、政府派。政府派の暴挙から、感染者を守ろうとする保守派。俺や須磨さん賀塔は保守派だ。
そして今この政府派が孤児院を襲撃しようとしている。賀塔さんの言う通りあの役人が政府派を動かしたんだ。
そして孤児院に着いた頃には、もう孤児院は火に包まれていた。
そばにいる政府派の警官の手からは火の玉が、アーツが孤児院に向けて放たれていた。
須磨さんと賀塔さんは直ぐに政府派の警官を止めに、俺は火に包まれた孤児院の中に入っていった。
警察は正義を執行する立場であり、その正義とは政府のための正義。政府に逆らうものには、容赦のない裁きが待って居る。たとえそれが幼い子供であっても。これが政府派の主張だった。
結局俺は誰も助けることが出来ないまま、崩れていく孤児院を見ていることしか出来なかった。
焼け跡からは遺体が発見されて、幼い子供と大人の女性の遺体だった。園長と子供達の遺体は集団墓地に埋葬され、墓に名前が刻まれることはなかった。
保守派はこの件を好機とみて、政府派の排除に動いた。もちろん俺はこれに参加。政府派は警察内から排除された。
この後孤児院の園長を子供たちを守れなかった俺は警察をやめた。守ることのできない俺が警察でいる資格がないと思ったから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます