過去の出来事
そもそもなんで俺が警察をやめたのか、それを説明するには一年くらい前の話をする必要がある。
上司の須摩さん、同じく部下だった賀塔正樹
がとうまさき
そして俺。この三人で当時チームを組んでいた。この中で一番年齢も経験も少ないのが俺。俺が十六歳で賀塔さんが二十歳、須磨さんが二十三歳。
「君たち、新しい仕事だ」と言ったのが須磨さんで
「今回はどんな仕事なんですか」って俺が言い
「なんであろうとこなすだけだろう」と無愛想な感じなのが賀塔さん
「ではやろうか」
須磨さんのその発言で俺たちは任務にとりかかることにした。
その日須摩さんが持ってきた仕事は、指定地域の調査だった。
当時反政府組織の存在が影で噂され、政府はその噂の真偽を確かめるのに躍起になっていた。
俺たちは揃って事件があった目的地へと向かい、辿り着いた。
そこはありふれた住宅街だった。
「ここか目的地は」
「完全に住宅街じゃないですか。こんなところにあるんですか、反政府組織とやらの拠点」
「あくまでも調査、事実確認だよ燈花くん。何もない可能性だってあるさ」
慣れた様子で須磨さんは笑って流す。唯一の女性だとはいえ、年長者で経験も豊富だ。この辺はしっかりしている。ただそれ以外は結構ずぼらなんだよな。
さて、事実確認の時間だ。
これは簡単に住民に話を聞けばそれでいいんだが、それがなかなか難しい。
……嫌われてるからな俺達。
「ちょっと話聞きた「あんたらに話すことなんてないよ!」ど」
とまあこんなかんじで、この日収穫はなかった。
次に日俺は一人で調査地区内にある孤児院に向かった。手分けしたほうが早く終わるからと、須摩さんが昨日の調査が終わってから決めた。
どうして安全圏に孤児院があるのか、理由としては二つある。両親が死んで感染者の子供だけが残った。そして子供だけが感染者となり、安全圏に送られた。
鉱石病の原因が分かった現在、なぜ子供が鉱石病になるのか。それは子供たちの知識不足ということが大きい。
ウィシュリー鉱石はアリスの周辺に存在する。しかしまれに普通の人たちが暮らす街に落ちていることがある。それをウィシュリー鉱石だとは知らずに子供が触れてしまい感染する。
「こんにちは」
「はい、どちら様でしょうか」
「警察の者です、ちょっと話聞きたいんですけどいいですか?」
「はい、私にお応えできることでしたら」
この孤児院の園長は、珍しく警察を嫌ってはいなかった。
「ありがとうございます」
「いえ、お役に立てたのでしたらよかったです」
「失礼ですが、孤児院の子供たちはどこに?」
「今は奥で寝ています、先ほどまで勉強をしていましたから。疲れてしまったのでしょう」
「そうですか、これ少ないですが寄付です」
俺は封筒に入ったお金を手渡す。中には十万円程入っている。
今日孤児院を訪ねることになって、昨日のうちに用意しておいた。
これだけあれば力の使わない子供たちは、ひと月はお腹いっぱい食べていけるだろう。
孤児院は政府が援助金を出しているとはいえ、それでは慎ましい生活しかできない。
それはかつての俺自身が経験したことだ。
だからこそ思う、子供は沢山食べて沢山遊ぶべきだって。
十歳の俺を育ててくれた人がそうしてくれたように。
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