昔の仕事

鉱石を換金して、途中店で食料を買って家に到着したのが一時間前。双子はソファーで仲良く寝てる。

 八月に入ってまだ夏の暑さが猛威をふるってる。このボロアパートにクーラーなんて付いてないから、扇風機と団扇がないと溶ける。双子に扇風機やっちまったから団扇であおぐしかない。

 それにしても大人一人分の食料を二人とも食べるとは思わなかったな。金に余裕あるとはいえ明日からどうしたものか。てか、遅くないか。連絡したのが帰ってきてすぐだからもう来ててもおかしくないんだが。


「この扉を開けておくれー」

「なにしてて遅れてきたんですかね、須摩さん?こっちは暑くて溶けそうなんですが」

「いやー屋台で美味しそうなの見つけたね。食べてたら遅れたんだよ。ちゃんとお土産に買ってきてあるよ」

「お土産はありがたいですけどね」


 この人は須摩すま朱未あけみ。鉱石変化をした感染者だ。スーツを着こなし額から二本、鉱石の角のが生えて居る。その他に鉱石変化したところは見えないが、手袋の下には鉱石変化したした手がある。そしてこんななりでも警官だ。あと元上司でもある。


「それで調べてくれたんでしょうね?」

「もちろん調べてきたさ。結果聞きたいかい?」

「そのために呼んだんですよ」

「そうだね。結果はなし。母親からの捜索願もなければIDもなかった。ちゃんと写真照会もしたんだ。少々骨が折れたよ」

「やっぱりか。タグがないんで、もしかしたらとは思っていたが」


 俺たち感染者には、タグと呼ばれる識別IDが与えられる。俺のIDは24、単純に二十四番目に確認された感染者ってことだ。大体は首からかけてあるんだが、あの双子にはなかった。


「おそらくは捨てられたか、誘拐されてきたんだろうけど。きみは面倒ごとを拾ってこないと落ち着かないのかい?」

「そんな体質になった覚えはありませんよ」

「ま、いい。それできみはどうするつもりだい? 届け出さえすればタグはどうにかなるけど、その子たちここに置くんだろ? 食費大変だよ」

「それを今悩んでたんだ」

「解決策を用意しようか?」

「聞くだけ聞こう」

「復帰しない、警官に」


 俺たちは戦わないと生きていけない。が例外もある。仕事に就くことだ。当たり前と言えば当たり前だが、感染者が普通の仕事をするのは難しい。それはなぜか?


 戦闘は戦えば戦った分報酬が手に入る。戦闘数=報酬だ。

 それに対して仕事は働いた時間で報酬が変わる。時間=報酬だ。

 仮に仕事の時給が千円だとして、戦闘している奴はウルフを二体倒せば千円だ。もしウルフを倒すのに二十分かかるとしても一時間に二千円だ。まあ、見つかる見つからないはあるが。歩いてれば探さなくても出会えるんだ。見つからないということはない。

 と、こんな背景があるんで普通に仕事するより戦闘するほうが稼げる。


 そしてそれにも例外がある。感染者に普通の人間は対抗できない、だから感染者を取り締まるのは感染者にしかできない。つまり感染者専門の警官、それが俺の前職で、復帰しないかと誘われている所だ。


「それしかないか」

「給料はいいからね、住民からあまりいい顔はされないけど」


 警官は住民、他の感染者から嫌われている。簡単な話政府の犬になるわけだからな。安全圏の向こうには普通の人が住む町がある。もし俺達感染者が行こうものなら、多分いろんなものが飛んできて大変だろう。感染者は迫害されている。だからアリス周辺の安全圏にしか住めない。住むことができない。

 安全圏を作り、感染者を隔離・迫害し始めたのは政府だ。その政府に尻尾振ってる政府の犬、警察を他の感染者が嫌わないわけがない。


「それじゃ復帰おめでとう、八六九やろく 燈火とうかくん。それとも政府から与えられたコードネームのほうがよかったかな? クワットロ」

「なれてるほうでいいですよ、ディエーチ」


 一度やめた警官にもう一度なるなんて、思ってもいなかったな。

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