9話

(博音side)

博音「ゲホッ、ゲホッ。」



くッ、大魔王の俺が現世の下級悪魔の呪いにかかるとは…。

(訳:風邪引いた。)

俺、基、伊集院博音は風邪を引いた。

体調管理はしていた筈だが…何故。

両親は病院の方に出ていて、今家にいない。


メイド「博音様、その、お加減は…?。」


博音「平気だから、そっとしておいてくれ。」


メイド「畏まりました。」



少し、無愛想だっただろうか。

でも、今はそっとしておいてほしい。

父さんも母さんもいないんだ。

誰も勉強しろなんて言わない。


さとり「ひーろーねーくーん!」



ああ、ついに俺は幻聴までも聞こえるようになったのか。

my angelであるさとりの幻聴…。


さとり「あれ?寝てる?」


ヒヤリと頬に冷たい感触。

そのあとすぐに額に人肌の体温。

驚いて目を開けると、目の前にはドアップのさとりの顔。


博音「へぁ!?」


お、俺は何て声出してんだ…。


さとり「あ、起きた?。風邪大丈夫かなーってお見舞いに来たよー。多分後で零も来るよ。」


ニコニコと微笑むさとり。

可愛い…。


さとり「ゼリー買ってきたよ、食べれる?。

お粥の方がいいかなー?それも作ってきたよー。」


博音「えっと、お粥…。」


さとり「うんうん、お粥だね。」


博音「あ、ありがとう。」


さとり「気にしないでー。

はい、あーん。」


博音「あーん…ん”!」


さとり「?博音くーん?」



俺はまさか、今、リア充の間で有名なあーんを?

はぁぁぁぁ!?

え、嫌、あの、は!?


さとり「博音くん、一人百面相してるところ悪いんだけど、冷えると美味しくないよー?。」


「ほら」と言って俺にお粥の乗った匙を向けるさとり。


博音「あ、あーん…。」


ああ、卵粥か?。

少し甘い卵とお粥が美味しい。

朝から食欲がなかったからな。


さとり「んー、食欲は…まあ普通かな?

熱はちょっとあったね。何かしてほしいことあるー?。」


博音「否、特に…。」



一緒にいてほしいって言えよ。

こんなチャンス、二度と来ないだろ。

動けよ、俺の口。


さとり「そっかー。じゃあ私帰るね。

お大事に~。」


博音「あ、嫌、待って…!。」



さとりを引き留めようと、体を動かすと自由が利かずそのまま倒れ込む。

だめだ、そばにいてほしいのに…。



さとり「博音くん!」



頭に柔らかな感触。

これは…?。

横を向くと、肌色。


さとり「良かった、間に合った~( ̄▽ ̄;)。」


これは、さとりの、太股…?。


博音「は、嫌、えっ!?」


さとり「ちょ、病人は大人しく寝てる!」



頭をあげようとすると、無理矢理さとりに押さえられる。

その声は、怒りと心配が混じっているように見えた。

ヤバイ、お粥を食べて風邪薬を飲んだから、物凄く眠い。


さとり「薬飲んだから眠くなった?なら寝ていいんだよ。」



優しく頭を撫でられる。

頭に感じる柔らかな手と、温かな体温。


さとり「辛いなら寝ていいよ。

また貸しとか借りとか気にしてるんだろうけど、熱あるんだから難しいこと考えちゃダメ。

博音くんは、私の大切な幼馴染みなんだから。」



母さん「ほら、辛いなら寝ていいのよ。

仕事?…そんなこと、気にしなくていいわ。

息子より、貴方より大切なものなんてないもの。」



さとりの言葉に、母さんが重なって見えた。

優しくて、温かかった母さん。

父さんと同じ医者で、凄く忙しい人。

でも、どんなに忙しくても、授業参観とか俺の誕生日とか、特別な日には一緒にいてくれた。

風邪を引いた日や、お腹が痛くなった日とか。

そんな体調不良の日も、一緒にいてくれた。

高校に上がってからは、余り話してない。



博音「かあ、さん…。」


目を開けて顔を上げると、そこには心配そうに見つめるさとりの姿。

急にまた睡魔が襲ってきて、俺は抗えずにそのまま夢の世界に落ちた。








目が覚めると、俺はベッドに寝ていた。

熱もすっかり下がっていて、体を起こそうとすると、下腹部に違和感。

慌てて目を向けると、さとりが寝ていた。

俺の上で、さとりが。

思わず叫び声を上げそうになるのをなんとか抑えて、深く深呼吸する。

とりあえず落ち着いたので、冷静になってもう一度さとりに視線を移した。

ロングヘアーの髪が真っ白なシーツに広がって、より一層美しいものになっている。



博音「これは前世で対峙した神「蚩尤」による究極の試練…!。」(小声)

(訳:健全な高校生にこれは毒。)



さとり「んん~。」


博音「ピシッ」



さとりが体を捻らせたのを見て、俺はピシッと固まった。

起きた…?。

俺の心配は杞憂だったらしく、さとりはまたスヤスヤと寝息をたてた。

少し、だけなら…と俺は自分に言い聞かせて、

さとりの髪に指を通した。

きちんと手入れがされているらしく、指は髪に絡まることなくスルスルと進む。

そろそろやめないと、と手を止めた。



博音「さとり__愛してる。」



小さな声で、さとりに告白をした。

届かないことが分かった上で。



博音「Happy dreams幸せな夢を



そして俺は、彼女の額にキスを落とした。



暫くして、さとりは起きた。



さとり「ん…私の家じゃない?確か博音くんの看病に来てて。あれ、私寝ちゃった?」


博音「スヤスヤ寝てたな。」


さとり「わわ、ごめんねー。

博音くん、起きれてるってことは熱下がったみたいだね、良かった~(*^-^*)」


博音「ああ。そろそろ日暮れも近い、帰るならそろそろだ。」


さとり「あ、本当だ!じゃあね、博音くん。

また今度3人で遊ぼうね。」



「バイバイ」と手を振るさとりに手を振り返し、俺の家から出たのを窓から確認して、俺は大きく叫びをあげた。



今何をした伊集院博音!


額とは言えど、恋人ではない女子にキスした。


犯罪だぞ!


そう言って自分にツッコミをいれた。






とりあえず、今のはまだ残っている熱の余韻だと思いたい。

だが、いつもより少し大胆になれたのは…。

良かったのかも、しれない。

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