8話

(零side)


さとり「零、そこ間違ってる。」


零「は?」


博音「その一つ前の問題も間違ってるぞ。」


零「嘘だろ…。」



現在地、図書館。

夏休みに遊びすぎて(ほぼさとりの所為)宿題が一ページも終わっていない俺。

尚、さとりと博音は問題が簡単すぎて遊びにもならなかったらしい。


零「何でお前らそんなにすぐ終わんだよ!

夏休みまだ1週間も経ってねぇんだぞ!?」


さとり「何でって、ねぇ…?。」


博音「問題が簡単すぎて問題になっていなかったからだ。」


さとり「ほぼ答え見えてるようなものだったからねぇ…♪。」


零「クソ、天才共が…。」


さとり「んフフ、何とでも言いたまえ。」


零「萎えたわ。」


さとり「何で!?」



「酷い、そんなに女の子弄りしたいの?!」と嘆くさとりを無視して、目の前の問題に取り掛かる。

ヤベェ、文系全然分かんねぇ…。


さとり「【あないみじや】は、ああ大変だことだ。

【いとあやしきさまを】は、ひどく見苦しいさまを。

【人や見つらむ】は、人が見てしまっているだろうか。

だから【あないみじや。いとあやしきさまを、人や見つらむ】は、まあ大変だこと。ひどく見苦しいさまを人が見てしまっているだろうか。」


零「何でそんなスラスラ出てくんの?」


さとり「古典系の用語は趣味で一通り覚えてるからねー。」


零「脳の造りが違げぇ。」



趣味で?一通り?覚えてる?

お前の頭脳は神かよ、おい。

その暗記力を少しでいいから俺に恵んでくれ。



博音「ククッ,この古典文学に隠された暗号、それを解くのは下級の使い魔を刈り取るほど簡単なこと…。」

(訳:古典を現代語訳に直すのは慣れれば簡単になってくる。)


零「お、おお…。」


博音はまたよく分かんねぇこと言ってやがる。

さとりは理解できてるらしく、「うんうん。」と頷いてやがる。

お前ら、どうやって会話してんだよ。

て言うか博音、お前理系の顔しやがって文系もイケるとかチートだろ。


さとり「次はこっちだねぇ…。フムフム、小説から抜き出した文章から題名を答えろ?わー、私の超得意分野だー!」



そう言ってはしゃぐさとりが可愛い。

天使かよ…癒しだわ。

癒し(さとり)を横目に俺は問題に視線を向ける。

見たことない文ばっかだぞおい。



【おやすみなさい。私は、王子さまのいないシンデレラ姫。あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか? もう、ふたたびお目にかかりません。】


さとり「これは女生徒だね、太宰治!」


零「女、女生徒?」


さとり「女性目線のお話が詰まってるよー!

なんなら今度貸してあげるねー。」


零「嫌、いい…。」



読める気がして来ねぇ…。

次だ次。



【恥の多い生涯を送ってきました。】


零「人間失格?。」


さとり「大正解だよ零!」



「偉い偉い」と頭を撫でるさとりに恥ずかしくなりながら、俺はまた問題に視線を移した。


【その人形を壊してしまいたくなった。】


零「………は?。」



嫌、いきなりなんだよ、サイコパスかよ。

その人形ってどの人形だよ。

いきなり壊そうとするな。



さとり「微笑だね、夢野久作。」


零「題名と全然合ってねぇだろ。」



【死のうと思っていた。ことしの正月、よそから着物を一反もらった。お年玉としてである。着物の布地は麻であった。鼠色のこまかい縞目が織りこめられていた。これは夏に着る着物であろう。夏まで生きていようと思った。】



零「」


博音「葉だな、又もや太宰治」


だからなんで分かるんだよ!

お前も記憶力神かよ!


【幾時代かがありまして

        茶色い戦争ありました。】


博音「中原中也、サーカス。」


零「聞いたことねぇぞ、そいつ。」



誰だよ中原中也。



【どんな仕事をしたか、芸道の人間は、それだけである。吹きすさぶ胸の嵐に、花は狂い、死に方は偽られ、死に方に仮面をかぶり、珍妙、体をなさなくとも、その生前の作品だけは偽ることはできなかった筈である。】



さとり「惚れているなら、」


博音「現世で、生きぬくがよい。」



息ぴったりだなお前ら。

そして「同士」と言わんばかりに握手すんな。


さとり「太宰治情死考、坂口安吾」


零「題名難すぎるだろ。」



【愛するものは、死んだのですから、

たしかにそれは、死んだのですから、

もはやどうにも、ならぬのですから、】


さとり「中原中也、春日狂想だね。」



【夜が明けた。部屋が薄明るくなって、私は、傍で眠っているそのひとの寝顔をつくづく眺めた。ちかく、死ぬひとのようなお顔をしていた。酷く、疲れはてているお顔だった。

犠牲者の顔、貴い犠牲者。

私のひと。私の虹。マイ、チャイルド。にくいひと。ずるいひと。】



零「……どういう状況だよ。」


さとり「太宰治、斜陽だね。

興味があるなら本貸そうか?」


零「遠慮しとくわ…。」



終わる気がしねぇ、て言うか終わらねぇ。

そして俺は、日が暮れるまで勉強して漸く国語だけを終わらせたのだった。




………。

俺、一体誰に言ってんだ?。


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