第6話 過去の転生者

今、俺達は美人のエルフの自室に居る。

俺と沙紀、それに美人のエルフに先ほどギルマスを呼びに行った受付の獣人の4人だ。


部屋は綺麗に整頓されていて、窓際に大きめの机、壁には本や書類らしき物がギッシリ並んでいる。机の前にはアンティーク調の3人掛けソファーとローテーブルが置かれていて、俺と沙紀はソファーに腰掛けた。


「マセリーナは戻って居なさい」

「はい」

マセリーナとは、受付の獣人の娘だ。


「俺達に話ってなんだ?」

「少し待ってもらえるかしら…」

マセリーナが部屋を出た直後、美人のエルフはまた何かを唱え始めた。


「これで声が外部に漏れる事はないわ」

「どういう意味だ?」

「単刀直入に言うわね! 貴方達は異世界から来た人達ね?」

「「えっ!?」」

俺と沙紀が同時に顔を見合わせてしまった。


「なぜ、そう思う?」

「簡単なことよ」


俺と沙紀はまた顔を見合わせた。


「まず、先にコレを渡しておくわね。貴方達のギルドカードよ」


銅色の2枚のギルドカードがテーブルに置かれた。


「カードにも記録されてるニホンと言う地名、それに貴方達の瞳の色」

「それが異世界とどう関係があるって言うんだ?」

「これだけじゃ普通は分からないわね」

「だろうな」

「今から約7万日前、いえ貴方達の世界では360日程を1年と呼ぶのだったわね…だから約200年前って事ね」

「なんでそんな事を知ってるんだ?」

「まずは、私の話を聞いて頂戴」

「あぁ」

「約200年前に私は異世界から来たケンジと言う子と一緒に冒険をしていたのよ」

「…!?」

「その時にケンジからニホンの話を聞いたわ」

「ちょっと待ってくれ!じゃあ200年前にも俺達みたいにこっちの世界に来た奴が居たって事か?」

「やっぱり貴方達もそうなのね?」

「あぁそうだ。俺達は違う世界からこっちの世界に転移して来た」

「でも変ね…ケンジは出身地がこちらの世界だったわよ?」

「たぶん、ケンジって奴は転生してこっちの世界に来たんだと思う」

「……そうなのね」

「じゃあケンジって奴も特別な力を持っていたのか?」

「持って居たわよ。ちょっと待ってね」

美人のエルフはそう言い席を立ち、後ろの棚から何かを取り出してきた。


「コレよ」

テーブルに置かれた物は1本の青龍刀だった。


「これは?」

「ケンジが使っていた次元刀と言う名の刀らしいわ」

「次元刀?」

「ええ、空間を切り裂いて別の場所から切り付けられる刀なのよ…でもこの刀はケンジにしか扱えなかったわ」

「ちょっと触ってもいいか?」

「構わないわよ 今はただの刀でしかないもの」


俺は次元刀の柄を握り締め翳してみた。


<霊気の刀 次元刀を確認。これより次元刀をランダム変換します>


「あっ、ヤバっ!」


握っていた次元刀が目の前から忽然と消えた。

「えっ?刀は何処へ?」

「す、すまない…俺の能力になっちまった」

「えっ、拓真の能力って銃じゃ……」


<変換が完了しました>

<特殊武器 次元マグナム夢幻を獲得しました>


俺はアイテムボックスから1丁の銃を取り出しテーブルに置いた。


「もしかして、あの刀がコレ?」

「あぁ、変換されちまった」

「そう…ケンジの刀がコレになったのね」

「ホントすまない!」

「いいのよ、気にしなくて…ずっと使われずに居るよりかたちが変わっても使って貰えた方がケンジも喜ぶと思うの」

「そう言えば、まだお姉さんの名前聞いて無かったんだけど、聞いてもいいっ?」

「あら、そうだったわね、私はアルタゴのギルドマスターをしているクウラよ」

「あたしはサキ!で、こっちがタクマ」

「よろしくね、サキにタクマ」

「あぁ ひとつ聞きたいんだがいいか?」

「どんな事かしら?」

「ケンジはどうなった?」

「……死んだわ」

「寿命か?」

「いえ、違うわ…王女を庇って幻魔獣に」

「そうか 嫌な事を思い出させて悪かったな」

「いいのよ、もう200年も前の事だから」

「エルフが長寿命って言うのは本当だったんだねっ」

「今、話に出てきた幻魔獣ってのは何だ?」

「200年前、アルタゴが建国する前の話になるけど、私達精霊族は人族と獣人族と共闘し魔人族と戦っていた事があるの。その時に冥王と名乗る魔人が作り出した魔獣…それが幻魔獣よ」

「その戦争にケンジも駆出されたって事か」

「駆り出されたと言うよりは、ケンジの場合は自ら希望して参加したわ」


(ケンジって奴は正義感が強かったんだろうな)


「その戦争ってまだ続いてるの?」

「それは俺も気になるな、どうなんだ?」

「沢山の被害は出たけど、リューベル大戦は私達同盟の勝利で終止したわ…」

「リューベルってのは土地の名前か?」

「ええ、王都の名よ 三大国家のひとつ、それがリューベル公国。アルタゴはそのリューベルに属する街のひとつよ」

「その戦いに勝利したって事は、冥王とか名乗った奴も幻魔獣も死んだのか?」

「幻魔獣は死んだわ。でも冥王は戦いの中で忽然と姿を消したのよ」

「逃げたって事か?」

「分からないわ……幻魔獣を倒した後には、冥王はもう居なかったのよ」

「その戦いから今に至るまで、その冥王って奴は現れて居ないんだな?」

「ええ、あれ以来姿を現しては居ないわ」

「そうか…」


俺は少しの時間考えた。俺と沙紀がこの世界に転移させられたのは、再び冥王と戦わせる為ではないかと。


「どうしたの?拓真 そんな顔して…何か気になる事でもあった?」

「まぁ、ちょっとな」


考えても答えは出ないだろう。俺達を転移させた存在すら分からないのに…


「話ってのはそれだけか?」

「ひとつはね」

「他はなんだ?」

「先程の事よタクマ」

「ん?」

「魔族を見抜いた事よ」

「あぁ、あれか あれは俺の能力のひとつだ」

「それは分かっているわ。そのタクマとサキの力を貸して欲しいのよ」

「魔族を探し出せって事か?」

「探し出すだけではなく、根城を見つけて欲しいのよ」

「ここ最近、あちこちで魔族による人や獣人狩りが多発しているのよ」

「そんなの高ランク冒険者や国の兵士達で何とかなるんじゃないのか?」

「そう簡単にはいかないのよ。さっきの魔族の様に人や獣人に成りすましている事が多いから、見つけるだけでも大変なのよ」

「それを俺達で見つけてくれと言いたいのか?」

「そういう事よ」

「今まではどうしてたんだ?」

「王都に居る精霊族が魔族に反応する結界を張って対処しているわ」

「それだけじゃ不十分なのか?」

「既に結界内部に居る魔族や結界の外では見つけられないのよ」

「魔族を見つける手段は他に無いのか?」

「あるならタクマに頼んだりしないわ」

「拓真、手伝ってあげようよっ」

「沙紀を危険な目に遭わせたくねぇーんだよ!」

「…拓真……」


(あれ?また俺は変な事を言ったか!?)

沙紀の瞳が潤んでいた。


「じゃあ、こう言うのはどうかしら? 依頼としてお願いするのはどう?もちろん報酬も出すわ」

「報酬はなんだ?」

「そうねえ…今タクマ達が借りている宿の費用をギルドが支払うのと、魔族を1人見つける毎に銀貨50枚でどうかしら?」

「悪くはねぇーな」

「じゃあ決まりね それと、貴方達のランクをギルドマスターの権限でDにしておくわね」

「いいのかよ、そんな横暴なことして」

「いいのよ、それにDランク以上じゃないと行動に制限が掛かってしまうのよ」


(完璧、職権乱用だなっ)


「で、いつから始めればいい?」

「明日からお願い出来るかしら?」

「あぁ分かった」

「じゃあギルドカードを預かるわね。マセリーナの所で待っていて!」


俺と沙紀はクウラの部屋を出て、1階に居る受付のマセリーナの所で待機していた。


「ねえ拓真、あたしはどうすればいい?」

「部屋で待ってろと言ったところで、どうせ着いて来るんだろ?」

「うん」

「なら沙紀のしたいようにすればいい」

「でもあたし武器になる物持ってないよっ」


「それならサキには私が昔から使っていた道具を貸してあげるわよ」


待機していた俺達ちの後ろからクウラが現れた。


「マセリーナ、私の武器を出して頂戴」

マセリーナはカウンターの下からひとつの武器を取り出しカウンターの上に置いた。


それは金銀で装飾された豪華なボーガンだった。

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