第7話 小悪魔
カウンターに置かれたボーガンを沙紀は手に取りマジマジと見ていた。
「気に入ってもらえたかしら?」
「コレって銃みたいに使うやつだよねっ?」
「そうよ。弓より扱い易くて、何より折り畳めるから移動も楽になるわよ それと…この世界では銃と言う武器は無いから言葉に気を付けてね」
「矢はどうすんだ?」
「私の場合は魔法矢で使ってたけど、サキちゃんは魔法が使えないからコレを渡しておくわね」
沙紀に渡された物は矢筒だった。
「ベルト式だから腰にセットして使うのよ」
「こうですか?」
早速腰に装着していた。
「そうよ。矢を入れ過ぎると重くなるからね」
沙紀は矢筒の蓋を開けて中を確認していた。
「1…2…3………20、20本入ってる!」
「矢は鍛冶屋か道具屋で手に入れられるから、足りなくなったら補充するのよ」
「ありがとうクウラさん」
「いいのよ お礼なんて。頼んだのは私の方なんだから」
「今、気になる事を言っていたが…」
「あら、なにかしら?」
「沙紀が魔法を使えないって、なぜそう思ったんだ?」
「それは、人族は魔法が使えないからよ」
「魔法が使えないだと!?」
「ええ、そうよ。魔法を使えるのは精霊族か魔族だけよ」
「待て待てっ! じゃあ人や獣人はどうやって魔人族と戦ってたんだ?」
「普通に武器を使ってよ!あとは精霊族が作ったマジックアイテムなんかも用いてね」
俺はクウラに小声で耳打ちした。
「なぁクウラ」
「ひゃっ、…んあっ」
「えっ!?」
「ちょっと拓真!なにやってんのよっ!あたしが居るのに!?」
「いや、何もしてないぞ…」
「んもぅ、タクマったら…エルフは耳が感じちゃうのよっ…ハァハァッ」
「知らねぇーよ!」
「いいわよ、落ち着いたから…ハァッ。な、何か聞きたかったんでしょ?……ンフッ」
(いや、落ち着いてねぇーだろ)
「いいや、今は止めとく」
「もぅ大丈夫よっ だからさっきみたいに小声で…」
(な、なんでそんな嘆願する様な目になってんだよ!?)
俺はクウラの見つめる瞳に負け、小声で聞いてやった。
「こっちの世界にアイテムボックスの類はあるか?」
「……ぁん、な、ないわ…ぁっ、はぁっ…っ!」
「もう見てらんない!あたし先に帰る…フンっ」
「ちょっ、待てよ!」
(キムタクっぽかったな…)
沙紀はスタスタとギルドを出ていってしまった。
「…タ……クマ…も、もっと、話して…」
「話せる訳ねぇーだろ!」
小声でのやり取りだった為、周りには気付かれてはいないが、目の前に居たマセリーナだけは口をポカンと開けたまま固まって居た。
「こ、こんな…き、気持ちになったの……200年振りな…なのよ」
「知るかよっ!」
「お願い、あと1度、あと1度だけでいいから」
「勝手にやってろ!」
欲望に魅入られたギルマスを放って、俺は沙紀を追いかけギルドを出た。
宿に着くなりリズさんに声を掛けられた。
「あら、バラバラに戻って来たんですね。ケンカでもしちゃった?」
「いや、そう言い訳じゃない」
俺は急ぎ足で部屋へ向かった。
ドアは開けっ放しの状態で、沙紀はベッドに腰掛けていた。
「なぁ、沙紀」
「…なによっ」
「俺は何もしていないからな!」
「知ってるしっ」
「じゃあ何で1人で帰ったんだよっ!」
「あんなの見せられたら誰だって嫌になるっ」
「あれはクウラがだな…」
「あたしは拓真の事が好きなんだよ?」
「えっ!?」
「あっ! い、今の無しっ!」
「いや、無しって言われても…」
「ああ、もぅ…じゃあ忘れてっ!」
「わ、忘れる訳ねぇーだろっ!」
(俺だってお前の事が好きなをだよ!)
俺は口には出さず心で叫んだ。
「忘れてって言ってるでしょっ!」
沙紀が俺に気がある事は薄々感じていた。俺も沙紀の事は中学の頃から好意はあった、だけど告白すると言う事はしなかった。
今の沙紀を落ち着かせるには、俺も伝えるしかない…俺の気持ちを…
心でそう自分に言い聞かせ、俺は決意した。
「俺も……俺も沙紀、お前の事が好きだ!」
「……」
(あれ?なんだよ この間は…)
沙紀は俺をジィーっと見つめたまま何も喋らなかった。そう、ただ見つめて居るだけで。
「じゃあ、キスしてっ!」
「はあ?」
「あたしの事が好きならキスしてって言ってるのっ!」
「わ、分かった」
俺は沙紀の肩に手を置き、沙紀の唇へ顔を近づけた時〝ガタッ〝 物音がした。
俺は直ぐに音の方へ振り向いた。
そこにはリズさんがトレーを持って立っていた。
「あら、私ったら…」
そう言い残し、そーっとドアを閉めてくれた。
沙紀はまだ瞳を閉じたままで居たので、俺は沙紀の唇に俺の唇を合わせた。
時間にして2~3秒だったが、俺は顔を離し余韻に浸っていた。
「んっ…もっと!」
もう1度沙紀の唇にキスをした。
「!?」
今度は沙紀が舌を絡めてきた。
所謂、大人の
俺も沙紀に合わせ、沙紀の舌へ絡めた。
微かだが舌を絡め合う度に〝クチャ、クチャ〝と音を立てている。
その音を聞いた直後、俺は電気が走った様な感覚を身体で感じた。
キスは激しさを増し、沙紀が俺に抱きついた。
肩に置いてあった俺の手は自然と沙紀の背中へ回った。お互いに抱きしめ合う。
「んあっ、うふっ満足」
「そうか」
「これからは毎日してねっ」
「は…い?」
小悪魔が誕生する瞬間とは、こう言う事だろうと俺は思わされた。
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