第3話 一文無し

馬小屋を出てから道なりに進んで居た拓真と沙紀は、1時間程で小さな村に着いた。


拓真は腕時計を見て時計が止まっていないか確認し、衣服のポケットなども調べた。


「死ぬ前に所持していた物がそのままだな」

「その事、お爺さんが話してたよ?」

「そうか」

「スマホとか壊れてたけど、直して使える様にしとくって」

「スマホ使えるのか!?」

「電波は無いから通話とかは出来ないけど、カメラとかは使えるって話だったよっ」

「じゃ持ってても意味ねぇな」

「えー、そんな事ないよっ!カメラで写真撮って証拠とかに使えると思うよっ!」

「沙紀は何か勘違いをしてるぞ」

「えっ?」

「こっちの世界にスマホがあるなら、沙紀の言う様に使い道はあるかも知れないが…」

「あーそっか!」


沙紀も気付いた様で、こんな現代品を見せたら不審がられたり狙われたりするのが関の山だ。

腕時計程度なら西洋の品で通るかも知れないが、スマホは危険過ぎる。


「街の物を見てからじゃないと簡単にはスマホは使えないからな!」

「うん、分かった。じゃあアイテムボックスに入れといた方がいいね?」

「そ、そうだな」

アイテムボックスの事をすっかり忘れていた。

スマホをアイテムボックスへ入れると、ウインドウに【スマートフォン:異界の品】と表示された。


拓真と沙紀は村を歩きながら会話をしていたが、人の気配が全く感じられなかった。


「なんか人が住んでる感じしないねっ?」

「あぁ、家も見た感じ荒れ果ててるしな」

「廃墟なのかなぁ…」


結局、村を出るまでに人と会う事も無かった。


「もう少し先に行ってみようと思うが、沙紀は疲れてないか?」

「うん、全然平気だよっ」


村を離れた俺は、今の時刻を確認する為に腕時計を見たら、時計の針は15:40を示していた。

こっちの時間は分からないが、日が傾き始めているのは分かった。


「暗くなる前に街に辿り着ければいいが、もし街に着けなかったら野宿になるな」

「嫌だなぁ野宿するの…虫とか居そうだし」

「虫ならマシな方だ!魔物や盗賊だと命の危険に関わるんだからな」

「そうだねっ、折角生き返ったのにまた死ぬの嫌だしねっ…でも虫も嫌っ!」

「だから暗くなる前に街を見つけるぞ」

「うん、何としても街を見つけようねっ!」


沙紀にとって野宿は余程嫌だったのか、返答に強い意気込みを感じた。


暫く歩いていたら分かれ道になっていた。


「さて、沙紀ならどっちを選ぶ?」

「うーん、左かな?」

「何で左を選んだ?」

「ん、なんとなく」

「じゃあ左に行くぞ」

「あっ、左に行っても街が無かったらあたしの所為にするんでしょ!」

「はあ?道をよく見てみろよ!」

「見て何か分かるのっ?」

「左の道には馬の足跡があるだろ!」

「あっ、ホントだっ」

「多分この足跡は…馬小屋に居た時に衛兵を呼びに行った奴が乗ってた足跡だと思うからな」

「じゃあ、左に行ったら鉢合わせしちゃうんじゃないっ?」

「確実に会うだろうな」

「それじゃダメじゃないの?」

「バーカ、考えてみろよ!衛兵呼びに行った奴は俺達の顔を見てないんだぞ」

「あっ、そうだよね」

「普通にしてれば捕まる事は無いはずだ」


拓真と沙紀は平常心を保ちながら左の道を歩み始めた。


「ねぇ拓真」

「あ?なんだ?」

「街に着いたら宿とかに泊まるんだよね?」

「そのつもりだが?」

「宿って事は…お金要るよねっ?」

「あっ!沙紀お前幾ら持ってる?」

「えっ?7000円とチョット」

「俺のと合わせても20000円か」

「えーっと、そうじゃなくて…」

「なんだよ、ハッキリ言えよ」

「う、うん…こっちの世界のお金無いけど、どうやって宿に……」

「ああぁぁぁぁあ!」

「拓真なら気付いてるのかと思ってたんだけど」


通貨の違いについて、全く考えていなかった。

俺達が持ってる日本円が使える可能性は0に近い。

もちろん外貨両替も出来ないだろう。


「どうするの拓真?」

「どうするって言われてもな 先ずは街に行ってからだ。金の事はそれから考える」

(どうするとか、こっちが聞きたいわ)


財布もアイテムボックスに入れ、通貨の事を後回しにし街を目指し歩いていた時、地を走る音が響いてきた。


〝ドドドドッ〝

「あれは!?」


遠くに見えて居たのは、複数の馬に乗った人の集団だった。

集団はあっと言う間に俺達の目の前までやって来て馬の歩みを止めた。


「おい、お前達はどこから来た?」

1人の兵士らしき人物が尋ねてきたので、俺は咄嗟に嘘を吐いた。


「ニホンと言う異国から旅をしている」

「ニホンだと?聞いた事がない国の名だな…それに見た事もない服装をしているな」


俺達の服装は死ぬ以前に着ていた格好なので、俺はジーンズにボーダーラインのTシャツ、その上から黒のジャケットを羽織っていて、沙紀はギャザーの入った白いロングスカートに黒のノースリーブを合わせジージャンを腰から巻いて居た。


突っ込まれる前に俺は話を逸らした。

「ところでこの先に街はあるかい?」


「ああ、このまま進めばアルタゴと言う街に辿り着ける」

「歩いてどのくらいの時間が掛かる?」

「歩きか…ここを歩く奴は殆ど居ないからな、恐らく60ターム位は掛かるだろうな」

「分かった、ありがとう」


60タームが何分かは分からないが、こっちの世界で使う時間の単位が分かったのは有難い。


上手く話を逸らせた事で、兵士達は俺達を捕らえる事無く走って去ってくれた。

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