第2話 馬泥棒とヤバい奴

「ブルルルッ」

「……馬‥小屋?」

2人が密着する感じで落ちた場所は馬小屋だった。


「いきなり落ちるとは思わなかったぜ」

「ホントだねっ」


「おーい、今馬小屋から音がしたぞお」

「馬泥棒かっ?」

「俺達がとっ捕まえてやる!お前はすぐに衛兵呼んで来い!」

外から男達の声が聞こえてきた。


「ねぇ拓真…」

「あ?なんだよ」

「なんかさっ、状況的にマズイ気がするのは…あたしだけ?」

「別に悪さしてねぇーだろ俺達」


沙紀と話をしていたら2人の男達が入って来た。


「おい!お前等、馬泥棒だな!」

「ちげぇーよ!」

「アニキ、違うってよ」

「バカか?おめえは…泥棒が、はいそうですなんて言う訳ねえーだろ」

「それもそうかっ」


「オジサン達、あたし達は馬泥棒とかじゃないですよ」

「真っ昼間から馬小屋に忍び込む奴なんて馬泥棒以外居ねえだろ!可愛い顔して言ったって逃がさねえからな!」


「俺等も突然ここに落とされたんだよ」

「こいつ、何訳の分かんねえ事言ってんだ?それに天井だって穴が開いてないだろ!」


状況は最悪だった。

転移してきたなんて説明じゃ信じて貰える訳もなく、この状況を打破する策が全くなかった。


「どうしよう拓真…」

「どうしようもねぇーだろ、説明のしようがない以上」

「あたし達捕まっちゃうのかなぁ」

「捕まるも何も、悪い事をしてねぇーんだから疑いさえ晴れれば大丈夫だろ」

「異世界に来ていきなり逮捕とかシャレにならないねっ」


「馬泥棒なんて諦めて大人しく捕まれ」

「だから何度も言ってるが俺達は馬泥棒じゃねぇーっての!」


会話の途中で突然右目に激しい痛みが走った。


「急にどうしたの?拓真っ!?」

「わ、分からん、急に右目が……」


目に激痛が走った後、頭の中で女の声が聞こえた…しかもバカっぽい感じの喋り方で。


≪はーい、アサちゃんでぇーす!銃を使うのでぇーす!≫


(なんなんだよ!?)

≪なんなんだ!と聞かれたら、答えてあげるのが情けでぇーす!≫


(うわっ、これ絶対にヤバいタイプのやつだ)

≪酷いでぇーす!≫


「拓真、大丈夫?」

「いや、なんかヤバいやつの声が」

「あっ、拓真の目…銀色に変わってるよっ!?」

「マジか!?」


≪あああ、私を見捨てないで欲しいのでぇーす≫

(さっきから何なんだよ!)


≪自己紹介しまぁーす!私はアサルトライフルのアサちゃんでぇーす!≫

(はあ?)


≪説明は後でしまぁーす!兎に角銃を拓真の足元に撃つでぇーす!≫


よく分からないが俺はアサルトライフルを地面に向けて撃った。

〝ドパンッ〝


「えっ、何?なんで撃ったの拓真?」


途端に地表から銀光の粒が舞い上がり、俺と沙紀に纏わり付いた。


≪認識阻害弾を使ったでぇーす!≫


「な、なんだ?アイツ等どこ消えやがった!?」

「アニキ、俺等夢でも見てたのかな?」

「アホか!2人同時に夢なんて見る訳ねえだろ」


≪今、拓真達は見えなくなったのでぇーす!≫

(透明になったのか?)


≪違いまぁーす!光を曲げて拓真達を見えなくしただけでぇーす!≫


俺は小声で沙紀に耳打ちをした。

「沙紀!」

「ぁあん」

「……」

「へ、変な声出すなよな」

「えっ、うん…ごめん」

沙紀は顔を真っ赤にしながら応えた。


「ここを離れるぞ」

俺は沙紀の手を引き馬小屋を飛び出した。


外に飛び出し辺りを見渡したが、他に家屋は無かった。

どうやら街外れな場所(馬小屋)に転移させられていたようだった。


「くそっ、もっとマシな場所に転移させろよなっ」

「あの人達なんで急にあたし達を捜し始めたの?」

「あぁそれか…さっき俺が撃った弾丸の所為だ」

「ん?」

「俺達を認識出来なくさせる弾だったみたいだ」

「拓真の眼の色が変わったのと関係ある?」

「たぶんな…あの時、声が聞こえたんだよ」

「転移する時に聞こえた声?」

「いや、こいつの声だ」

沙紀にアサルトライフルを見せた。


「えっ? 銃の声?」

「だと思う」


≪半分正解、でも半分は違うのでぇーす!≫

≪私は銃の魂だけど、銃に宿ってないでぇーす!拓真の意識の中に居るのでぇーす!≫


(でぇーすでぇーす煩いから銃に宿っててくれないか?)

≪寂しい事言わないで欲しいのでぇーす!≫


「あっ、拓真の目…元に戻ってるよ」

≪効果は3分しか持続しないのでぇーす!≫


(ならお前も3分で消えてくれ)

≪つれないのでぇーす!≫


「銃の声って拓真にしか聞こえないんだよね?」

「あぁ、どうも俺の意識の中にコイツの魂が居るらしいんだ」


「取り敢えず今は見つかると厄介だから走り続けるぞ」


しばらくの間走り続けたが、追って来る気配が無かったので走りを止めた。


「ふぅ、追っては来ない様だな」

「はぁはぁ…拓真走るの早すぎっ!」

「あぁ、すまん…しかし銃の魂とこの眼はいったい何なんだよ」

「そうだよね、虹色だったのに銀色になったり」

「いや、そういう事じゃなくてだな…」

拓真は眼と銃の魂の繋がりについて疑問を抱いていた。


「少しコイツと話をしてみる」

「うん、分かったよっ」


(おい、お前と俺の右目に関係はあるんだろ?)

≪お前じゃないのでぇーす!アサちゃんなのでぇーす!≫


(あーはいはい、アサちゃんね…で関係はどうなんだよ)

≪私の力を使う時に拓真の瞳を通して銃とリンクするので色が変わりまぁーす!≫


(使う能力で色が変わるのか?)

≪その通りでぇーす!≫


(他にはどんな能力がある?)

防御結界弾シェルバレット睡眠誘発弾スリーピングバレットとかありまぁーす!≫


(それだけか?)

≪銃の熟練度が上がれば使える能力も増えていきまぁーす!≫


(使い続ければいいって事か)

≪そういう事でぇーす!≫


(じゃあ最後に、なぜ急にお前が現れた?)

≪お前じゃないのでぇーす!≫


(あーはいはい…)

≪拓真が危機的状況になったからでぇーす!≫


「色々と分かったぞ」

「どんな事?」

「眼の変化については、能力が関係していた」

「じゃあ、あたしの髪も拓真の目みたいに色が変わるのかなぁ」

「かもな。あと能力発動には条件もありそうだ」

「条件?どんな?」

「今回は危機的状況って事で使えたらしい」

「危機的状況?……あっ!馬泥棒」

「馬泥棒が危機的状況とは言えないと思うぞ」

「えー、馬泥棒だって危機的状況だよっ!あそこで捕まったら馬泥棒の拓真とか馬泥棒の沙紀って汚名が付いちゃうんだよ?」

「いや、だから馬は盗んでないだろ俺達」

「あっ、そっか…」

「他にも能力を秘めてるらしいが、取り敢えず今は街を目指すぞ!」


俺達はあるか分からない街を目指して只管ひたすら歩いていた。

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