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屋上で栗を茹でてから干す。そうすれば硬いが早く保存食になる。松浦から聞いた。
アユミが栗を茹でていく。蒸した栗を松浦が広げていく。
松浦は、二人居たら面倒くさい仕事も、あっという間に仕事が終わるのを知った。
アユミの、ねぇ風呂に入っていいかな?の言葉に松浦はうなづく。
お互い、相手の名前を言わない。
アユミは松浦を松浦さんと呼ぶのは他人行儀になるので言いたくなかった。
松浦との距離を縮めたかったからだ。もう少し経ったら、まっちゃん。とでも呼ぼうかと考えてた。
松浦の方はアユミと呼び捨てに言うが恥ずかしかった。アユミさん。も変だと思って言えない。
名前で呼び合わないでも二人しか居ないから困る事はなかった。
松浦はアユミが風呂に入ってる時を見計らって焼却炉の中に入る。ドアを静かに開けるにはコツがある。そのまま開けると大きな音が立つ。持ち上げるようにしてドアを開ける。
三人は横たわっていたが生きている。
気付かれないように廊下に戻る。
廊下の本を物色してる時にアユミがバスタオル姿で廊下に出て来た。松浦は慌てて部屋へ戻る。戻ってから慌てて部屋に入った事を後悔した。
リュックを漁ってたり覗きをしてたんじゃないかと疑いをかけられたかも。と。
「誤解なんだよ。そんな事はしない」
松浦は誰も居ない部屋で言い訳をした。
アユミは松浦が廊下に居るのを確認してから出た。が、松浦は急いで部屋に戻ってしまった。
香水をつけるのを辞めて、もう一度お風呂に入ろうと思った。
お風呂にはいつまでも入っていられる。
本の束の一つに女性週刊誌があった。お風呂に浸かりながら読もうかとページを開く。がすぐに閉じた。
昔の幸せな生活がそのページにはあった。
女がハイソな部屋でくつろいでる写真だ。多分、女性商品の広告。
アユミは一気に落ち込んだ。
お風呂に入れただけで幸せと感じた自分。硬い栗の保存食をたくさん作れて安心した自分。
こんな事で喜んだ自分が哀れで惨めでたまらなかった。
アユミはリュックからタバコを取り出し火をつけた。
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