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アユミは風呂に入る気が失せ着替えると、松浦の部屋をノックする。出て来た松浦に言った。

[タバコあるわ。お酒とかは無いの?]

松浦は、吸いたいと言った。アユミはタバコを箱ごと渡した。

松浦は慌てるようにタバコに火をつけ濃い煙を吐き出し噎せた。

[ウィスキーならあるよ]

松浦は言って奥の棚からウィスキーを取り出した。それはウィスキーではなくブランデーだった。アユミは松浦が酒を呑まない事が分かった。

アユミはフタを開けて匂いを嗅ぐ。懐かしく美味しいに違いない香りを嗅いだ。


[これ食べる?]

と松浦はチョコレートの箱を取り出した。アユミがなんか暗かったからだ。


チョコレートは酸化して周りが白くなっていた。松浦は大丈夫だと言って先に食べた。

アユミもつられてチョコを口に入れた。感じた事のない甘さが口の中に広がる。


賞味期限の切れたチョコレート。

それを美味しいと感じた瞬間、アユミの目から涙が溢れこぼれた。

松浦が慌ててる。

[ま、不味かった?ごめんね。イヤだったら吐き出してね]

アユミは首を振る。振りながら泣いた。


松浦に抱きしめて欲しかった。

よく頑張ったね。大変だったね。辛かったね。と慰めて欲しかった。でも松浦にされたくなかった。同情されたくなかった。自分を救うのは自分しかいない。アユミは嫌という程分かっていた。


松浦はどうしていいか分からず、泣き崩れたアユミを立ったまま見下ろすだけだった。


松浦は、なんでアユミが泣いたのかを考えていた。

多分、緊張が解けたのだろうと。当たってるか自信は全くない。


[も、毛布持ってくるね]

松浦は逃げるように去った。


アユミは松浦が毛布を取りに行く間にブランデーを一口呑む。緩んでしまった気持ちを引き締めたかったからだ。


弱さを露出した事を悔いた。が後の祭り。松浦に駆け引きはしなくてもいいとも思った。


松浦が毛布を持って来た。アユミは謝る。

[よ、よく今まで、が、頑張ってきた…ね…]と松浦はどもりながらも声をかけた。ものすごく勇気を出して言った。

アユミは、さっき言って欲しかったと思ったが、首を振っただけにした。


[ありがとう。冷えちゃったからまたお風呂入るね]

松浦は何度もうなづく。

お風呂場に入ってくアユミを見ながら、やはり違ってた。思い切り場違いなセリフを言ってしまった。と悔いた。

でも他に何を言えばいいのか分からない。

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