.15

廊下に出たアユミは窓から見える太陽で時間は昼前と予想した。

松浦の部屋をノック。部屋から寝起きの声。

出てきた松浦は布団をかぶったままだった。目ヤニがついてる。


女の前で格好をつけないタイプ。ある意味厄介なタイプでもあった。女に無頓着だから女の武器を使えない。


[おはよう]

アユミは笑顔で挨拶をする。

昨日の丁寧な口調から親しみのある口調へ切り替えた。やはり松浦はそういうのに気付かず、うん。と答えただけ。


[また屋上へ?]

アユミは尋ねる。松浦はうなづく。

屋上へ上がると松浦の顔が引き締まる。

この切り替えがアユミには不思議だった。

この男は、ちゃんとやるべき時はやるのだ。

そう思った。


松浦は警戒心と少しの変化も見逃さないように外を見渡す。

[また新しいゾンビが来てる]と松浦はアユミに言った。


記憶力もある。私にはどれが新しく来たゾンビか分からない。アユミは松浦を観察する。

[今日も部屋で?]

出しゃばらないように気をつけてるが、つい聞いてしまう。

[栗拾いしなきゃならない]

と松浦はアユミの意図を気にせず指を指した。

多分、その方向に栗林があるのだろう。

[私はどうすれば?]

[うん。手伝ってくれると助かる]

遠慮気味に松浦は言った。アユミは、もちろん私もするわ。と答えた。


二人はブカブカの長靴と雨ガッパを着込む。厚手の手袋。指先や甲には鉄布が仕込んであった。ゴミ解体に使う時の安全手袋。

大きな背負いカゴ。そして補強してあるモップ。ゾンビが来たら、これで押しのけるらしい。殺しはしない。万が一、血が付いたらヤバイからだと松浦は説明した。


ゾンビが襲う日中から活動する事にアユミは少し驚いた。

アユミは朝早くか夕方、夜にしか行動しなかった。

日が暮れるとゾンビは襲わなくなるからだ。

栗林は数分の距離。ゾンビは全く居ない。たくさんの栗が落ちていた。

アユミは喜んだ。が松浦は普通の顔だった。


モップを使う事なく栗を集められた。

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