郵便物

「…──なんだこれ」


 扉の裏、郵便受けに、黒い封筒。b5サイズくらいか、少し歪で手作り感満載だ。


“24時間以内に、誰かにまわさないと──”


 一枚、入っていた。パソコンで作成された文字、面倒なやり方を選んだな。全てデータにすればよかったのに。


 いけない、夜勤に遅れる。靴履いちゃったし、邪魔にはならないよな、鞄に入れよう。





瀧田たきたさん、お疲れ様。その封筒、オレが貰ってやろうかぁ? なんてな~」

「アハハ、お疲れ様です」


 眠気覚ましに持ち出してみた、黒い封筒のことを。涙を浮かべるほど笑い、先ほどの台詞である。くだらない。部屋にあるカップ麺食べて、寝よう。


 チュンチュンと鳥が鳴く、清々しい朝の香り。


「……あ、お兄ちゃん…」

「千里、どうした……。朝早く」


 団地前、今にも泣きそうな千里が居た。俺を見ると、ガバッと抱きついて「誰かにまわさないと呪われちゃう。でもまわしたくない」震える声、でもしっかりと言いきった。


 歪な黒い封筒だ。俺と千里を知ってるヤツだろう。範囲はかなりせま……。


「千里の友達で、パソコン使える子、いる? 印刷まで出来るとか」

「パソコンの授業ないし……いないと思う」


 小学校低学年。俺の時で五年、六年になってからだ。ニュースで導入したといっても、全ての学生には難しいか。


「千里、呪われるの?」

「イタズラだよ。ほら、同じやつ。俺は気にしてないし。千里の分貰っておくよ」

「だいじょうぶ?」

「大丈夫」


 納得、こくんと頷くのを確認し、封筒を受け取った。パソコンの授業がない、そもそも俺と千里の友達とは交遊関係は無い。俺の知り合いが千里と仲が良いのだってあり得ない。


 そうなってくると、身近な大人が仕組んだのか?


「姉貴? いや、バカみたいって言ってやるわけないし。旦那さん……」

「だんなさん?」

「千里のお父さんだったりして?」

「なんで?」

「それは分からないけど」




 少しの違和を抱えて迎えた翌日、同僚からメールがきた。


『瀧田さんが持ってた封筒あるじゃん? 俺の知り合いで、大学時代の友達がする奴かも? なんだけどさ』


 悪戯しそうな性格ってことか? 大学時代の友達……ねぇ。どこの大学だろう。手短に打って、送信した。姉貴の旦那さん、大学卒だったような……聞いてみよう。


 沈む太陽、姉貴から返事がきた。


『確かにその大学よ。それがどうかしたの?』


 一応、事の流れを送っておこう。千里のことが気になるし。遊び心でまかれた種は、色んな想いを巻き込み拡散する。Uターンして本人に戻るか、そのうち枯れるか──。



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