第3話 どうして俺が告るハメに

     ◇


「俺のパートナーに、なってくれっ……!!」


 学校は新学期を迎え、クラス分けの結果に校内の誰もが色めきだつ。桜の花が満開な校舎の体育館裏で……俺は、白雪優兎に告白した。否、しなければならなかったんだ。

 十六年間生きてきて女子に告白するなんて初めてだったから、告白すると決めた日の夜は緊張がヤバかった。しかも相手は学年、いや校内一と言われる美少女だ。いくら小学校が同じで多少面識があるとはいえ、人より少し背が高いくらいで、顔も成績も中の中レベルの俺に射止められるわけがないと思われた。

 だが、今回は事情が事情だ。俺と白雪がパートナーになるのはよくわからないおっさんに定められた必然。しかも、俺の命がかかってるんだ。白雪が人を見殺しにするような鬼畜でない限り、勝機はある。そう思い、十六年分の勇気を振り絞って告白した。


(――どうだ!? 俺の渾身の告白は……!)


 薄目を開けて白雪の顔色を伺う。

 一瞬、驚いたように大きな目をぱちぱちとさせ、少し恥ずかしそうに口元をおさえて赤くなる。スカートの端を掴んだかと思うと、もじもじと膝を動かしていた。


(こいつ、普段は仏頂面なのに、こんな顔もできるんだな……)


 小学校の頃、髪を短くして男っぽい服装をしていたこともあり『男女』と呼ばれていた白雪を知る者としては、なんともこそばゆく愛らしい表情だ。


(ほんと、変わったよな……今の白雪なら、割とマジでアリだな……)


 白雪の口元から手が離れ、桜色の唇が覗く。そうして紡がれた言葉は――


「 イ ヤ 」


 期待に反し、それだけだった。


「 マ ジ か 」


 告白を終えた瞬間に謎の『やりきった感』が全身に満ちて気が大きくなっていた俺が甘かった。


(いやいやいや、待ってくれ! それだと俺は、干からびて死んじまう!!)


 流石に事情を説明しないままパートナーになってもらうのには無理があった。

 俺はその後もめげずに白雪をカフェやファミレスに誘い、事情を説明することに成功する。


 俺の必死の説明を聞いた白雪からの感想は、予想に反して何とも素っ気ないものだった。


「――知ってたわよ。あんたがマスコットだってこと。魔法少女の直感ていうの? なんとなく感づいてはいたわ。まさか、私と同じ『水』に縁がある上に、命がかかっているなんて思わなかったけど」


「はああっ!? 知ってたのかよっ! 声かけてくれよ!」


「 イ ヤ よ 」


「えっ」


「なんで私が男子に――しかも小学校の頃私を『男女』と呼んでからかってた奴に『パートナーになってください』なんて告白まがいのこと言わないといけないの?」


 ぐぬぬ……言われてみれば確かにその通りだ。


 白雪は小学生の頃髪も短く、その名が優兎ゆうとであることから『男女』と呼ばれてからかわれていた。俺は率先して白雪をそう呼んでいたわけではないが、当時友人だった奴らとつるんでからかうことがあったのも事実。


「ごめん……あの頃は俺もガキだった。その節は、悪いことをしたと思ってる」


 おでこがテーブルに着くくらい、頭を深々と下げる。ファミレス内の客の視線が少し痛い。それを見て、白雪はため息を吐く。


「頭、あげなさいよ。私が悪者みたいじゃない」


 ビシッ


「いてっ」


 白雪のデコピンがクリーンヒット。細っこい白魚みたいな指してるくせに、結構ちゃんと痛いやつ。


「昔の話を持ち出したのは悪かったわよ。でも、それ以前に……」


「以前に……?」


「告白は、男の子の役目……でしょ?」


「お前……案外乙女なとこあるのな」


 バシンッ


「あだっ!」


 勢いを増したデコピンが飛んできた。さっきの三倍は威力がある。


「私も魔法少女になったときに、相方のマスコットを探せとは言われたけど、マスコットっていうのは何ができるの? 私があんたと契約してコンビを組むことにメリットは?」


「契約してくれないと――俺が死ぬ」


「それはさっき聞いた」


 しれっと涼しい顔で言いやがる。こっちは命がかかってるっていうのに。


「俺ができることって言われてもな……ミタマの気配とか居場所はなんとなくわかるぞ。探知能力ってやつか? お前のこともそれで見つけたし。おっさんは、魔法少女のサポートができるって言ってたけど、それは組んでみないとわからない」


「ふーん……ミタマの居場所がわかるのは便利ね」


「え? お前わかんないのか?」


「ええ。私にはミタマを倒す力はあるけど、居場所はわからないわ」


「じゃあ、今までどうしてたんだ?」


「私も最近なったばかりだから詳しくないけど、負の感情が集まりそうなところをしらみつぶしに散策したり……かしら?」


「おいおい、行き当たりばったりかよ? それ、危ないうえにすげー疲れそうだな。要はアテが無いんだろ? 俺なら一キロ圏内入ればわかるぞ?」


「…………」


 白雪はばつが悪そうに目を逸らす。校内でも『完全無欠の完璧主義』で知られる白雪のことだ。自分にできなくて俺にできることがあるのは相当悔しいらしい。


「お前にとっても悪くない話だとは思う。っつか……頼む」


 俺が再び頭を下げると、白雪は観念したようにため息を吐いた。


「とにかく、私もあんたも『願いを叶えるため』のノルマがあることに変わりはないわ。探知能力も、メリットとしてはじゅうぶんね」


「……じゃあ!」


「組むしかないみたい。いいわ、契約してあげる。その代わり、あんたには『あること』をして貰うわ」



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