[再掲]SS 布団から出たくない幼馴染百合

 冬の時期私は、布団から出るのが死ぬほど嫌だ。

 布団から出ると寒いのがわかってるのになんでわざわざ、出なくちゃいけなのか。それが私にはわからない。

 そりゃもちろん平日には、学校もあるし土日だって色々しなきゃいけないことは、あるよ? でもさそれを加味したって私は、布団から出たくないの! だって寒いから。

「ほら美桜みお。さっさと布団から出なさい。遅刻するわよ」

 私のお母さんが、私の部屋に、私の唯一のプライベート空間に無断で立ち入り、立ち退きを要求してきた。

 私は反論する。この大事なプライベート空間を守るために!

「絶対出ない! 私が布団から出るのは、桜が咲き始めた頃になるからよろしく」

「なに言ってんの。早く出なさい。玄関で梨花りかちゃん待ってんのよこの寒い中」

 梨花は私の幼馴染だ。

 梨花が下の玄関で待ってる。そう言われると申し訳なさというか、罪悪感のようなものも出てくるけれど、私はそんなものには負けないぞ。

 私が一度決心したらなかなか考えを変えることは、ないのだ。

 心の中でハハハと母に向かって笑ってやった。

「早く出なさい!」

 怒鳴りながら布団を引っ張る母に抵抗して、私も布団を力強く引っ張ると、母はため息を吐いた。

「はぁー。わかったわもういい。寝てなさい」

 母は、引っ張っていた布団を手から離し、部屋から出ていった。

 やった。勝った。母に勝った!

 これで今日はもうここから出ないぞ

 そんな風に私が、喜んでいると、コンコンと部屋のドアを叩く音が聞こえてた。

 どうせ母親だろうと、私は少し口調を強めて言った。

「なに?」

 私の声を聞いて、部屋のドアを開けたのは、母じゃなく幼馴染の梨花だった。

 少し怒っている様子の梨花は、ドスドスと音をたてながら私の横まで来ると言った。

「美桜。早く布団から出て。学校行くよ」

 口調が強い時の梨花は、怖いなんて言葉では収まりきらないぐらいには、恐怖の対象なのだけれど、私はなんとか気を強く持って反論する。

「いーや! 今日は絶対に布団から出ないから」

「なんで?」

「寒いから」

「それだけ?」

「まぁ一応他にもあるにはあるけど、大体それだけ」

「寒いってだけなんだね」

 私の心を読んでいるので、もしかしたら梨花はエスパーなのかもしれない。

 そんなくだらないことを考えながら、私が深く布団に潜り直すと、梨花は少し考える素振りを見せた。

「そっか。寒いだけか⋯⋯じゃあ寒くなくなったら布団から出るってことだよね?」

まぁ梨花の言ってることは、間違ってはいないので、私は肯定の意味を込めてうなずく。

「でもさそれができたら苦労しな──」

 その瞬間だった。

 私の唇に梨花が、梨花自身の唇を重ねた。

 つまり梨花がキスをしてきたのだ。

 私は、一瞬で顔を赤らめさせ、梨花から距離をとるように、布団を手に持ちベッドの端に逃げ込んだ。

 こんな時でも布団を離さない私優秀。

 違うそうじゃない。そんな私は優秀なんて分かり切ってることは、どうでもいいの。

 問題は梨花が突然キスをしたきた。その一点だけ。

 私達ただの幼馴染だよね?

「突然何!?」

「いやー。だって美桜が寒くなくなったら布団から出るって言うから、キスしてみました」

「そうは言ったけどさ──」

 その時私は気づいた。

 体が暖かいってことに。

 梨花のキスによって暖かくなったことに。

「ね? あったかくなったでしょ?」

 私はうなずくことしかできなかった。

 だって事実だから。

「それじゃあ行きますか」

 梨花は私の手を握った。

 その手はとても冷たく、私はさっきまで梨花が玄関で待っていたことを思い出し、罪悪感に負けて素直に梨花の手に引っ張られることにした。

 階段を下っている最中、私は梨花に隠れて自分の唇を一度軽く触るのだった。

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