[再掲]幼馴染が可愛すぎる幼馴染百合

 最近、幼馴染と一緒にいると楽しいという気持ちよりもドキドキが勝ってしまう自分が、心配になってきた。

 そりゃ楽しいのは楽しいのだけれど、なぜか胸がドキドキして締め付けられるような感じに落ちいることが多くなってきた。

 こんな気持ちになり始めたのは、高校の入学式の日からだ。

 入学式の日、中学の頃から変わらず幼馴染が私の家に来てくれて、そこから一緒に学校まで登校する。

 中学の頃は、ただの親友以上の友達として見ていた幼馴染のことを私は、なんだかこの子可愛いな。そんな風に思ってしまった。

 その日いつのまにか私は、ずっと幼馴染のことを目で追っていた。顔から脚まで、幼馴染の前身をくまなく追っていた。

 前までは別に幼馴染と目があってしまってもそのまま話続けていられたのだけど、その日以降は少し目があっただけで、幼馴染から目を逸らしてしまうようになっていた。

 単純に目があうと恥ずかしくなってしまうようになった。

 

 そんな私、本間ほんま 糸々しよりは高校入学から一ヶ月が経過した頃、ベッドの上で脚をバタバタさせながら悶えていた。

「なんなの本当に、言が、言が、可愛いすぎるんですけど!!!!」

 言、それが私の幼馴染。名前は、言問ことと こと。髪の毛は、私とは真逆のボブカットで、これまた私とは真逆で言は昔から視力が悪く眼鏡をかけている。

 そんな言が、可愛いすぎる。

 だってだって、今日の登校中突然言が言った。

「糸々。ジャンケンしよ。負けた方が勝った方の言うことなんでも聞くってことで」

 その時私は思った。可愛いと──だってだって、突然なんの前置きもなくジャンケンだよ。しかも罰ゲーム付き。こんなの言以外が言ったら私は、即断るけど言が言ったら、断るなんて選択肢は全くと言っていいほど出てこない。

 だってその時言、上目遣いでお願いしてきたんだよ。眼鏡の奥から覗くあの目! これこそ眼鏡キャラの特権。そんなの首を縦に振るしかできないよ。

 私にとっては罰ゲームも罰ゲームじゃないし。負けるのが想像できなかった。

 一つ恐ろしかったのは、その時の私の顔は、大丈夫だったのかただそれだけ。怖すぎる。突然のジャンケン。そして上目遣い。そしてそして単純に言からのお願い。こんなの表情を冷静にしとくなんてできるのだろうか? 無理だ。

 だから怖い。私その時どんな顔してたのかな。

 まぁ絶対ありえないぐらい気持ち悪い顔をしていたのだろうけれど、寛容な言ならそんなこと気にしないでいてくれるはずだ。

 ジャンケンの結果は、私の勝ちだった。こういう二人の勝負は何故だかはわからないけれど、言が突然しかけてくるので結構な頻度で起こる、けれど私は何かを賭けた言との勝負事で言に負けたことがない。

 一度もだ。

 理由は特にない。

 何故だか私が勝ってしまう。

 一生の運を言との勝負に、使っているのかもしれない。

 まぁそんなことはどうでもいい。

 今はもっと大事なことが、ある。

 それは──今回のお願い事をどうするかだ。

 勝負に勝ったはいいものの何を願えばいいのか戸惑っていた私に、言は胸を叩いて言った。

「じゃあ明日の朝聞かせて。なんでも聞いてあげるから」

 なんでも。

「ふふ」

 今思い出すだけでも変な笑みが、溢れてくる。

 今思ったけど、ジャンケンしよって言われるだけで、可愛いとか思うって私相当気持ち悪いな。

 願い。願い。

 付き合って⋯⋯とか?

 嫌々ないない。私が言に抱いてる気持ちは、恋とかそういうのとはまた別の、気持ちのはず。例えるなら好きなアイドルがいてその人を推しているそんな感じだと思う。

 可愛いと思っても、それは見ていたい応援したいって気持ちであって、付き合ってそう、こうしたいとかではない。はず。

 そうなると⋯⋯手を繋いで欲しいとかかな? アイドルもあるもんね握手会とかそういうの、だから手を繋ぎたいっていうのは私の言に対する気持ちでもやっていいことだよねきっと。

 うん。きっと。

 決めた。

 明日は手を繋いで登校しよう。

 幼馴染でも意外と手って繋がないんだよ。

 少なくとも私と言は中学生になって以降繋いだ記憶はない。

 

 次の日、いつもの時間に家のインターホンが鳴った。

 私は寝起きの口に入れている最中だったパンを早く早くと飲み込んで、机横に置いてあった鞄を手にとり急いで玄関に向かい、扉を開ける。

 扉を開けると髪の毛先をいじりながら鼻歌を歌っている、言の姿があった。

 言は私が扉を開けたのに気がつくと、鼻歌をやめ元気よく挨拶をしてくる。

「おはよー! 糸々」

 いつも元気な言の挨拶に寝起きの私は、若干気圧されながらも、挨拶を返す。

「おはよ〜」

 欠伸をしながらの挨拶になってしまった。

「もうちょっと早くに起きるとかしたらどう? もう立派な女の子なんだからちゃんと髪の手入れとかしなきゃ」

 腰に手を当てて母親みたいなことを言ってくる言に(もちろんこの言も可愛いよ)、言が可愛すぎるせいで寝られないんだよ。なんて言えるわけもなく、私は適当に返事を返す。

「はいはいわかりましたよー。言お母さん」

「お母さんじゃありませんよ〜」

 そんな風に否定しながらも言は、自分の鞄の中から櫛を取り出すと、私の肩に触れ私を後ろ向きにさせる。

 そして私の髪に櫛を入れ、優しく優しく髪を綺麗に整えてくれる。

「こんな綺麗な長い髪、手入れしなくちゃもったいないよ。」

 そんなことを言いながら髪を綺麗に整えてくれた言に、お礼を言う。

「言ありがと。明日からはもうちょい早く起きてみるよ」

 すると言は困った様子で言ってくる。

「それ何回目の同じセリフ? 昨日もその前もまたその前も聞いた気がするな〜」

 私は痛い所を突かれこのままだと、何かやらされそうな気がしたので、適当に誤魔化し学校に行こうと急かす事にした。

「はははー気のせいだよ気のせい。それよりも早く学校行こ学校」

 私はそう言いながら、靴を履き家の中にいる妹と母親に行ってきますと言い、家を出た。

 それにつられまだ納得してない様子の言も家の中に挨拶をして、玄関から歩き出した。

 

 そして登校中、とうとうあの話題が出た。

「それで、糸々は考えてきたの? 私にして欲しい事」

 そうボソボソ言った言は、なんだか若干照れているような感じだった。

 言にしてみれば照れるようなことなのかな? そりゃお願いする私の方は、自分自身でも相当気持ち悪いと思っている私は、若干じゃないほど照れるけれど。

「う、うん考えてきたよ。もちろん」

 さっきまではお互いあんなに普通に会話できていたのに、この話題になった途端お互い喋り方が変になってしまった。

「ふ、ふーんそれで、何かなお願いって、なんでもどんとこいだよ」

 昨日と同じように胸に手を当てそう言った言は、昨日とは違い息継ぎが荒かった。

「え、えっとね。その。手、手を繋ぎたいなって」

 私は私で、言葉を途切らせながらもなんとかお願いだけは、言い切ることができた。

 今の私の顔はどうなっているのだろう、赤一色に染まっているのではないだろうか、耳の先端まで赤色になっているのではないだろうか、安易に言の方も向けない。だってもしも今目なんてあわさった日には、想像も絶するほどの恥ずかしさが襲ってくる。

 だから私は、静かに言の返事を待った。今言がどんな表情をしているのかは、見れないのでわからないけれど多分驚いているいるんじゃないかな。

 もしかしたら気持ち悪がっているかもしれない。

 そりゃそうだよね突然手を繋ごうなんてそんなの、変だよね。

 そんなことを考えている私の耳に、言の声が入ってきた。

 一言。

「いいよ」

 その言葉を聞いて私は、今まで目を向けられなかった言に、勢いよく目を向けた。

 瞬間的な反応だった。

 言は片方の手でもう片方の腕を掴んで、モジモジしながら照れていた。

 私の想像では、驚くか気持ち悪がるかそんな感じだったけれど、照れていた。

 顔を赤面させ、目を下に向け、照れていた。

 私は、心の中で静かに言った。

 可愛いすぎる。

 そんな可愛すぎる言の手に私は、私の手をそーっと近づける。

 手元は可愛すぎる言のせいで見れていなかったので、トンと言と私の指がぶつかる。そして互いに肩をビクっとさせた。

 それから手のひらをなんとか重ね、見事手を繋ぐことに成功した。

 その後学校に着くまで私達の間には、会話は一回も起こらなかった。

 けれど幸せだった。

 会話は起きなくとも、言が私の隣にいてくれる、そりゃ前から隣にはいてくれはしたけれど、今はもっと近くにいてくれる気がする。

 私の心臓は終始バクンバクンと鳴りっぱなしではあったけれどね。

 そして学校に着くと言は、私の手を離し本当に恥ずかしそうに少し口調を荒げながら言った。

「はい! これで終わりなんでも言うこと聞く券は、これで消滅したから!」

 いつも元気はいいけれど常に冷静な言が、凄く慌てている姿が私にはとても珍しかった。思わず微笑んでしまう。

「ふふ」

「な、何? 私おかしいこと言った?」

「なんでもないよ。なんか可愛いなって思っただけ」

 あっ。勢いで言ってしまった可愛いって。今すぐに取り消したい。恥ずかしい、だってだって今まで、密かに心の中だけで思っていたことを言ってしまった。誰か私を土に埋めてくれ!

 今だけ数秒前に戻れる能力をどうかどうか私に恵んで、ください。

「ありがと」

 照れている私に、一言聞こえ私は聞き返す。

「え?」

 すると言は、一層口調を強め私に言ってくれた。

「だからありがとって言ったの! 今まで糸々から可愛いなんて言われたことなかったから」

 そう言い残し言は、私を置き去りにして学校内に走り去って行ってしまった。

 まるで本気の照れ隠しのように私には見えたけれど、どうなんだろ。

 取り残された私は一人でゆっくり学校内を歩き始めた。

 そう言えば昔から可愛いとか綺麗とか言ってくれるのは、言の方で私が言に言ったことはなかったのかもしれない。

 歩きながら私は、なんとなく決めた。

 今度からもうちょっと言のことを可愛いって、ちゃんと声に出して言っていこうと。

 恋とかそういうのじゃなくても可愛いって言うぐらいなら、女の子同士きっと普通のことだよね。

「きっと⋯⋯ね」

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