先生と生徒の幼馴染百合
「先生ここわかんないー」
窓から夕日が教室を照らしている時間、教室には私と先生しかいない。他の生徒は全員が帰宅し、私は一人で補修を受けている。
本当は、この時間まで生徒を残しておいてはいけないのだけれど、私は特別。
なぜなら私と先生は昔からの付き合いがある、端的に言えば幼馴染というやつだからだ。
家も隣同士、遅くなったとしても先生が家まで車で、送っていってくれる。
だから私はこの時間まで教室に残っている。
先生は、教卓の前から私の元へと足を進めてくる。
「どこがわからないの?」
黒髪を短く切り揃え、眼鏡をかけている先生は、私の机の前に来るとノートを覗き込んでくる。
「ここが、どういうことなのかわからないです」
嘘だ。
本当はこんな問題目をつぶってでも解ける問題ではあるし、私に補修なんていらない。
「うーんと、ここはこうして──」
先生は、淡々と説明を始める、私には必要ではない説明を先生らしくしている。
そんな先生に私は、声をかける。
「ねぇ
「あーはいはい、ありがとうね、私も好きだよ。けど学校では苗字で呼んでって言ってるでしょ?」
「いいじゃん別に、今誰もいないんだし」
「そういう問題じゃなくてね、まぁどうでもいいや、さ、早くこの問題解いちゃって今教えて方法で解けるはずだから」
私の気持ちは本気なのに、先生──優花ちゃんには届かない。
毎日のようにこうやって告白しているのに、優花ちゃんは軽くあしらってしまう。
だから私は考えた。
どうやったら本気で話を聞いてもらえるのかを──そして今日が決行の日だ。補修が終わるまでの少しの時間、私にしかできない方法で優花ちゃんを本気にさせてやる。
「優花ちゃん」
「なに? 早く終わらせようよ」
「優花ちゃんってさ、金髪の女の子好きだよね?」
その言葉で今までひっきりなしに動かしていた手を優花ちゃんは、止めた。
「突然なにかな
「誰もいないし、いつもみたいに
優花ちゃんは、学校以外の場所では、私のことを名前で呼ぶ、なのに学校に来た途端他人行儀だ。
「それは、まぁ学校だから建前上仕方なく──ってこれはどうでもいいの、なんで私が金髪を好きなんて思ったのかな?」
「だってこの前優花ちゃんの部屋行った時、同人誌っていうの? よくわかんないけどそれがいっぱいあって、しかもそれに描かれてるキャラクター全部が、女子高生金髪長髪貧乳だったんだよ。だから優花ちゃんって金髪が好きなのかなって思って」
「い、いつ?」
明らかに動揺している優花ちゃんの表情を見ていると、思わず笑みが溢れそうになったけどなんとか耐えきり答える。
「優花ちゃんが、叔母さんと話してる間に少し部屋を探索したら、すぐ見つかったよ」
「な、絶対に見つからないように隠したのに、なんで──」
恥ずかしい物を優花ちゃんが隠す場所なんて、私は全部知っている何年の付き合いだと思ってるんだ。
けれど優花ちゃんは私が、隠した場所を知っているということを知らないようなので、まだ隠しておくことにしよう。
「たまたまだよたまたま⋯⋯で、優花ちゃんは金髪が好きなの?」
優花ちゃんは、私の問いにコクっと小さく首を縦に振った。
「う⋯⋯うん。好きだよ、金髪」
案外あっさりと認めてしまったので、多少拍子抜けするけど、まぁまだ優花ちゃんを本気にさせる作戦は始まったばかりだ。
認めた優花ちゃんに私は、すかさず問いを続ける。
「じゃあなんで、優花ちゃんはこのクラスで金髪を禁止してるの? ウチの学校髪を染めるの禁止なわけじゃないのに、なんでこのクラスだけ禁止なの?」
「それはね──」
「もしかして優花ちゃん、金髪じゃなくて、女子高生の金髪が好きなの?」
「ちが──」
「本当は?」
否定しようとする優花ちゃんの耳元で、囁いた。
すると優花ちゃんは、頬を赤らめ観念したのか、またもやコクっと小さく頷く。
「好き⋯⋯女子高生の金髪が好き」
「そっか、優花ちゃんは女子高生の金髪が好きなのかー、そうかそうか⋯⋯うん? ちょっと待って、優花ちゃんの部屋にあった同人誌って確か、女子高生金髪長髪貧乳だよね?」
ね? 先生──と優花ちゃんに訊くと、優花ちゃんは無言で頷いた。
「このクラス極端に女子生徒が少ないのはもちろん優花ちゃん知ってるよね? その中でさ、金髪はいないから抜くとして、女子高生長髪貧乳って私以外いなかった気がするんだけど、これって──」
「ちが⋯⋯これは本当に違くて、その──女子高生の金髪が好きなのは本当で、それ以外はたまたま──」
「たまたま私の特徴と一致する物があったから買ったと」
「その通りです」
二度ある事は三度あるという文字通り、優花ちゃんは小さくコクっと頷いた。
「なるほどね、正直気持ち悪いし優花ちゃんじゃなかったら、警察に行きたいぐらいだけどまぁ今回は許すよ。けどさ一つだけ疑問があってさ、優花ちゃんはなんで髪を染めるのを禁止にしてるの? 禁止にしなければ女子は少ないけどクラスで一人か二人は金髪に染めたりするんじゃないの?」
「それはその⋯⋯」
モジモジしている、こんな優花ちゃんの姿を見るのは久しぶりだ。先生になってからの優花ちゃんは然としてキッチリしていたので、少し懐かしい気持ちになる。
「私が金髪にすると抑えが聞かなくなってしまうから?」
今度は小さくではなく、大きく頷いた優花ちゃん。
「正直今でもギリギリなの、毎日毎日二人だけの空間であんなアプローチされて、耐えてる方の私の身にもなってよ」
可愛らしく照れている姿の優花ちゃんに今すぐにでも抱きつきたい気持ちを抑える。
「ごめんね優花ちゃん、でも私本気なの──本気で優花ちゃんのことが好きなの」
「わかってるよ、相良の気持ちはよくわかってる──けど先生と生徒はダメなの、もし相良が卒業してそれでも私を選んでくれるのなら、その時もう一度言ってくれる?」
今度は私が小さく頷く番だ。
「わかったよ、それでいい。私はいつまででも優花ちゃんが好きだから」
「そう、私も好きだよ⋯⋯相良」
初めて目を見て、好きだと言ってもらえた。
そのことに私は、照れてしまう表情を隠しながら、一度息を鳴らした。
「話変わるんだけど、優花ちゃん」
「ん?」
「優花ちゃんの性癖をバラされたくなかったら、明日から私のこと名前で呼んで?」
一瞬顔を青くした優花ちゃんは小さく──
次の日。
優花ちゃんを見つけた私は、声をかけた。
「優花先生、おはよう」
「うんおはよう────」
優花ちゃんを本気にさせる作戦は、見事に大成功で終わったのでした。
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