勝負でいうことを聞かせようとする幼馴染百合
「
学校からの帰り道、疲れて今すぐにでも帰りたいので、早足で帰路についていた私に、幼馴染の
綺麗な黒髪を長く伸ばしている瀬良とは小学生の頃からの付き合いで、本当は一緒にいたくなんてないけれど、何故だかクラスまで常に同じなので、仕方なく一緒にいてやってる。
高校も瀬良と違う所を受験したはずなのに、瀬良はどこから仕入れた情報なのか私と同じ高校を受験していた。
そのことを知った時正直面倒くさくてしょうがなかったけれど、どうすることも出来なかった。
そんな別段好きではない瀬良が、また面倒くさいことを言い出したので、私はため息を吐く。
「はぁ⋯⋯嫌だ」
「なんでだよー、やろうぜ勝負、んで負けた方が勝った方の言うことをなんでも聞くってことでどうよ」
勝負だけでも面倒くさいのに、賭け事まで足してきた。
私はさらにため息を吐く。
「はぁ⋯⋯嫌だ。絶対嫌だ」
「そんな嫌がんなくてもいいじゃん、あーわかった私に負けるのが怖いんだー、紗季勝負事はとてつもなく弱いもんねー、昔から私に勝ったことなんてなかったような──」
「は? 勝ったことはあるし、何回も──なんなら勝ち越してるぐらいだし、多分」
私が瀬良の言葉を遮ると、瀬良はニヤっと笑みを浮かべた。
「でも、今回は勝負──やらないわけでしょ? ってことはだよ、紗季は勝負から逃げる、それってもう私の勝ちみたいなもんでしょ?」
「私、勝負しないなんて言ってない」
「え? なんだって?」
聞こえているだろうに、瀬良は耳に手を当て、聞こえていなフリで私を煽ってくる。
普段は、こんな安っぽい煽りを受ける私ではないのだけれど、今日はたまたまそういう気分だっただけだ。
だから言ってやろう。
「勝負受けてやるって言ってんだよ」
「あはは、やっぱり紗季は簡単に釣れるから楽でいいや、本当昔から負けず嫌いだからな紗季は」
笑い転げている瀬良に私は、睨みつけた。
「早く勝負の内容提示してよ、どうせ瀬良のことだから面倒くさいゲームでもするんでしょ?」
今までの数少ない経験談の元からの推測であって、決して数多くの経験談ではないということを知っておいてほしい。
私は、瀬良と勝負なんて全くと言っていいほどしたことなんてないのだから。
「んいや、今回は面倒くさいことはしないよ」
「じゃあなにすんの?」
「今回は、ジャンケンにしようと思う」
本当に面倒くさくなかったので少し拍子抜けしてしまう。
「ジャンケンか、ジャンケン? え? ジャンケンで本当にいいの? だってジャンケンって──」
「そうだね、ジャンケンで私は紗季に勝ったことはないと思う、けど今日の私は一味違うんだよ」
「なんかズルする気?」
昔から、大抵瀬良が圧倒的自信を持っている時は、ただのアホか、何かズルをする時と決まっている。
今回はどっちなのだろうか。
「んいや、ズルなんてしないよ。ただ私は、絶対に勝つ自信しかないだけさ」
ただのアホだったようだ。
これはもう勝ち確定だろう、だって今まで私は瀬良に負けたことがないのに、瀬良は何か策を用するわけではない。
そんな状況下で私が負けるわけがない。
だから私は、少しだけ調子をのることにする。
「じゃあこうしよう、勝った方は負けた方に好きなことをなんでも二つ聞かせられる、これでやろう」
「ふーん、そんな条件を足していいんだね紗季? 私絶対に勝つよ」
「そっちこそ、今の言葉は了承と捉えていいのかな?」
「ああ、それでいいよ」
瀬良の言葉から数秒沈黙が流れる。
長い数秒だった。
そして瀬良が、沈黙を破った。
「ジャンケン──」
私は、大きく握り拳を振り上げ、垂直に振り下ろす。
その時私は、握り拳を大きく開いた。
私は、パーを選んだのだ。
「ポン」
瀬良は、チョキを出していた。
私は、負けたのだ。
今日、今この時瀬良に初めてジャンケンで負けたのだ。
悔しいなんて言葉では到底足りないほどの、屈辱を私は今味わっている。
膝を崩させ、地面に腰を下ろしている。
対して瀬良は、私のことを見下していた。
「ははは、負け犬。悔しいか? 今まで勝ってきた相手に負けてしまうのは悔しいよな、そうだよな、しかも今回は自分で条件を付け足している、調子にのってしまって、しかも負ける。私だったら、耐えらないよそんな状況。ねー紗季、今どんな気分? 勝ってしまった私に教えてくれる?」
崩れ落ちいている私に、紗季はわざわざ目線を合わせて煽ってくる。
「ねーねー、どんな気分なの? 私勝っちゃったからわかんないよー」
「うっさい、早く命令言ってよ。どうせくだらないことでしょ? 私今日は早めに帰らないといけないから、すぐにできることの方がいいのだけれど」
早く帰らなければいけない用事なんて、私にはなかったけれど、私は今すぐにでもこの場から離れたかった。
「うーん、しょうがないなー。今回は聞かずにおいてやるよ──それで命令だけどさ⋯⋯私と⋯⋯手、繋いでくれる?」
「は?」
意味がわからない。
手を繋ぐ? 何故? なんの意味があるのか、私にはわからない。
「命令だよ」
そう言って瀬良は、左手を前に出した。
その時の瀬良の表情は、さっきまで私を煽っていた人とは思えないほどに頬を赤らめていた。
「命令って、瀬良が何をしたいのか全くわからないのだけれど」
「今はわからなくてもいいから早く、私の命令を聞いてよ」
もう一度手を突き出す瀬良。
「わかったよ」
意味がわからないけれど、私は瀬良の左手を握った。
握った──ただそこから何かがあるわけではなく、私と瀬良はそのままの状態で帰路に着く。
いつもの帰り道ならば、瀬良が一生無駄話をしているだけなのに、今日はその無駄話もない。
瀬良は頬を赤らめて、ただ歩いているだけだ。
本当になにがしたいのだろう。
そんなことを考えていると、私の家に着いてしまった。
「瀬良、もう私の家なんだけど、もう一つの命令聞いてもいい?」
瀬良が忘れているのならば、このまま私も忘れたフリをすればよかったのだけれど、それはなんとなく気分が悪かった。
「あーもう一つ、もう一つか⋯⋯じゃあこれでいいや」
私よりも背が小さい瀬良は、背伸びをして私の唇にキスをする。一瞬のことで、私の頭場真っ白になり、なにも反応することが出来なかった。
そんな私に瀬良は、頬を赤らめ照れている表情を必死に隠し、言った。
「命令──今日の二つの行動その意味を明日までに考えておくこと、もし間違えたら正解するまでこの生活が続くこととする」
私に指を指しながら言った瀬良は、言い終わると私の前から走り去って行ってしまった。
なんとか頭の中を元に戻した私は、呟く。
「なにその命令」
今日でおわらないかもしれない命令とかズルじゃん。
二つの行動の意味。
今日は徹夜になりそうだなと、負けず嫌いの私は思ったのだった。
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