太陽と月を作ったかもしれない幼馴染百合

 私とつきはいわゆる幼馴染というやつだと思う。昔からなんだかんだでずっと一緒に日々を過ごしてきた。けれど、別段仲がいいとかそんなことはなかった、会えばすぐに喧嘩が始まるし、会っていない時でさえ、お互いに相手のことで苛々している。

 そんな私と月は、ある日珍しく意見が一致したので、会議をしたいたのだけれど。

「それじゃあまずどっちが、人間が起きている時間、まぁとりあえず朝ということにするとして、その朝の時間を照らす物体を作るか」

「私は、その朝っていうのも気に入ってないけどね!」

 私の意見をとりあえず否定したいだけであろう月に私は、いつもながらに多少苛々しながらも返す。

「そうですか、ならもっといい名前でも言ってください」

「そんなの、別にないけどさ。けどなんかひなたに勝手に決められるのだけは嫌だ!」

「あー、はいはい、いつもの『私、本当は陽の意見に賛成だけど、素直になるの恥ずかしいようー』ってやつね」

 私が、月のモノマネをすると月は、一瞬だけ顔を顰めたけれどすぐに何か思いついたのか、笑みをこぼした。

「⋯⋯そっちこそ、いつも私を観察してご苦労様です。そんなに私のこと好きなら言ってくれればいいのに、『私、本当は月のこと大好きだけど、素直になれないようー』てね」

 嫌みたっぷりの言葉に、私は顔を引きつりながらにっこり笑顔を見せる。

「そんなこと一ミリも思ってませんけど?」

「えー? じゃあこれはなんですかー?」

 そう言って月は、映像を録音できる物を取り出して私に向けた。その物に映っていたのは私が寝ている姿だった。

「ちょこれ──」

 いつ撮ったの。そう訊こうとしたその時、映像の私が寝言を口にした。

『月ー。好きー』

 私はこの宇宙全ての熱が自分に集まっているかのような速さで、顔を赤く染め上げた。

 なにこれ! 恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい! こんな姿月に見られるなんて、死ねるレベルで恥ずかしい!

 一瞬で顔を赤くした私を見て月は、表情をニヤッとさせた。

「あれあれー? 陽さん、顔真っ赤にしてどうしたんですか? この映像に何か映ってましたかー? 私はたまたま撮っていただけなんですけどー。何が映ってたか説明してもらってもいいですかー?」

 私の耳元で囁くように煽ってくる月に、私は何も反論しようがなかった。

 卑怯だ。

 いつもいつも月は、私を脅す材料もとい私を煽る材料をどこからともなく入手してきては、私を辱める。

 その度に私は、思う。次こそは私が月を脅す材料を手に入れようと、けれど月はなかなかボロを出さないので、その願いは未だ叶ったことがない。

 本当に卑怯だ。

「あれー、何も聞こえないですけど、どうしたんですか、何が映っていたのか私に教えてくださいよー」

 まだ煽ってくる月に、腹パンでもしてやろうかとも思ったけれど、さすがにそれはやめておいた。

 私と月は、仲は悪いけれど、暴力での喧嘩というのはしたことがない。

「あー、うるさいな! 好きって言ってました! これで満足?」

「主語がないんですけどー、誰のことが、好きなんですか?」

「月のことが!」

 私は顔を真っ赤にしながら顔を月から逸らす。

「そうかそうか、私のことがねー。でもごめんねー、私別に陽のこと好きじゃなから」

 こいつ。

 月は、いつもこうだ。優位になった時には、必ず『好きなのは、あくまで私じゃなくて、あなたが私を好き』と言ったような感じで、上に立とうとする。

 ズルい。

 これをされると、どうしても私が負けてしまうのだ。

 けれど、今日は違う。

 いつもはここで私が、負けで終わるけれど、今日は策を考えてきた。証拠が手に入らないのならば、状況だけでも優位になっとくべきだろう。

「そっか、私の片思いかー。まぁしょうがないよね。こういうこともある。うん、しょうがない」

 私は目に涙を浮かべ、ちらりと月の方に目をやる。

 すると月は、慌てた様子を見せてきた。

「ちょ、なんで泣いてんの。いや、まぁそりゃ好きじゃないとは言ったけど、別に嫌いとは言ってないじゃん、むしろ好きというかなんというか、だから泣かないでよ」

 私は知っている。

 月が涙に弱いことを、月は昔から私が泣いていると弱気になるのだ。

 今までは、好きって認めるのが嫌だったからこの作戦は使えなかったけど、もうここまでばれたなら使っても大差なんて無いと思う。

 私のそばに寄り添ってきた月に私は、上目遣いを向ける。

「ホント? ホントに私のこと嫌いじゃない?」

「嫌い──ではないかな」

 濁す月に私は、さらに目を向け、圧をかけていく。ここで逃したら次またこの状況を作るのに苦労してしまう。もしかしたら次からは対策してくるであろう月には、通用しないかもしれない。

「好きって言って? そしたら許す」

「は? そんなのなんで、私が」

 もう一押し。私はそう感じとり目を大きく開き、月を見つめる。

 多分月から見た私の目は、幼子が親に向ける純粋で誰もが物を買ってしまうような可愛い目に、なっているはずだ。

 すると月は、一度息を呑み。心底恥ずかしそうに口を開いた。

「好き──だよ。陽」

 その言葉に、私と月は互い共が目を逸らした。

 私は言われている方も恥ずかしいものなのだと、この時初めて実感した。

 目を逸らし、また目を見る。そして恥ずかしくなりまた目を逸らす。

 そんなことを繰り返している間に、私と月の顔には笑顔が映し出されていた。

「なんか、恥ずかしいね」

 私が照れ隠しの意味も込めて、頬をかきながら言うと月は、嬉しそうな笑顔を向けてきた。

「うん、恥ずかしい、けどなんか嬉しい気もする」

「確かに、私もなんか嬉しい」

 私はそっと月の手を握った。

 月の手はとても暖かく、とても握っていて気持ちのいい、落ち着く手のひらだった。

 私は月に微笑んだ。



 その後家に帰った私は、思い出した。

「今日決めなきゃいけないこと決めてなくない?」

「確かにね。まぁいいんじゃない、こんな日もあるって」

「そうだね、明日決めればいいか」

「そうそう、明日でいいよ」

 そんな仲良しな会話している私と月の表情は、まるで太陽みたいに明るく、月みたいに確かな光を持った笑顔をしていた。

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