世界滅亡後の幼馴染百合

 むかしむかし世界は滅亡しました。

 突然の出来事で、頭がいい人も、偉い人も誰もこの世界を救うことはできませんでした。

 そんな話を私はお母さんから聞きました。

 お母さんは、私にこう言いました。

「この話忘れちゃダメよ」

 だから私は忘れないようにしました。

 それからお母さんは死んでしまいました。

 私がまだ小さかった頃です。

 私は泣きませんでした。

 なぜかと言うとお母さんが死ぬ前に言っていたからです。

「もしお母さんが死んでも、泣かずに強く生きなさい」

 だから泣きませんでした。

 私は強く生きるそう決めました。


 それから数日後家を出た私は、私と同じぐらいの背丈をした女の子に出逢いました。

 私が名前を聞くと女の子は答えてくれました。

沙月さつきっていうの、あなたは?」

 聞かれたので私も答えます。

凪沙なぎさです、沙月はどうしてこんなところにいるの?」

 沙月が座っていた場所は、紙の束がたくさん落ちている場所でした。

 私はなんとなくでここまで歩いてきたので、目的があるわけではありません。けど沙月には何か目的があるように思えました。だから聞きました。

「私、本が好きなんだ。だからお母さんから聞いてた本がいっぱいある場所に来てみた。読めない文字はいっぱいあるけど、好きなんだ」

 私は沙月の言っていることが、わかりませんでした。だから首を傾げます。

「本? 本って何?」

 すると沙月は驚きました。

「本知らないの? ここに落ちてるのが全部本だよ」

 そう言われ私は、足元にあった紙の束を一つ手に取りました。それから適当に紙をめくりました。

 よくわかりませんでした。

「これでどうやって生きていくの?」

 私は聞きます。

 強く生きないといけないから。

 すると沙月は、少し考えてから言いました。

「どうやって、うーん。本にはね、いろんなことが書かれてるんだよ。例えばこの図鑑っていうのには、いろんな生き物のことが書かれてて食べられるものとかも書かれてるから生きていくためには、必要でしょ?」

「うん」

「それでねこっちの漫画っていうのには、いろんなお話が描かれてるの、最初見たときは生きてくのに必要ないかなーって思うんだけど、ずっと見ているといろんなことを教えてくれるんだよ」

「ふーん」

「でねでねこっちの本には、って凪沙聞いてる?」

 うとうとしてしまっていた私の頭を、沙月が起こしました。

「ごめん聞いてなかった」

「もう聞いててよ、まぁいいや沙月は多分本には興味ないんだろうね」

 図星をつかれて私は動揺しました。

「う、うん、ない」

 私がそう返事を返すと、沙月は少し気を落としました。

 そんな沙月に私は、一つ提案します。

「ねぇ沙月、私と一緒に行かない? 沙月が頭動かして私が体動かすどう? いいと思わない?」

 私が聞くと今度の沙月は考える素振りは見せずに、即答でした。

「いいねそれ、私体動かすのあんまり得意じゃないからどうしよっかなって思ってたんだ」

「じゃあ決まりね。これから私と沙月は友達ね」

「うん、友達」

 私は片手を出しました。

 沙月も片手を出しました。

 私たちは握手をしました。

 そして私は笑顔を見せます。

「これからよろしくね、沙月」

「こちらこそよろしく、凪沙」

 その後本がたくさん落ちている場所から、移動することになりました。

 元から持っていた荷物の他には何も持っていない私とは真逆に、沙月は両手にたくさんの荷物を持ちました。

 けど私にはどうしてもいらない物に見えたので、言ってみます。

「その本でもない、食べ物でもないもの重いだけじゃない? 置いていったほうがいいよ」

「そう? まぁじゃあそうしようかな」

 そう言って沙月は、それから手を離しました。

「とりあえずの目的は生きるための食料と水ね、その辺が揃ったらなんか面白いものでも探そ」

「うん、了解」

 元気よく返事をした沙月の手を、私は握りました。

 手を繋ぎます。

「なんかいいねこれ」

 沙月も喜んでいるようです。

 沙月が、笑顔だと私も笑顔になれます。

 私たちは出会ったばかりだけれど、もういいコンビになれたのかもしれないです。

「じゃ行こっか」

「うん」

 そして私たちは歩き出しました。

 後から聞いたのですけれど、沙月のお母さんも死んでしまっていたそうです。


 

 それから数十年色々な所に行きました。けれど誰かに会うということはなく、ずっと二人での旅でした。

 そんな私たちは、一旦住居を設けてそこで暮らすことにしました。

 私たちが住んでいる場所は、小さな家でした。ツタが絡まっていて見るからに誰も住んでいなさそうな家でした。

「たいまー」

 家の中で本を読んでいた沙月は、私が帰ってきたことに気づくと、本から目線を外してゴムで縛っていた髪を解いてから私の方を見ました。

「おかえりー、変な略し方しないでちゃんとただいまーって言って」

 私は近くの建物から取ってきた食べ物を机に置き、えへへーと笑みを浮かべます。

「ごめんごめん、まぁいいじゃんたまにはさ変なことしたってさ」

「たまには、ね。まぁいいやそれで今日のご飯は何を取ってきたの?」

 聞かれ私は、自信満々に袋から食べ物を取り出しました。

「今日はねー、これ。乾パン!」

 乾パンを見て沙月は、笑顔になりました。

「乾パン! ごちそうじゃん! いつもありがとうね凪沙」

 そう言いながら沙月は、私に抱きついてきました。

 なんか本で読んだようで、沙月は感謝を伝えるときよくこうして抱きついてきます。

 私も別に嫌な気持ちにはならないので、逆に抱きついてやります。

「こっちこそいつもありがとう、沙月」

 私たちはは微笑んでから、乾パン食べ始めました。

 乾パンを食べ終わった私たちは、隣同士眠りに入ります。

「沙月はさ、なんで世界は滅びたんだと思う?」

 眠る前の雑談タイムです。

 話したいことが、ある場合適当に話す時間です。

 いつ寝てしまっても構わない時間です。

「うーん、なんだろ、ウイルスとかじゃない? 漫画で読んだだけだけど」

 沙月はたまに難しいことを言います。

 沙月は本を読んでいるので、私より知識があります。だから私は、わからないことは沙月に聞きます。

「ウイルス? ウイルスって何?」

 すると沙月は、少し考えてから私にもわかりやすいように説明してくれました。

「ウイルスっていうのはね、簡単に言ったら体に入る悪いものだよ。最悪のものだと体に入ってその人のこと殺しちゃうんだよ」

「うえーそんな怖いものがあったんだ。でもそれって頭いい人が消しちゃうんじゃないの?」

「確かに、私が読んだ漫画でもなんかワクチンってやつで、大丈夫になってたな。じゃあなんでなんだろう。凪沙はなんでなんだと思う?」

「私? 私はー、わかんないや。だって沙月にわかんないこと私にわかるわけないもん」

 えへへーと頭の後ろを掻きます。

 すると沙月も微笑みました。

「えー、なにそれ確かにそうかもだけど、もうちょっと考えようよー」

「無理無理、私にはわかりっこないよ」

 そう言って私はうわぁーーと、あくびをしました。

 なんだか難しい話をしていたら、眠くなってしまいました。

「寝よっか、それじゃあおやすみ」

「うん、おやすみ」

 挨拶を交わして私たちは最後に顔を近づけて、キスをしました。これも沙月が本を読んで知ったことらしいです。

 キスをするとなんだかよく眠れる気がします。だから寝る前に毎日しています。

 キスが終わると私たちは、微笑んで眠りにつきました。


 この後、私と沙月は死ぬのかもしれないし死なないのかもしれない。この世界がなんで滅んだのかわかるかもしれないしわからないのかもしれない。

 そんな何もわからない物語だけれど、一つだけ確かなことがある。

 それは私と沙月は、この後もずっと一緒に過ごすということだ。

 仲良く過ごす。

 それだけ。

 それだけわかればいいのかもしれない。

 だって一番大事なのは、生死でもなければ滅んだ理由でもない。

 一番大事なのは──なのだから。

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