世界最後の日の幼馴染百合
一週間前、突然一週間後にこの世界は終わるというニュースが世界中を騒がせた。
こんな突拍子もないニュース誰も最初は信じては、いなかった。
けれど一日また一日と日が進むにつれて、ニュースの信憑性は高まっていった。
最初はただのオカルト話だったものが今では、誰もが周知している事実へと変わっていった。
世界最後の日前日、私は近所の公園へと足を運んでいた。
なんとなくだった。
なんとなく最後に目に焼き付ける光景は、家で家族と過ごしている姿じゃなくて、このなにもない公園で過ごしている姿にしたかった。
あと数時間でこの世界は、終わりを告げる。そんな大事な時間に家族と過ごすのではなく、こんな公園に足を運ぶのなんて日本中を探しても私だけではないのだろうか。
なんて考えていると、私の顔には笑みが浮かんでいた。
自嘲の笑みだった。
そんな笑みをこぼしながら私は、この公園唯一の遊具であるブランコに腰を下ろした。
古びていて所々錆びついているブランコを漕ぐと、ギーコギーコと変な音が鳴る。
時々ブランコを漕ぎたまに笑みをこぼしていると、一人私のよく知る人物が公園に息を切らしながら足を踏み入れた。
「なんで来たの?」
私の横のブランコに腰を下ろした幼馴染に、私は口調を強めながら目を向けた。
「別に、理由なんて特にないわ。なんとなくよ、なんとなく」
私と同じ理由でここに来た長く綺麗な銀髪白髪の少女は、私の幼馴染。
名前は、
一応幼馴染ではあるものの、特に仲がいいわけではない。むしろ悪いぐらいだ。
灯里とは幼稚園時代からの腐れ縁。
小学高の時は常に同じクラス、中学高も常に同じクラス、やっと別々になれると思った高校でも何故か同じ高校に通っていてしかも同じクラス。
少しだけ縁が強いだけの、ただの腐れ縁。それが私と灯里の関係性。
「そう、てっきり私を探して走り回ってたのかと思った」
私は灯里をからかうように声をかける。
「はぁ!? なんで私があんたなんかを探さないといけないわけ? 言ったでしょ、私はなんとなくここに来ただけだって」
明らかに動揺を隠せていない灯里は、そう言い終わるとフンっと私から目を逸らした。
「そう、そんなデレデレな顔で否定されても説得力なんてありはしないよね」
「デレデ──はぁ? 照れてないし、あんたなんかに照れなんて見せたことないし、そんであんたはなんでニヤついてるのよ!」
私は灯里に指摘されて初めて自分が、ニヤついていることに気付いた。
「いや、なんか可愛いなって」
私はあどけない表情で、灯里を見つめる。
「か、かわいいって、そ、そんなこと」
すると灯里は、手で顔を隠し始めた。
私には、見せられないような表情をしているのだろうか。
「灯里は昔からそうだよね。本当に照れるとそうやって顔を隠すの、癖でしょそれ」
ただの腐れ縁であったとしても、ずっと一緒にいると相手の癖の一つや二つわかってしまうものだ。
私たちの関係は、親友でもなければ友達でもない、ただ何故か一緒にいる関係それが、私たち。
数分経っても顔を隠し続けている灯里に私は、そっと投げかける。
「この公園昔はもうちょっと、遊具とかあったよね」
昔というのは私たちが、幼稚園生の頃の話。ここにはよく遊びに来ていたのだ。
この公園は私と灯里にとっての、思い出の場所。
だからかもしれない、自然とこの公園に足が進んだのは。
「工事とか子供が怪我をしたとか、そういう色々な理由でほとんど撤去されちゃったからね」
いつのまにか素の状態に戻っていた灯里は、俯き悲しそうに微笑む。
灯里にとってもここは思い出の場所、そりゃこんな無惨な形になってしまえば悲しくもなる。
「そっか、そういう理由だったのか、私ここ久しぶりに来たからそんなこと全然知らなかった。あーよかった世界が終わる前に知れて」
「⋯⋯」
私は灯里の沈黙を遮るように、気分を変えるために一旦背伸びをしてから、灯里に話しかける。
「灯里はさ、世界が終わる前になんかしたいことないの?」
「⋯⋯ない」
「その間はなに? 本当はなんかあるんでしょ」
嫌らしい顔をして私は格好の餌を見つけたとばかりに、飛びつく。
「ない、ないって言ってるでしょ」
「ホントは?」
「ないわよ、もうそんな顔にはして近づいてくるな!」
「私灯里のことはそこそこはわかってるつもりだけど、こういう時の灯里は大抵隠し事してるんだよね」
「⋯⋯隠し事なんてない! 最後にあんたとキスしたいなんて思ってない! あっ」
あっじゃないよ、何このご都合主義展開、こんな状況で言い漏らす奴現実にいるの?
私は灯里に近づけていた体をスーッと下がらせ何事も無かったかのように、ブランコに腰を下ろす。
今灯里は、私とキスがしたいって言ったよね。
うん多分間違いなく言った。
なんで? 私たちただの腐れ縁。そんなキスとかしたいって思う関係じゃないよね?
私はフーっと息を吐き、一旦気持ちを落ち着かせる。
灯里とキス──。
隣では、体から魂が抜けてしまったように放心状態になっている灯里が天を見上げている。
そんな灯里に私は一歩足を進める。
すると灯里は放心状態から戻り、肩をビクッと震わせた。
「な、何よ」
強がりを見せる灯里に私は、微笑みかける。
「キス、する?」
私はもう一歩足を進める。
あともう一歩足を進めれば唇に触れられるほどの距離で、私は灯里の反応を待つ。
灯里は頬を赤らめる。
灯里の吐息が鼻筋に触れる。
そして灯里はコクっと頷いた。
私はゆっくりともう一歩足を進める。
灯里の肩に手を置き灯里を引き寄せ、私は灯里の唇に触れた。
とても不思議な気持ちになる。
まるで浮きそうなほどに体が軽い。
今ならば空も飛べそうだ。
「ねぇなんで灯里は私とキスしたかったの?」
キスが終わりお互いブランコに座った時に私は、灯里に聞く。
すると灯里は、今までなら照れ倒していた所なのだけれど、今回は素直に答えてくれた。
「なんで? なんでだろう。好きだからかな」
「え? 好き? 私のことが?」
戸惑いを見せる私に灯里は、何を今さらというような表情をする。
「え? うん。私あんたのこと好きよ、逆に気付いてなかったの? 私散々アピールしてるつもりだったのだけれど」
「そんなアピールなんて──」
思い出してみると、思い当たる節が大量に出てくる。
途端恥ずかしさが私を襲う。
あれだけアピールされていて気づかない私の鈍感さに、恥ずかしさを感じる。
「あったでしょ?」
「はい、色々ありました」
「そっかー、私のアピールなんて気づかれない程度のことだったのね」
言葉の重石が私にのしかかる。
「いや、そんなことは⋯⋯ないと思う」
「いいわよ別に、私が気付いて欲しくてアピールしてただけだから、まぁでも今後は気づいて欲しいかな。私のアピール」
すると灯里は、私の袖口を引っ張る。
ん? と私は首を捻ると、灯里は、顔を近づけ私の唇に触れた。
「これが今後私がするアピールだからね。覚えといてね──
灯里に名前を呼ばれたのは、いつぶりだろうか。
凄く久しぶりな気がする。
私は灯里にうっとりとした表情を向けた。
友達でもなく親友でもない私たちの関係性は、恋人へと変わっていった。
そして次の日、この世界は滅びたのだった。
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