おまじないで気持ちを伝えようとする幼馴染百合

 私は昔からおまじないというものが、好きだった。

 おまじないをしていれば、何故だか幸せになれる気がしていた。

 そんな私も気づけば花の高校生。JKというやつになっていた。

 正直中学生時代は、根暗でクラスでも常に端に座っているような女の子だったけれど、私のそばにはいつも太陽のように私を照れしていてくれる幼馴染がいた。

「聞いてる? おーい朝陽あさひ?」

 太陽のような女の子、日向ひなたに呼ばれ私は、ふわふわ浮いていた意識を自分の中へと引き戻す。

「あ、うん聞いてるよ、えーと、えーとなんだっけ」

 とっさに嘘をついてとっさに聞いてなかったことを認める私に、長く伸ばした綺麗な黒髪が特徴的な日向は優しく微笑みかけてくれる。

「もう、聞いてないじゃん。だからね、もうすぐ朝陽の誕生日でしょ? 朝陽は誕生日なにが欲しいのかなって聞いてたんだけど、何が欲しい?」

 もうすぐ日向と出会って十年ほどが経つけれど、日向は毎年私の欲しい物をくれるのだ。

 時には私の欲しいゲームソフト、時には私の欲しいぬいぐるみ、時には私の欲しいスマホまでもくれた時もあった。

 毎年これだけの物を貰っていると思うのだけれど、もう日向からなら何を貰っても嬉しいのだ。

 だからここ近年は誕生日直前まで悩み倒して、やっとこさ決める形になっている。

「日向がくれる物ならなんでもいいよ」

「それが一番困るよ、私は、朝陽が欲しい物をあげたいの、だから教えて?」

 ここで私は、日向が欲しいなんて言ったら日向はどういう反応をするのだろう。

 照れるのだろうか、それとも「私も」とか言って情熱的な展開になるのだろうか、想像が捗る状況に、またもふわふわ飛んでいってしまいそうな意識をなんとか体に封じ込める。

 そんな雑談をしている内に、授業の開始を告げるチャイムが教室に鳴り響いた。

 すると日向は、今まで私側に向けていた椅子を自分の席に戻し、眉根を寄せて真剣な表情で言うのだった。

「ちゃんと決めといてよ」

 はーい、と返事をして私も椅子の位置を戻す。

 誕生日に欲しい物、日向が欲しいって言えちゃえば楽になれるのだろうけれど、私にはそんな勇気はない。

 だからこっそり伝えよう。

 好きだって気持ちは。


 作戦はこうだ。

 まず日向の消しゴムを盗む。

 そして消しゴムがないことに気づいた日向に、私の消しゴムを貸す。

 けれどその消しゴムはただの消しゴムではない。

 人間誰しも聞いたことがあるだろう。消しゴムに好きな人の名前を書いて使い切れればその恋は、成就するという噂話を。

 私はそう言った噂話、おまじないが大好きなので、もちろん自分の消しゴムには日向の名前が書いてある。

 その消しゴムを日向に貸し、なんとか消しゴムのカバーを取ってもらい、消しゴムに書いてある日向の名前を見てもらい、こっそりと好きだってことを伝える。

 これが私の作戦。

 少し粗はあるけれど、概ね成功する見込みだ。

 そのために私は今日、日向が席を離れたタイミングを見計らって、日向の筆箱から消しゴムを取り出して置いた。

 そしてとうとうその時がやってきた。

 日向は書き間違いをほとんどしないのか、最後の授業の時間まで消しゴムがないことには気付いていない様子だった。

 本当は最初の授業にでもやろうと思っていたのに、とんだ計算違いをしてしまった。

「日向」

 私は先生に気づかれないぐらいの小声で、日向に声をかける。

「ん? どうした?」

 私の声に気づいた日向も、小さく声をだす。

「これ使って」

 そう言って私は、消しゴムを日向に手渡した。

「いいの? ありがとう」

 ここまでは作戦通り、意外と私には策を練る才能があるのかもしれない。

 そこからの私は、いつ日向がカバーを外すのかが気になって気になって、授業に集中ができなかった。

 けれど日向は授業終了五分前になっても、カバーを外すような動作は一切見せなかっ

た。

 今考えてみればそりゃそうだ。

 人から借りた消しゴムのカバーを外そうとするやつなんて、いるわけがない。

 それが例え大親友から借りた消しゴムであっても。

 私には策を練る才能はなかったようだ。

 けど私は諦めない。

 私は、ノートを切り取りその切り取ったノートの切れ端に一言文字を書いた。

 そして切れ端を日向の机にこっそり置く。

「これなに?」と言いたげな表情の日向に私は、早くその紙見て、となんとか表情だけで伝える。

 数分前から、授業を担当している先生に睨まれていて、これ以上は喋れないのだ。

 そんな私の表情は見事に伝わったようで、日向はすぐに髪を開いてくれた。

 これが幼馴染パワー。

 日向は、紙を見た後、怪訝そうな表情をしながらも消しゴムのカバーを取り外してくれた。

 そして消しゴムに書いてある名前を見たその時の日向の表情は、硬くまるで石のように動かなくなるぐらいに無表情になっていた。

 この表情が嬉しさを表している表情なのか、はたまたその逆の哀しさを表しているのか私には、わからなかった。


 授業が終わった直後。

 日向は私の肩を叩いた。

「朝陽の誕生日に欲しいはもう、わかったから考えなくてもいいよ」

 そう言って日向は、教室から出ていくのだった。

 そして教室には、首を傾げる私の姿だけが残った。

「私誕生日のことなんて言ったっけ?」

 鈍感な私だった。



 

 蛇足。

 消しゴムの文字を見た時の日向の気持ち。


 はぁ!? これってあれだよね、よく漫画とかにあるあのおまじないだよね、そうだよねきっとそうだ、だって朝陽おまじないとか好きだしこういうこっそり伝えるのとか凄い朝陽っぽいし、え? ちょっとまってってことは朝陽私のこと好きってこと? 私なんかを朝陽は好きになってくれたってこと? はぁ? なにそれマジで朝陽天使では? いや朝陽はいつも天使なんだけどもう、それを再認識できるぐらいには天使では? 誕生日に欲しいの私だよね? なんて聞けないよ、恥ずかしい、しょうがないさらっと言おうさらっとね。


「朝陽の誕生日に欲しい者はもう、わかったから考えなくてもいいよ」

 これで伝わったよね。

 うん伝わったはず。

 あー誕生日楽しみだなー!

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