絵師とオタクの幼馴染百合
「
昔から隣にいてくれる幼馴染の
「これあたし? 上手いー! もっと描いてよ〜!」
そんなやりとりをして数十年後、私と栞は高校生になった。
高校生になった栞は、大人びた雰囲気を醸し出すようになった。髪は長く伸ばし、胸も大きくなり、化粧なんかもしだした栞は私なんかとは真逆な成長をした。
この前なんか、一日で十人もの男子から告白されるぐらいには、クラスの人気者だ。
そんな人気者の幼馴染である私は、一言で言ってしまえば地味だ。髪も肩ぐらいまでの長さ、眼鏡をかけて、休み時間には誰とも話さずに一人黙々とラノベを読んでいるような女子だ。
もちろん友達なんて栞以外にはいないし、その友達である栞も最近は色々と忙しいらしく私にはあまりかまってくれない。
二人で遊んだのは、先月公園のベンチの上で、何気ない会話をしたのが、最後のはず。
その時なりゆきで、恋人繋ぎをしたのは少し恥ずかしいけれど、いい思い出だ。
そんな見事ぼっちになってしまった私は、今日も一人で家に帰り、PCの電源を入れた。
ぼっちの私が家に帰って最初にすることは、イラスト投稿サイトの確認、新しいイラストが上がっているか、はたまた昔のイラストを遡ってみたりやることは多い。
イラストを見ているだけで優に時間は過ぎ、あっという間に夕ご飯の時間になるなんてことは、日常茶飯事だ。
けれど今日は、いつもよりも数倍時間の流れが、早くなった。
「うわぁーーー」
私の目は輝いていることだろう。まるでなんでも感動できていた幼少期に、戻ったような感覚。
そんな感覚になるほど今私が、見ているイラストは美しかった。
同じ制服を着た女子二人が、公園のベンチに座り恋人繋ぎをしている、そのイラストは言葉にならないほど綺麗だった。
「尊い」
その言葉に私の感想は、全て集約されていた。
逆に言えば、このイラストに対する私の感想(千文字程度)を一言で表せる尊いという言葉が、とてつもなく凄いのではないだろうか。
私はすぐさまマウスを操作して、このイラストの投稿主の名前をチェックした。
「SIORI」
幼馴染と同じ名前だった。
栞は今でもイラストは描き続けてるはずだけど(恥ずかしいとか言って私には見せてくれない)まさかそんな、私が恋したイラストを私の幼馴染が描いているわけ──。
その時呼び鈴が鳴った。
私は慌てて立ち上がり、玄関に向かった。
玄関の扉を開けると、そこには栞の姿があった。
栞は片手を上げて笑顔で挨拶をしてきた。
「突然ごめんね、今時間ある?」
「え、あ、うん別に大丈夫だよ。暇だし」
突然の出来事で、戸惑いを隠せはしなかったけれど、なんとか返事を返すことはできた。
昔は、どちらかが片方の家に突然行って、そのまま遊ぶなんてことも多々あったけれど、最近はそんなこともめっきり無くなっていたので、私は戸惑ってしまった。
まぁ私にとって栞といられる時間は、至福以外の何者でもないので、喜んで栞を家に上げた。
先に栞を二階に上がらせ、私は飲み物を持って二階に上がっていく。
何年ぶりだろうか栞が私の部屋に来るなんて。
「お待たせ」
扉を開くと、栞が私のPCを弄っていた。
まさかと思い近づいてみると、栞は私のいいね欄を凝視して、軽くガッツポーズまでもしていた。
たちまち私の顔は赤くなり、慌てて栞をPCから引き剥がす。
「人のプライベートを覗かないで!」
「ええー、いいじゃん別に幼馴染の趣味を知りたいって思っても」
私は栞の言葉を遮る。
「よくないの!」
だってだって、私がいいねしてるイラストって、ほとんどが、幼馴染の百合なんだもん。
そんなのがもしリアルの幼馴染にバレたりなんかしたら、引かれるに決まっている。
「けど意外だな〜、色が百合が好きだったなんて」
もうバレていた。
手遅れだった。
さらに栞は、私に追い討ちをかけるように、それにと付け加えた。
「幼馴染百合が好きだったなんてね〜」
「それはその、違くて、違わないけど、その」
あぁー終わった。
絶対に引かれる。
最悪嫌われてしまうかもしれない。
唯一の友達を私は、無くしてしまうかもしれない。
栞は首を傾げている。
「別に私引いたりしないよ、色がどんな趣味嗜好を持っていようと、私の中で色は色だからね」
「ホントに? ホントに引いたりしない?」
「うんうんホントホント、だからさ、色が好きなイラスト教えてよ」
私は満面の笑みで、返事を返す。
「うん!」
それから私は、栞に自分が好きなイラストを教えていった。
自分がイラストにハマるきっかけになった物から、初めて画集を買ったイラストレーター、その他諸々教えて最後に、今日発見した今までで一番好きなイラストを栞に見せた。
「これがね、私の一番好きなイラスト!」
「こ、この絵のどど、どこが好きなの?」
なんか妙にうろたえている栞を横目に見ながら、答える。
「どこがって聞かれると長くなっちゃうから困るけど、直感で感じたのは、似てるなって感じ」
「似てる?」
「うん、似てる。私と栞になんか雰囲気が似てるなって」
「そう、それならよかった」
よかった?
とても嬉しそうな表情を浮かべている栞に私は、聞いてみる。
「よかったって、なんで?」
すると栞は、戸惑いを隠せずに、うろたえる。
「ち、違うの、そのよかったって言うのは、その、違くてその、その、はい、私が描きました」
「ホントに? これ栞が描いたの?」
私は思いがけない告白で、栞の肩を掴みながら食い気味に質問をした。
すると栞は、小さくコクっと頷いた。
「私が描きました」
「なんで、なんでもっと早く教えてくれなかったの? イラスト描いてることは知ってたけどさ、全然見せてくれなかったじゃん! 見せてくれたらもっと応援したのに」
「それはその、恥ずかしかったから」
そう言いながら栞は、マウスを操作し始め、栞自身のマイページへと飛んだ。
そこに写っていたイラストは、全て幼馴染百合のイラストだった。
「私も絶対引かれると思ってたから、言い出せなかった」
私と同じ理由。
納得せざるを得ない、だって絶対に引かれると思うもの。私がそうだったように栞も同じだった。
「そっか、それならしょうがない。だけどこれからは、応援できるよ。私の一番の絵師さん」
「ありがとう、私の一番のファンさん」
それから過去絵を何枚か見ていると、共通点に気付いてしまった。
「栞このイラストたち全部、私と栞がしてきたことっていうのは勘違い?」
栞が描いてるイラスト全部が、私と栞の思い出の出来事だった。
「勘違いではないかな」
恥ずかしい。私のプライベートをこのイラストを見た全員が覗いているような感覚が、私の中に押し寄せてくる。
だからだろう、私があの絵を見てなんだか似たような雰囲気を感じると思ったのは、そりゃそうだずっと私と栞を栞は描いてきたのだ。似ないほうがおかしい。
「そっか、勘違いじゃないの、まぁいっか正直恥ずかしいけど、なんか一生残る思い出が増えたみたいで嬉しくもあるし」
「ホントに? 許してくれる?」
「許すも何も、むしろこのまま私たちの思い出をイラストにしてほしいほどだよ。私にとっては写真よりも栞が描くイラストのほうが価値あるしね」
私は申し訳なさそうにしている栞に、大丈夫だよと言うような笑顔を向ける。
「わかった、私このまま絵描き続けるね!」
埋めてて顔を、小面に戻し表情を笑顔にした栞は、手をもじもじさせながら呟いた。
「そこで、お願いなんだけど」
栞が描くイラストの手伝いができるならと、私は何も聞かずに返事を返した。
「栞のお願いなら、なんでも聞くよ」
胸をトンと叩く。
すると栞は、ふわぁーっと花が開くような笑顔で、予想外のことを言い出した。
「ありがとう! お願いって言うのはね。私十八禁のイラストを描いてみたくて、その手伝いをしてほしいなって」
栞の言葉で、私は額に汗を垂らす。
「それって、つまり」
「そう色、私と──えっちしよ」
私はこの日、人生初めてのえっちをすることになった。
それも幼馴染と。
これが私の新しい思い出に、なったのだった。
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