SS バレンタインの幼馴染百合

 私はバレンタインの前日に骨董品店へと、足を運んでいた。

 半年ほど前にここで、幼馴染が鈴を買ってからというもの、私と幼馴染の間では何故だか来てしまう場所に認定された。

「おばあちゃん、なんか美味しいチョコの作り方が載ってる本とか売ってないの?」

 毎週のように通っている私は、ここの店主のおばあちゃんとは仲良しだ。

「そんなものあるわけないだろ、ささっと帰りな。あんたと白は客じゃないんだから」

 白というのは私の幼馴染の名前で、私の恋人でもある。

「いいじゃん別に店にいたってさ、だってこの店誰も来ないじゃん」

 この店は、いつ来ても私と白以外のお客さんが誰もいない。

 まるで私と白のためだけにあるお店のような気が、してしまう。

「あんたたちがいない時は、客いるんだよ。ほらささっと帰れ帰れ」

「はーい、わかりましたよ」

 時計を見るとそろそろ帰らなければまずい時間だったので、私はおばあちゃんに一言告げて店を後にする。

「またくるね、おばあちゃん」

 するとおばあちゃんは、顔をムスッとさせる。

「もう来るんじゃないよ」

 本当は寂しいくせにー! そんなことを心中で、考えながら家に足を向けた。


 次の日 バレンタイン当日。

 私は自分の部屋のベランダから、隣の家のベランダへと飛んだ。

 初めて飛んだ時は恐怖で震えていたけれど、今は慣れたもんだ。

 トンと着地したら、ガラスをトントンと数回叩く。

 すると中から声がして、ガラスの扉が開かれた。

「もう普通に玄関から入ってきてよ」

 黒髪で長く綺麗に伸びた髪。整った顔立ちの彼女が、私の幼馴染兼彼女の白雪 白。

 私が世界で一番好きな人だ。

 少しムスッとしている白に私は、適当に謝り部屋へ入る。

「ごめんごめん、こっちのほうが楽だから、ついね」

「本当に気をつけてよ。怪我なんてされたら嫌だからね」

「了解ー」

 そんな雑談をして、落ち着いた頃に私は、ポケットからチョコを取り出した。

「はいこれ」

「ん、ありがとう」

 私たちにとってバレンタインって、正直特別な行事でもなんでもない。

 だって毎年のようにチョコ渡しあって、毎年のように一緒に過ごしてると、特別感はどうしても薄れてしまうものな気がする。

「じゃあ私からも、はい」

「あ、うん。ありがとう」

 こんな感じで交換は終わり。

 これが私たちのバレンタイン。

 どれだけ雑かろうと、どれだけ薄かろうと私たちは、これでいいのだ。

 だってお互い、お互いがいればいいのだから。

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